再会の理由
順子との待ち合わせは、同じ喫茶店にした。
少し肌寒い季節に外での待ち合わせは気が引く。
こちらから誘うのだから、風邪でも引かせたら申し訳ない。
とにかく、
他に気の利いた店は知らないから同じ場所にした。
第一これはデートじゃない。
順子には鈴木という薄らトンカチの彼氏がいるんだ。
これは真実を知らせるためだ。
それが俺の目的だ。
待ち合わせの
雰囲気なんかどうでもいい。
とにかく、順子に見せなければ。
日曜日の学園通りは人気がない。
朝の九時を過ぎても周辺は静まりかえっている。
喫茶店に入ればいつもの騒々しさがない。
季節柄クリスマスメロデェイが店内に流れている。
普通ならこの時間は学生で溢れ、座る席がないぐらいなのに日曜の休日はガラガラだ。
まるで違う店に入った気がする。
数人のおばさん連中がモーニングサービスを食しながら、話の輪が広がっている。
しかし、それにしてもいつもより閑散とした雰囲気だ。
この店は、俺達学生で経営が成り立っているのかな、と思ったりもした。
窓際の席を眺めた。
意外なことに順子は先に来ていた。
隣には鈴木はいなかった。
どうやら彼女一人で来ているように見える。
よかった。
それが一番の心配だった。
あの鈴木がいたら、また今日の事を茶化されるんじゃないかと心配だった。
「順子さん、待った?」
そう言いながら俺は彼女の前に座った。
順子は優しい笑みを浮かべ頭を振った。
俺は、メニューに載っている日曜日だけの格安のモーニングサービスを頼んだ。
彼女も同じものを頼んだ。
ウェイトレスがモーニングサービスを運んできた。と言っても、運んできたのは五十過ぎたおばさんだが。
ゆで卵と厚手のバター付トースト、そして木串に刺した自家製のフランクフルトソーセージ
で、多めのアメリカンコーヒー。
俺は黙々と食べるだけだった。
彼女の方から話題を振ってくれたが、俺はただ相槌を返すのみで結局
話が弾むことはなかった。
ただ、時折順子の顔をジッと見つめる事は怠らなかった。
眼の奥の網膜に焼き付けるようにジッと見つめる。
穴のあくほど見つめるので順子は困った顔で目をそらすが
それでも俺は見つめる。
なぜなら、俺にとってこれが一番重要な事だから。
いや、俺じゃなくある男にとって。
順子は
最後にトーストを一切れ残した。
俺はそのトーストを見て尋ねた。
「それ食べていい」
順子は少し困った顔をしたが、結局笑みで答えた。
俺はごく普通に、平然と順子が残したその三角の切れ端のトーストを
平らげた。
深い意味などない、ただ単純に俺の腹が満たされてないだけのことだ。
レジでは強引に順子の分も支払った。
店を出れば
雲ひとつない青空だ。
しかし風は冷たい。
俺の薄手のブルゾンには少し堪える。
「寒い!」と、順子が言う。
「そうかな、冬はこんなもんさ」と、言いながら俺は不覚にもクシャミをしてしまった。
「つまり、体は正直ってことさ」
俺は独り言のように呟いた。
順子は、笑った。
「あの鈴木とは婚約してるのかい?」
俺は興味本位で尋ねた。
彼女は何も答えなかった。
今日も順子は左手薬指に指輪をしてなかった。
ヒョッとしたら婚約解消でもしたのかな?
そんな下世話な興味がわいたのだ。
彼女は無視をした。
この質問は彼女を少し不機嫌にさせたようだ。
まあ深くは追及せずに、後はつまらない、愚にも点かない話をした。
が
結構、それが以外にも受けた。
順子の笑顔は俺を饒舌にした。
不思議なことに
彼女といれば寒さを感じない。
もちろん2人寄り添って歩いてるわけではない。
距離を保って歩いているのに
むしろ、ぬくもりを感じるのだ。
それぐらい、俺の心は高揚しているという事か。
目的の場所はあと僅か。
俺の脚が重くなる。
其処に着けば間違いなく彼女の笑顔は消えるだろう。




