表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後のピエロ  作者: ハロル・ロイド
39/102

特別広域捜査局

 初動捜査を終えた藤田と下田は県警本部に出向いた。

 今日は捜査会議が開かれる日だ。

 ちょうどその日に、運悪く殺人事件が重なったのだ。

 と言っても、このところ殺人事件は全国で連日のように休みなく起きている。

 捜査会議はその事件の合間にやっているようなものだった。

 しかし今日の操作会議は特別だった。

 全国的に一斉に行われる合同会議だ。

 警察庁本部を中心にネットで張り巡らされた回線で行う合同会議だった。

 全国的な連続殺人事件が大量に発生したため急遽このような大規模な捜査会議が行われる事になった。


 この数日間の連続殺人でマスコミの反応はカメレオンのごとく大きく変わった。

 特異な連続殺人事件を報道関係は好き勝手に興味本位で事件を取り上げた。

 なぜ、白皮病の人間達をジョーカーは殺していくのか?

 今まで犯罪者のみを標的にしていたジョーカーを、半ば英雄扱いで取り上げていたマスコミは、反転

罪のない弱者を殺す地獄の殺人鬼と名づけるようになった。


 藤田は、そんなマスコミの連中を毛嫌いしていた。

 評論家たちは憶測で、まことしやかに好き勝手にジョーカーの人物像を競い合うように語り合う。

 それが真実であるかのように活字になって新聞や雑誌に載り、そして読まれていく。

 人々の心の中にジョーカーの新しい虚像が刷り込まれていくのだ。

 殺人を楽しむ血も涙もない残忍で非情な人間、これが今回のジョーカーの肩書きだ。



 会議場には一人一台のパソコンとワイヤレスマイクが置かれてある。

 正面にはマルチ画面の大型のディスプレイが吊り下がっている。

 全国の県警本部の会議場には同じような装置が設置してあった。


 「こりゃ、大掛かりな会議になるな」

 そう言いながら、藤田は真ん前の席に着いた。


 「今日、この一連の事件を統括する新捜査主任が顔見世するらしいですよ」

 下田は藤田に言った。

 「うん、特別広域捜査局の人間が着任したらしい」


 下田は驚いた表情で藤田を見た。

 「三年前にできた日本のCIAと言われる特広局がこの事件を仕切るんですか?」


 「ああ、出来立てホヤホヤの正体不明の捜査局が動き出すんだ。しかも強力な指揮権を持たされているらしい。警察庁の上層部も寝耳に水で、いろいろ抗議したらしいがケンモホロロだったようだ。

 訳のわからん連中が俺達警察を動かすってことさ。警察庁も喧々諤々さ。このネットの合同会議も特広局の案らしい」


 「しかし一体、警察庁を差し置いてその指揮権を決めたのは誰ですか?」


 「もちろん、政府の人間さ。国家公安委員長の長谷部 実。特別広域捜査局を創った張本人さ」


 「ああ、あの男ですか。主婦層に超人気のイケメン議員の長谷ちゃんって呼ばれている男ですか」


 「ああ、長谷ちゃんさ。正義を愛する弱者の味方って評判の国民受けのいい国会議員、それが訳のわからない特広捜査局を創った。

 狙いは日本にいる外国人の凶悪犯罪や、日本じゅうにいるスパイを取り締まるって目的だがそんなのは公安警察や、一般警察がやっていることだ。わざわざ、CIAもどきの組織など作る必要もない。

 特広局の真の目的は一体何なのかいまだにはっきり分からない、と、霞ヶ関ではもっぱらの噂だ。警察官僚が数人入っているが情報や仕事内容は、完全機密だ。その抜擢した警察官僚も長谷部が任命した奴だ」


 「長谷部って奴はどういう人間ですか?」


 「父親は大学教授で母親は医者。長谷部が高校生の時に両親とも飛行機事故で亡くなった。大学を卒業した後に心臓の移植手術をアメリカで受けた。もともと、小さい頃から心臓にダメージを持っていたらしい。手術は成功しそのままアメリカに留まり留学生活をした。三十歳の時に帰国し、代議士の秘書を経て三十八歳で衆議院議員に初当選、イケメン議員との評判が立って女性に人気が高い。ただ…」


 「ただ、なんですか?」

下田は藤田の顔を探った。


 「顔を整形したらしい。アメリカ生活の時自動車事故を起こし顔に火傷を負った。それで手術を受けたようだ」


 「じゃあ、あのイケメンは作られた顔なんですか。面白い」

 下田は下唇を出し苦笑した。


 「ああ。事故前の顔は跡形もないそうだ。それに事故で記憶の一部を喪失したらしい。

 長谷部の大学時代の親友が言うには性格も変わり全くの別人になったという。自分が知っている長谷部 実ではないと、親友の証言もある」


 「一体どこからの情報ですか?週刊誌ですか」


 「俺が自前で調べたのさ」


 「またどうして?」


 「ちょっと気になってね」


 下田は不可解な顔で藤田を眺めた。

 長谷部の何が気になるのかを質問しようとしたが、隣に見知らぬ刑事が席に着いたため押し黙った。

 周りを見れば会議場の席はほとんど埋まりつつあった。

 険しい目の私服警官の顔が目立つ。

 ざわめきが激しく、私語が乱れ飛びはじめた。

 向かい側の一列の席には県警本部長や部長、県内の主だった所轄の署長達が座り始めた。

 スクリーンに画像が現れ警察庁本部の会議室の様子が映し出された。

 藤田達が噂していた公安委員長の長谷部 実も席の中央に着いて、右隣の警察庁長官の岡本と言う男と談話をしている。

 その左隣には黒い背広を着た男がカメラの正面を睨み付けていた。

 ポマードで撫で付けたように髪をキッチリ七三に分け、金縁の丸いレンズのメガネをかけている。

 歳は四十前だろうか。

 始めてみる顔だった。

 藤田は顔色を変え直感した。

 「あの若造が捜査主任になるのか?」



 一瞬その男の顔のアップがスクリーンに映った。

 金縁メガネの奥の眼が冷たく光るのを藤田は見逃さなかった。

 「まともな人間の眼じゃない」


スクリーン上の長谷部 実は言った。

「この連続殺人事件の捜査主任に任命された水木 正捜査官だ。彼は特別広域捜査局の局長でもある。

全国の捜査員全ては本日より水木局長の元でこの事件の解決に全力を尽くしてくれ」

長谷部は水木の耳元で囁き、何かを促すように目配せした。


藤田はその光景に違和感を覚えた。

長谷部の水木に対する接し方がどことなく遠慮気味に見えたのだ。

いや遠慮と言うよりも目上の者に接するような慇懃なものだった。


 場所は変わって、ここはマンションの一室。


 カーテンは閉じられ、部屋の中はLEDライトのスタンドが一つ灯っているだけだ。

 ライトの直線的な光はメラミン塗装の机で反射し、パイプ椅子に座る男の顔を淡く照らしている。

 キャップを深めに被り、サングラスをかけた男は携帯電話を耳に押し付けている。

 「やあ、兄弟。今一仕事終えてきたところだ。お前の情報は完璧だ。安心してこちらも仕事をこなせる」

 男は携帯の向こうの相手に話しかけている。

 「奴らの殺戮は俺達が阻止する。一人足りとも俺達と同じ仲間を殺させはしない」


 携帯電話の受話器から声が微かに漏れる。

 『兄さん、体の方は大丈夫かい?』


 「今のところ、落ち着いている。悪い奴らを懲らしめている時が一番体の調子がいい。快適だ。

 ところで、奴等、お前の体の特徴を掴んだようだが何故分かったのだ?」


 『たぶん、僕の仲間が口を滑らしたのだろう』


 「裏切られたのか?」


 『いや、僕を信望するあまりにした事だ。強いて言えば僕のせいだ。彼の性格を考えてミッションを与えるべきだった』


 「その人間はどうした?」


 『奴らの地下基地の中で自爆した。僕との約束を完璧に果たしてくれた』


 「そうか、…兄弟、お前の周りにはお前のために命を投げ出す仲間がいるんだな。どれだけの犠牲が積み上がったらお前の夢はかなうんだ?」


 『わからない。僕が身を投げ出しても叶わないかもしれない』


 「奴はどうだった?俺達と同じような境遇の男、仲間になると承諾したか」


 『断られたよ。彼が最後の切り札、だと思っていたが。でも…』


 「でも、なんだ?」


 『僕達と同じ血が流れていると感じた。だから、希望は捨てていない。彼は今眠っているだけだ。僕がこの世から消えた時、彼は目覚めるはずだ』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ