永遠の別れ1
暗い早朝、弘基は病院を後に、一人、ハンドルを握っていた。バックミラーを見れば、ついさっきまでマリと共に過ごした部屋の灯りが見える。
別れ際にマリは弘基に告げた。
「あなたの子供が私に宿ったとしても、手際よくあなたを見習って始末するわ」
そう告げた理由は、今夜に限り、マリは避妊を拒んだからだ。お互いにこれが最後の夜になると暗黙のうちに理解していた。
二度と会うことはない、という思いがマリをそうさせたのだろうか。
「いつもの用心深さはどうした。君らしくないじゃないか」
そう耳元で囁いてもマリは何も応えなかった。
マリは、自らの手で弘基の体からスキンを外し、激しく身もだえながら弘基を受け入れた。
時間は瞬く間に過ぎた。そして、マリの口から出た、「始末する」という言葉が快楽の余韻をすべて消し去った。
身支度を終えた弘基はマリに言った。
「宿った命を始末するなら、その命が日の目を見る前に消し去ってくれ」
「わかってるわ。私は医者よ」
弘基はマリの目を見つめた。たった一人、この世で体を許した女の目を見つめ、呟いた。
「殺人鬼の血が混じった俺の分身をこの世に出すべきではない…そういうことだな。そうだな。確かにその通りだ。マリの言う通りだ」
マリは能面のように無表情に、そして微かに口を歪めた。それはマリにとって精一杯の笑みだったのかもしれない。
弘基はマリとの会話を吹っ切るようにアクセルを踏み込み、山を下った。




