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最後のピエロ  作者: ハロル・ロイド
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S群の組織員

ミスターXから呼び出しがかかった。

Xからの連絡はいつも突然だ。

夜中の2時、水木はベッドの中で寝入っていた。

左手首に嵌めていた腕時計が痛いくらい激しく振動した。以前、Xから貰った特殊な腕時計が反応しているのだ。それは時計と言うよりも、鉄輪のような拘束具と言った方がいい代物だ。


時計の金属バンドが徐々に手首を締め付け始めた。

このまま放置すれば、手首の骨は腕時計の金属バンドで破壊される。

水木は慌てて、その腕時計に声を投げかけた。

「解除しろ!」

その声と共に腕時計の振動と手首の締め付けは納まった。

声を出して『解除』の言葉を叫ぶか、時計の文字盤の横にある赤い小さなボタンを押さない限り振動も締め付けも止まらない。

暗闇で寝入った水木にとってボタンの場所を探すより、声を出した方が手っ取り早かった。


いつものように時計の文字盤が消え、メールが浮かび上がってきた。「一時間後に、私の元に来い。X」その文は簡潔で飾り気がなく無味乾燥だ、そして、その意味を誰も無視することはできない。


水木は無表情にベッドから離れた。

書斎の机に無造作に置いてある金縁眼鏡を両手の親指と人差し指で摘み、ユックリとかけた。


東京湾に面した超高層ビルの一角がミスターXの住いだ。

水木の居場所からは車で十五分程度。

水木には特別広域捜査局の局長身分として公用車があてがわれている。むろん、運転手付きでその運転手も特広局の配下の者だ。

特広局は水木を頂点にピラミッド状に組織化され、水木以下十人程度の上層部が、組織を仕切っていた。

組織は1000人に膨れ上がりその多くは全国に、網の目のように配置されている。


ビルの最上階のフロア全室ががミスターXの住いだ。


そのビルの数あるエレベーターの内、限られた人間しか利用できない特別なエレベーターがある。

そのエレベーターには、IDカードと指紋認識と瞳の虹彩認識の確認が必要だ。

手続きを済まし、水木はエレベーターのボックスに入った。ボックスの中は分厚い透明な強化プラスチック用の板が中央を中心に回転扉のように五つに間仕切られていた。

一人入る毎にそのプラスチックの板は円周の五分の一づつ回転するようになっている。結局そのエレベーターはプラスチックの間仕切り毎に総勢五人しか入れない。

間仕切られた場所に閉じ込められ、出るときは、入るときと同じように、間仕切りが5分の一回転し一人づつしか出られない。

この、複雑怪奇なエレベーターは用心に用心を重ねたミスターXの保護システムだ。

もちろん監視カメラはいたるところに設置してあり、ボディガードも目立たないように配置されている。


エレベータの扉が開いた。

幅広の廊下の先に銀色の頑丈そうな金属の扉が光沢を放っている。


廊下には、体格の良い男が三人、水木の前に立ちはだかっていた。私服のボディガード達だ。

三人のうちの一人が、水木を服の上から金属探知機で武器の有無を調べた。

一通り調べ終え、ボディガードの一人が水木に告げた。

「ミスターXがお待ちかねです」


水木は鋭い目を男たちに向け、告げた。

「素手で、ボディチェックをするのを忘れているぞ。今は、プラスチック、セラミックの銃やナイフがあるんだ」


「しかし、局長のお顔は存じ上げていますので」


「どんな人間も信用するな」


男たちは改めて、水木のボディを素手でチェックした。


水木は廊下の奥まった金属の無垢な扉に向かった。


突然ロックが外れる音がし、ユックリと扉が開いた。

部屋の中は広々とした空間が広がっていた。

その広い部屋の中央にベッドが鎮座している。


驚いたことにベッドの傍に水木の直属の部下が十人ほど集まっていた。

水木と同じように連絡を受け集まったようだ。


ミスターXは水木に告げた。

「水木、二分遅れたぞ」


「申し訳ありません、報告の書類を整理するのに手間取りました」


「私の聞きたいのは、ジョーカーの所在だ。奴はどこにいる?」

ミスターXの声はくぐもっているが、抑揚はハッキリしている。


「今、手分けして捜査しているところです」


「1か月前と同じ返答か」

老人の目には、かすかに怒りの色が見える。


「申し訳ありません。今のところ奴の動きが止まり、手掛かりが無い状態ですので…」



老人はため息を付きながら、窓の方を指さした。

水木と十人の部下達の目は一斉にベランダのドアガラスに向かった。


そこには若い女性が立っていた。ミスターXの世話をする看護士ではないようだ。

黒いスーツを着、OL風のいで立ちだ。


背筋を伸ばし速足でXの傍らに立った。

「この女性の名前は、三浦幸代と言う」

女は軽く水木たちに会釈した。


「三浦は諸君と同じS群の組織員だ」


それを聞いた水木たちは意外な顔で女性を眺めた。


「君たちと共通の遺伝子を持った仲間だ」

ミスターxは女性に目配せした。


「はじめまして。情報管理部門の三浦と言う者です。今後ともお見知りおきの程を」


水木は左眉を吊り上げ女性の全身を舐めるように見つめた。

背の高さはゆうに百八十はあるだろう。水木達とそれほど見劣りしない。眼光は鋭く、容姿はどことなくミスターXに似ている。


「放射牲廃棄物無毒化処理研究所所長の但馬と言う男が溺死体で上がりましたね」三浦は水木に質問するような口調で尋ねた。


水木は頷き、視線をXに戻した。

「A群の上層部の但馬と言う男が二、三日前から突然姿を消し、先日未明に瀬戸内海沿いの浜辺に打ち上げられました。体にはサメに食い千切られたような痕があり事故死ではないかと地元の警察は推察しています。ただ、釣りの趣味もない男がなぜ海で溺死したのか不自然な点はありますが」


Xは女性に目配せした。


三浦はボブカットの髪を揺らしながら、ミスターXの足元に突っ立っている水木達の前に近づいた。


「あなた方が腕に嵌めている時計は、あなた方の一日の行動を事細かに記録し、私たちの情報管理機関に集められ保存されます。但馬も例外ではありません」


「なるほど、但馬の行動を調べたんだな。一体、何が分かった?」


「但馬はあの施設で最後に奥村と言う人間に会っています」


「奥村?」


「はい、但馬と同じA群の組織員で公安機関の者です。この奥村が但馬を連れ出した形跡があります」


「一体どういうことだ?奥村と但馬は同じ組織の仲間、二人にどういう関連があるのだ」


「二人の行動を解析しますと、二人はある孤島に向かい、そこに上陸したようです」


「孤島?・・・・」



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