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最後のピエロ  作者: ハロル・ロイド
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二枚のジョーカー

 朝日が昇り切らない午前七時前。

 男が一人、タバコを吸いながら道路脇に佇んでいる。

 黒い革ジャンを着、青いワークキャップを目深に被り、両耳にイヤホンを付けながら携帯の画面を眺めている。

 歩道の無い道路は僅かに勾配をなし、朝露が凍る道を通勤や通学の人々は滑らないように慎重に

 視線を落とし道を下って行く。

 途中、ジッと立っている黒い革ジャンの男を誰も不審に思う者はいない。

 道を下る多くの人の中にただ一人坂を上がって来る人物がいる。

 白いダウンコートをまとい、フードで顔の半分を覆い大きなマスクをし、マフラーを首元に何重にも巻き

その上サングラスまで掛けての念の入用で正体を隠すようにして坂を上ってくる。

 革ジャンの男は、吸いかけのタバコを足元に落とし靴底で踏み消した。 

 そこには十数本の吸殻が散らばっていた。

 白いダウンコートの男は道の端を人を避けながらトボトボと歩いてくる。

革ジャンの男は右手をジャンパーの内側に忍ばせた。

 車二台がかろうじてすれ違える道幅に、革ジャンの男と白いダウンコートの男は、道路を挟み、互いの距離が縮まり始めた。

 坂道の下から低く唸るエンジン音が聞こえてくる。

 革ジャンの男にもその音が耳に入ったが、それよりも気になっているのは白いコートの男だ。

 バイクが道路の真ん中を突き抜けるように上がってきた。道路を歩く通行人はそのバイクを避け道の端に体を寄せた。

 バイクは人垣を縫いながらスピードを上げ始めた。


 革ジャンの男はジャンパーに忍ばせた右手を素早く出した。右手には黒い色の褪せたハンドガンが握られていた。

狙いは白いコートの左胸。

 

突然、乾いた破裂音が二回、朝の空気を震わした。

 銃声だ。

 バイクで上がってきた男の右手から発射されたリボルバーの音だった。

 一発目は革ジャンの男、二発目は二十メートル後ろで路上駐車している黒い乗用車の運転手に放たれた。

 二発ともきれいに男の額を貫いていた。


 人々は一瞬の出来事に呆然とし立ちすくんだ。

 血が坂をを降りながら何本もの筋を作り流れた。


 「キャー」

 どこからか女性の黄色い叫び声が轟き、その声が静かな朝を一変させた。


 藤田がその現場に着いたのは午前八時だ。

 少し遅れて部下の下田も味噌汁の臭いをプンプンさせながらやって来た。

 「すみません、慌ててインスタントの味噌汁を食べようとしたら背広にぶっかけちゃって‥」

 下田の言い訳に藤田はため息で返事した。

 「ガイシャは、どうやら広域暴力団樋口組の配下の者らしい。さきほど、車のナンバーの割り出しでわかった。

一部始終を見ていた目撃者もいる」

 そう言いながら藤田はその目撃者の人物がいるパトカーを指さした。

 「しっかり聞いてこい」

 藤田は下田に命じた。


 下田はパトカーに乗り込んだ。

 助手席に座っているのは小学生だった。

 「これは、何のスィッチ?」

 子供は運転席にいる警察官にいろいろと質問している最中だった。

 急に味噌汁の臭いが車内に充満した。

 「君の名前はなんて言うの?」

 下田はその子供に尋ねた。

 子供は後部座席にいる下田を見つめ、笑いながら言った。

 「おじさん、味噌汁こぼしたよね」

 「う、うん」下田は素直に頷いた。


 子供は事細かな観察の目を持っていた。

 時間を追って事件の様相を子供は話した。

 黒い革ジャンの見かけぬ男が電柱の側でタバコを吸いながら携帯を見つめていた。

 子供は、その男の事が気になり様子を見ていた。

 白いコートを着た男が坂道を上って来た。

 革ジャンの男が、突然、銃を取り出し、白いコートの人間に狙いを付けた。

 すると突然、バイクに乗ったフルフェイスのヘルメットの男が現れ銀色の銃で続けざまに銃を二発撃った。

 弾は正確に革ジャンの額を貫いた。そして自動車に乗っていた運転席の男も、同様に頭を打ち抜かれた。

 バイクの男はそのまま走り去ったが、その時現場にカードのようなものを一枚投げ捨てた。そして子供はそのバイクのナンバーを正確に記憶していた。

 つまり、子供の証言によると殺された1人は、白いコートの人物を狙って待ち伏せしていたと、思われる。その白いコートの人物は現場から既に立ち去り誰なのかわからなかったが、幸い子供が知る人物であった。


「その白いコートの人は、山田と言うおじさんだよ」

 「山田?どこの山田のおじさんか知ってる?」

 「それぐらい、警察なんだから調べてよ」

 そう子供にたしなめられた下田は苦笑いした。


 「ヒント教えてあげようか?」


 「ヒント?」

 

「その山田さんは白子と言う病気なんだよ。太陽に当たっちゃいけない病気なんだ」

 子供のその言葉で下田の眼が変わった。

 この二、三日前から起きている大量の連続殺人事件と関連がある、と直感した。


 鑑識課の一人が藤田にビニール袋に入った、トランプのカードを持ってきた。

 「革ジャンの男の内ポケットに入っていました」

 「あのトランプのジョーカーだ」

 下田は唸った。

 「あの革ジャンがジョーカー?」

 藤田は首を捻った。

 「白皮病の人間だけを殺害していく連続殺人。そこにもジョーカーのトランプが置いてあった。やはり、この連続殺人もジョーカーの仕業に間違いないです」

下田は舌打ちしながら言い切った。


 藤田はそのカードを穴のあくほど見ながら言った。

 「そう言い切れるかどうかだ」


 「なぜですか?まだ疑ってるんですか。カードの紙質が違うって言っても、おなじ図柄ですよ。ジョーカーが材質を変えたんですよ」


 「何のためにだ?」


 「つまり、その、昔こしらえたカードの在庫が切れたから新しく作ったんです。それだけの事ですよ」


 「じゃあ、このカードはどう説明するんだ?」

 藤田はもう一つのビニール袋に入ったトランプのジョーカーを見せた。


 「それは?」下田はそのトランプを眺めた。


 「お前が来る前に見つけたものだ。道路に落ちていたカードだ。多分、バイクの男がわざと捨てていったものだ」


 「これは明らかに最初に起きた殺人事件のカードと同一のものだ。マツダ製のカードだ。このカードの材質は紙で、革ジャンの持っていたカードはプラスチック。どう説明する?」







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