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最後のピエロ  作者: ハロル・ロイド
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密室の会話

ガラスの向うでは男達が話し合いをしている。

防音装置が張り巡らされているのか彼らの話し声はまったく聞き取ることができない。


彼らは一体何者なのだろうか?


ベルマンは、ガラス枠の縁についているボタンのスウィッチを押した。

突然天井から声が聞こえ始めた。

どうやらガラス越しの男達の会話のようだ。

五人の中で一人、髪をオールバックにした眼つきの鋭い男が言った。


「ジョーカーと言う男は慎重さが足りないな。と、言うか一本抜けているところがあるようだ」

奥村はそう言いながら笑みを浮かべた。


「どういうことだ?」棚村はずり下がった金縁メガネ中指で上に上げ奥村に尋ねた。

周りの男達も奥村を見つめた。


「つまり、これさ」

奥村はコートの中から黒い塊を取り出した。

「てっきり、取られているものと思った」

奥村の右手にはハンドガンが握られていた。

奥村はそのハンドガンからカートリッジを取り出し、中を見た。

「みろよ、弾もしっかり装填してある。ジョーカーめ、現れたら一発で仕留めてやる」


「奥村、お前だけじゃない。俺もだ」

佐藤も右手に持った銃を見せた。

「こんなときもあるかと思って、いつも肌身離さず身につけていた」


「普通、拉致した人間の身に付けている物を調べるのは常識なのに、なんて無用心な男だ」

美田はそう言って、気づいたようにコートのポケットに手を入れた。

「タバコもライターも無事だ」

美田は声を出して笑った。

「ハハハハハ、飛んで火にいる夏の虫、いや、冬の虫か。

後はジョーカーが現れるのを待つだけだ」

美田はタバコを口にくわえ、火を付けた。

そして旨そうに深く吸い込んだ。

「ミスターXの難問は俺達が解決するわけだ。これは昇進ものだぞ。

ひょっとすると、俺達、重要ポストにつけるかもしれない」


「奴が現れるのが待ち遠しくなった。良く拉致してくれたって感謝しないとナ」

奥村は銃をコートのポケットに忍ばせた。


五人のコートの男達の一連の会話が俺の耳に入った。


「一体彼らは何者だ?」

俺はベルマンに尋ねた。


「いわゆる官僚の肩書を持つ連中さ。表向きはね、実態は地下警察という魑魅魍魎の化け物達だ」


「地下警察?なんだそれ」


「この国の腐った膿さ」


「吸血鬼で魑魅魍魎の化け物、そして腐った膿か」

俺は一瞬、ガラスの向こうの五人が死肉を漁るハイエナに見えた。

多分、博史が俺の眼を通して見た五人の様子を直感で動物のハイエナとみなしたのだろう。

それを、俺は網膜で感じ取ったのだ。


「博史いるのか」俺は自分の心に問うた。


『ああ、いるよ。確かにガラスの向こうの連中はベルマンの言うとおり人の生き血を吸う化け物のようだ』

突然、ガラスの向こうの部屋の明るさが少しづつ落ち始めた。

最初より半分程度の明るさになった。

もちろんその明るさでもこの部屋よりは十分に明るい。


『兄さん、ジョーカーが入ってくる』

博史は俺に告げた。

同時に俺の背中に悪寒が走った。

俺は思わず薄暗い部屋のドアに目を向けた。


ドアが開いた。

開いたのは俺達のいる部屋のドアではなく、ガラスの向こうの部屋のドアだった。


黒いTシャツの上に赤いジャケットを着た背の高い男が部屋に入ってきた。

髪の毛は脱色したように真っ白、顔の皮膚も透き通るように白い。

その顔を見れば舞台役者が役を終え化粧を落とさず目の前にそのまま現れたかに見える。

黒いサングラスと、それを支える高い鼻はどことなく西洋人っぽい。


五人の男達はその男を見てすぐさま、ジョーカーだと確信した。

色素を欠いた真っ白な皮膚は白皮症の最大の特徴だ。

「君は誰だ。何のために私達を拉致したんだ」

棚村はまず相手の素性を訊いた。

我々は何も事情も知らずに連れてこられたという素振りを誇張して見せた。


ジョーカーは夏の薄での出で立ちをしている。

奥村はジョーカーの体を舐めるように見つめた。

細い体にフィットしたジャケットとパンツ。

そこに不自然な膨らみはない。

武器を隠し持ってはいないようだ。


奥村は右手をコートのポケットに入れた。

底に入っている銃をしっかりと掴んだ。


「僕の名は白根元基と言います。白根伊織の息子です」

ジョーカーはそう言った。


「白根伊織?」

棚村はその名をどこかで聞いた気がする。


佐藤がユックリと棚村に近づいた。

「白根伊織は投資家だった。Xの命令で組織が十年前に自殺と見せかけて殺した。奴はその息子だ」

佐藤はそう棚村に耳打ちした。

棚村は思い出した。

株や、相場で莫大な利益を上げていた男だった。

伊織は投資の為、ある上場の株式を調べていた。

その中の一つが高里薬品という会社。

その会社は俺達組織が運営する会社だった。

表向きは化学薬品工業だ。

伊織は何故かその会社に目を付けた。将来性を感じ取ったのかもしれない。

健全経営で、利益もそこそこ出している。注目度はあまりないその株式会社を投資家は

割安の株価と見なしたのだろう。

伊織はその会社を徹底的に調べ上げたらしい。

その会社は癌やエイズなどの難治性の病の特効薬の開発研究していると言うキャッチフレーズ

だ。が、それは表向きだ。

実際に開発しているのは別物だ。

伊織はその別物を知ってしまった。


伊織はその情報を所轄の警察に連絡した。

もちろんその情報は俺達の耳にも入った。

警察が動く前に、俺達が動いたということだ。

つまり話は単純明快。

俺たちの組織が白根伊織をこの世から消し去ったのだ。


話は凡そ読めた。

親の仇討という事か。

しかし実行したのは他のグループの者達だ。

なぜ俺達が?

まあ、いいさ。

話の結末は、ここで返り討ちというオチで終わりだ。


棚村は笑みを浮かべた。


「話は大体読めたよ。白根元基君、いやジョーカー君」


棚村は佐藤と奥村に目配せした。

「ジョーカー君、せっかく会ったのにもっと話がしたかった。が、我々も忙しい身でね。

ここで、お暇するよ。お名残惜しいが…君の生い立ちも聞きたかった」


奥村と佐藤はハンドガンをジョーカーに向けた。


「僕を殺せばここからは出られませんよ。ドアは内側からは開けられない仕組みになっている。

この部屋自体は厚さ三十センチの鋼鉄で覆われ、

そのマジックミラーも特殊なプラスチックガラスで強度は鋼鉄以上。

要するに入ったら出られないんです」


「お前さん、どうやって出るつもりだった?」

棚村の顔に笑みは消えていた。


「マジックミラーの向こうの部屋に僕の仲間がいます。彼がこの部屋を開けてくれる。

ただし、僕が開けるように指示しなければ開けることはない」

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