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最後のピエロ  作者: ハロル・ロイド
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Xの過去

 ミスターXの窪んだ眼窩は時折、暗い影を成して瞳を閉ざす。

この男が死神だ。と、誰かが叫べば疑う者などいないだろう。

その風貌を見慣れた部下でさえも、男が見せる一瞬の表情に恐怖を抱く。


 Xは目の前の部下を一人一人眺めながら囁くような語り口で話しかけた。



「いつの日からか、我々の組織は三つの層に分かれた。君達、S群の者、その下のA群の者達、そしてB群。この棲み分けは諸君達が死ぬまで変わることはない」

 Xの表情に感情はなかった。あるとすれば、微かな言葉使いのイントネーション、そして冷たい視線ぐらいだ。



「ところで、なぜ君達がS群に選ばれたのか、知ってるかね」



「私たちの方が優秀だという事でしょうか」少し、遠慮気味に三浦幸代が答えた。


「そのとおりだと言いたいが、残念ながらそうではない。君たちは生まれる以前からすでにS群なのだ」



「生まれる前から?、それは、どういうことでしょうか」

水木はXの眼に光が失せる気配を感じた。


Xは、ベッドの上で座禅を組むような姿勢で自分の手を見つめ始めた。左手を下に重ねたXの指は微かに震えている。

数年前から震えは全身に起き歩く事さえままならない。薬のおかげで何とか抑えてるが、指の震えだけは残っている。




「わしには息子がいた。終戦間近の慌ただしい最中に生まれた、たった一人の息子だった。ひ弱で病気がちな子供でな。

あの物資が困窮した時代を何とか生きながらえたのはわしが軍部の重要なポストにいたおかげだった。

生活に困ることなく、かかり付けの専門医もいた。敗戦後、我々の生活は一変した。今までの軍国主義の国が一夜のうちに平和主義の国になったのだ。

戦争は終わったが、生き残るための戦いが始まった。

大量の浮浪者や失業者が生まれた、物資は闇に流れ、物価は高騰し、餓死者が溢れ始めた。

幸い、英語と中国語、ロシア語を話せたわしは、GHQの下で通訳として働くことができた。敵国の下で食わせてもらう身分になり下がったのだ」

Xは、少し息を切らし始めた。

暫く、Xは寡黙になった。


「少しお休みなられた方が…」

三浦がXに言葉を掛けた。


Xは視線を三浦に向けた。

三浦は、慌てて口を瞑り目を伏せた。Xの目は明らかに不機嫌な光を放っていた。


「横になりたい時に横になる。わしに指図はするな」

Xの声はそれほど大きくはないが、語尾が強く、ハッキリとした口調で力強さを感じる。


「ある日、GHQの幹部の一人がわしに話しかけてきた。今でも奴の顔は忘れない。そいつの瞳は不自然なほど青く澄み、いつもの煙草、マルボロを口にくわえていた」


Xは、七十年前の過去を昨日の出来事のように語り始めた。

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