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最後のピエロ  作者: ハロル・ロイド
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巡り会い

「あの電話の後、思い出したの。あの時のことを」

順子はそう言った。


「思い出した?なにを?」


「あのときのことを。あのころの桜井君を」

順子の瞳は心なしか、俺を憐れんでいるようにも見えた。

上から目線の典型的な表情だ。

俺は目を逸らし、早く話を切り上げてしまおうと思った。。


「思い出すって?十年以上前のことをかい。さすが記憶力がいいね。

俺は一週間前の事もまともに覚えていない。

順子さん、誰かと勘違いしてるんじゃないのか?」


「桜井君、覚えてないの。あの時のことを。私を救ってくれたときのことを」


予想外の言葉だった。


俺は記憶をまさぐった。

順子を救った?


俺は訊きなおした。

「救った?その子供が君を救ったのか?」


順子は、頷きながら言った。


「犬に襲われたの」



「犬に襲われた?」

俺は首をかしげた。


「覚えてないの?」


「悪いが、記憶にない」


「いいえ。謝るのは私のほう。せっかく助けてもらったのにお礼も言えなくて」


「……」

俺はあの頃の記憶をまさぐっていた。


「お礼を言おうにも桜井君だと分かったときにはもう引っ越したあとで行き先も分からなくて」


「犬が君を襲おうとした時、その子供が君を助けたのか」


「ええ、私が犬に噛まれるはずが、桜井君が身代わりになって」


「噛まれた?俺が犬に噛まれた」


「本当に覚えてないの?」


「ああ、…でも、何故その助けた子供が俺だと言い切れるんだい?」


「その痣よ。

手の甲の赤い星形の痣」

順子は俺の右手を見た。


俺も自分の右手の甲を眺めた。

そこには少し盛り上がった、滲んだ血のような真っ赤な痣がある。


「その子供にも同じ痣があったということかい」


「ええ、同じ痣。そして苗字、思い出したのよ。あのとき、私を助けた子供の顔を」


「…」


「その面影が桜井君と重なったの」


「なるほどネ、そういうことか」


記憶をまさぐっているうちに

ある過去の一場面が蘇った。


「そうか、あの時、右足を噛まれたのか。犬に。だから…ズボンが破れ、血が滲んでいたのか…」

俺は、今はっきりと思い出した。

順子の言うあの時のことを。



「順子さん。今度の日曜日、付き合ってくれないか」

俺は順子に真実を知ってほしかった。

「どうしても、付き合ってほしい。どうしても」

俺は順子に懇願した。


そうだ、どうしても知ってもらわなければ。

あの時の事実を。







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