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最後のピエロ  作者: ハロル・ロイド
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白い殺人鬼の誕生

 部屋中に血の匂いが充満していた。大理石の白い床は血の色に染まり、滑りを帯び歩くことさえままならない。

 切り裂かれた手首や腕、足が床一面に散らばり、そぎ落とされた首も所々に転がっている。

五体満足の死体は数えるしかない。


 返り血を全身に浴びたモハンマッドと弘基。二人は呆然と部屋の真ん中に立っていた。

 二人の顔は事を成し遂げた満足な表情と言うより、快楽を味わい尽くした恍惚な表情を浮かべていた。

 弘基はモハンマッドから受け取ったデザートイーグル五十口径の弾を全て撃ち尽くした後、首の無いアフマドの手から半月刀をもぎ取った。

 そして、逃げ惑う男達を切り裂いた。

 恐怖で五感を押し潰された男達は抵抗する気力は失せていた。

 逃げ惑う男達は殺戮者に命乞いをするがにべもなく切り倒された。しかし、男達の中でただ一人、モハンマッドに立ち向かった男がいた。

 浅黒い髭を豊満に蓄えた男は他の男達に比べれば筋骨隆々で鍛えられた体だった。

 しかし、モハンマッドにとってその男の腕っぷしは取るに足らないものだった。襲いかかる男の背後に素早く身を翻したモハンマッドは即座に刀を男の肩口に振り下ろした、

骨を切り裂く鈍い音を鳴らした刀は男の右肩を皮膚一枚残して切り裂いた。

剥きだしになった肩からは、噴水のように血飛沫を撒き散らし、バランスを失いながらよろめいた。モハンマッドは獲物をいたぶるかのように、今度は男の左肩を襲った。刀の刃先は左の腕を肩口からきれいに削ぎ落とした。

 両腕を失った事により男はかろうじて倒れることなくバランスを保った。

 不思議と男の顔に苦痛の表情は見られない。

 アドレナリンで満たされた男の体には既に痛みの感覚は遠くに吹っ飛んでいたのだろう。

モハンマッドはターバンで顔を隠していたが、激しい動きで布は乱れ顔の半分が顕になっていた。

血で赤く染まった黒い顔は、眼だけが異様に白く光っていた。いつもの三白眼のその瞳は上瞼にほとんど隠れ獲物を狙う獣の様相と化していた。

 モハンマッドは血糊の付いた刀を、足元に横たわる死体の衣服で擦るようにゆっくりと拭った。

 血糊が取れ、刀の本来の抜き身が光り輝きはじめたのを確認したモハンマッドは、ユックリと真横に大きく刀を構え、異様な笑みを浮かべながら深呼吸をした。

モハンマッドは、けたたましい雄叫びを上げながら刀を真一文字に払った。

刀の刃は両腕の無い男の白い衣服を断ち切り、吸い込まれるよう肉にめり込んだ。

そして、そのまま男の臍の辺りを真横に切り離した。


そんな凄惨な地獄絵図は一時間近くも続いたのだった。


「ヒロキ、君ハモウ自由ダ」

モハンマッドはそう言って握りしめていた刀を振り払うように床に落とした。


「モハンマッド、自分ノ主人ヲ殺メテ後悔ハシテイナイカ」

弘基は尋ねた。


「アッラーガワタシ二告ゲタノダ。オ前ヲ助ケロト。アッラーノ声ニ従ッタマデダ」


「ソウカ、アッラーノ声ガ無ケレバ僕ハコウナッテイタノカ」

弘基はいつもの皮肉な笑みを浮かべ床に散らばった肉片の山を見渡した。


「コレカラドウスル?」

モハンマッドは広基に尋ねた。


「僕ヲ待ッテイル人間ガイル。ソコニ帰ルツモリダ」


「親ガ待ッテイル祖国ヘカ」


「イヤ、親ハイナイ。最初カライナイ」


そう言った弘基の血糊で固まった横顔を眺め呟いた。

「私ト同ジダッタノカ」

改めてモハンマッドは尋ねた。

「弘基、君ヲ待ッテイルノハ誰ダ」


「僕ト似タ瓜二ツノ男サ。タダ一ツ違ウノハ、ソノ男ニハ不思議ナ能力ガアル。人ノ心ニ入リ込ミ心ノ中ヲ読ミ、操リ、死ニ至ラシメルコトモデキル。

ソシテ、ソイツハイツデモ僕ノ心ノ中ニイル。僕ノ眼ヲ通シテ僕ノ周リノ全テヲ見タリ、僕ノ耳ガ聞イタコトモ全テ知ルコトガデキル男ダ」


「君ノ眼ヲ通シテ全テヲ見ル?」

 

「ソウダ。彼ハ僕ヲ助ケダソウト必死ニ周リヲ見テイタ。デモ、コノ館カラ一歩モ出ラレナイ僕カラハコノ場所ヲ特定スルコトガデキナカッタ。モハンマッド、オ前カラ何度モコノ場所ヲ聞キ出ソウトシタガオ前ノ口ハ堅イ。コノ場所ヲ教エテクレナカッタ」


「弘基、教エタクテモデキナイノダ。ナゼナラココハ地図ニモ載ッテナイ場所ダ。砂漠ノ真ン中ノ小サナオアシス、誰モ知ラナイ名前ノナイ場所ナノダ。

タトエ地図デコノ場所ヲ示シタトシテモ、砂漠ノ中ニアル一本ノ針ヲ見ツケ出スヨウナモノダ。誰モ発見デキナイ」


「ナルホド、ココハ砂漠ノ中ノ孤島カ」



「トコロデ、君ノ目ヲ通シテ見ルコトガデキルソノ男ハ、ツマリ、私モ見テイタノカ?」


「モチロン、今デモオ前ヲ見イテル」

 そう言いながら弘基は金色と青色の透き通った瞳をモハンマッドに向けた。

 モハンマッドはその瞳を見つめ後ずさりした。

 弘喜を連れてきた佐藤が突然、変死したのを思い出した。

「弘基、ソノ男ハ悪魔カ?」


「イイヤ、僕ノタッタ一人ノ弟ダ」


「弟?ソノ兄弟ハ、君ノソノ目デ私ヲ殺スコトモデキルノカ」


「大丈夫ダ。弟ノ不思議ナ力ハ僕ノ眼ヲ通シテデハ効果ハナイ。ソレニオ前ハ僕ノ友ダ。間違ッテモ友ヲキズケルコトハシナイ」


モハンマッドは少し安堵した。


「モハンマッド、主人ノイナクナッタオ前はコレカラドウスルノダ?」


「私ハ地下ニ潜りアッラーノ教エニ従イ活動スル」


「アッラーノ教エ?イスラム武装勢力ニデモ入ルツモリカ」


「トンデモナイ、私ハ政治的ナ闘争ニ何ノ興味モナイ。アッラーノ教エニ従イ虐ゲラレタ人々ヲ救ウタメニ立チ上ガルツモリダ。私ノ行動ニ

反スル者ヤ、抵抗スル者ハ全テ排除スル」


「同ジイスラムノ教エヲ持ツ人間デモカ」


「私コソ、アッラーノ忠実ナシモベダ。私ノ意ニ反スル者ハイスラムノ教義ヲ曲ゲタ偽善者ダ。徹底的ニ排除スル」


「オ前ラシイ考エダ。思ウ存分ヤレバイイ」


「弘基、私ト行動ヲ共ニシナイカ。アフマドガ残シタ莫大ナ資金ト、世界中ニ潜ム私ト同ジ考エヲ持ツ仲間ガ加ワル。人買イナドト言ウ、オゾマシイ仕事トハオサラバダ。仲間ト共ニ真ノイスラムノ世界ヲ作ロウ」


「断ル。僕ニハヤルコトガアル」


「何ダ?」


「人身売買ノ仲買人ノリストガアルダロウ」


モハンマッドは不可解な顔で頷いた。


「世界中二イル人身売買ノ仲介人ノリストハアル。門外不出ノトップシークレットダ。ソレヲドウスルツモリダ」


「オ前ニ、迷惑ハカケナイ。安心シロ、モハンマッド」



「弘基、お前ニ言ッテオクガ、ソレヲ公ニ公表シヨウトシテモ無理ダ。一度ソウシヨウトシタ仲間ガイタガ…」

モハンマッドハ自分ノ首ヲ人差シ指デ横ニズラシタ。

「ヤメテオケ。人身売買ハ、先史ノ時代カラアル商イナノダ。闇ノ中ニ蠢ク商取引ハ決シテ表ニ出ルコトハナイ。

コノシンジケートハ闇ニ潜ム魔物タチガ守ッテイル。リストヲ公安機関ヤ報道機関ニ差シ出シテモ揉ミ消サレルノガ落チダ。

シカモ、君ノ正体ガ分カレバ即刻消サレルダロウ。首ヲ切リ落トサレル。首ノ無イ死体ハ地獄ニモ行ケナイゾ」


「モハンマッド、僕ハソノリストヲ誰ニモ公表スルツモリハナイ」


「ドウイウコトダ?」


「闇ニ潜ムリストノ人間達ヲ一人ズツ葬ッテイク」


モハンマッドの目の動きが止まった。


「弘基、我々ノ資金ヲイクラデモ使ウガイイ。我々ノ仲間モ喜ンデオ前ニ協力スルダロウ。アッラーノ忠実ナ僕ガ、今新タニ一人ココニ生マレタ。

アッラーノ教エガ君ヲ創ッタノダ。アッラーハ偉大ナリ」


「モハンマッド、悪イガアッラーハ関係ナイ。僕ハコノオゾマシイ組織ヲ葬リタイダケダ。タダ復讐ノタメニ行動スルダケダ」


「結構ダ。オ前ノタメニ私ハ全力デ、バックアップスル」


「モハンマッド、モウ一ツオ前ニ言イタイ。僕ハアッラーヲ信ジナイ。コノ世ニアル全テノ神ヲ信ジナイ」


モハンマッドは、暫く弘基の顔を見つめそして頷いた。

2人の表情は悲しいぐらいに暗く、沈んでいた。




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