洋館
都心から少し離れた場所、田園がまだ残っている高級住宅街。
その一角の小高い丘の上に洋館がそびえている。
その洋館はレンガの塀に囲まれ、広い敷地は緑に溢れていた。
建てられて相当年月が経つ、古めかしい洋館だ。
俺はその館に入った。
案内してくれたのはベルマンだ。
今日、俺はある男と対面する。
俺に会いたいという男、ジョーカーに。
この館の中は冷気に満ちている。
氷の館と、言ってもいいだろう。
この館に比べれば木枯らしが吹く外の方がまだしのぎやすい。
館の中は豆電球が床近くの壁に点在している。
その明かりはボンヤリと灯り、屋敷の中全体はほの暗い。
その暗さに目が慣れるのに少し時間がかかったぐらいだ。
「ベルマン、俺に会いたいという人物はここの住人か?」
ベルマンは頷いた。
「立派な屋敷だが少し暗くて寒いな」
「すまない。ここには暖房は備わっていないんだ。それに、ここの住人は明るさを極端に嫌う」
「別にいいさ、贅沢は言わないよ。ところで、ジョーカーとはいつごろから付き合っている?」
ベルマンは体を硬直した。
「なぜ、ジョーカーだと?」
「さあね、単なる俺の勘さ」
ベルマンは何も答えず俺の顔を暫く見つめた後、屋敷の中の奥まった部屋へと向かった。
その部屋は一段と暗さが増していた。
灯りは豆電球がドア近くの壁に一つだけ。
部屋の中央にソファーとテーブルが置いてあるだけの殺風景な空間だ。
窓にはカーテンが掛かってあり、そのカーテン越しに風で揺れる木々の葉が
月明かりで影絵のように揺れて見える。
「ジョーカーは凶悪な連続殺人犯だ。知っているのか?」
俺はそう言いながら、もう一つ壁に掛かっているカーテンを眺めた。
部屋の配置からしてそのカーテンの向こうは外に通じる窓ではないはずだ。
カーテンの隙間から僅かに灯りが漏れている。
カーテンで何かを隠しているようにも見える。
一体何があるのだろう。
ベルマンは相変わらず何も語らない。
「連続殺人犯のジョーカーとお前が知り合いだとはな。驚いたよ、ベルマン。お前も人殺しの仲間だとはな」
俺はベルマンの感情を揺さぶってやった。
「俺は殺人はしていない。それにジョーカーは意味のない人殺しはしない」
ベルマンは、興奮気味に言った。
「人殺しは人殺しだ。意味など後でどうにでもこじつけられる」
「ウルフ、それは違う。この世の中には死んで当然の人間がいるんだ。
なのに、そういう奴に限ってのうのうと生きている。」
「だから、一人づつ片っ端から殺していくわけか?」
「何も殺しを目的に動いているんじゃない。ジョーカーはこの国を変えようとしているんだ。
日本だけじゃない。世界を変えようとしているんだ」
「ベルマン。俺にはそうは見えん。ジョーカーは血も涙もない冷酷で恐ろしい殺人鬼だ」
「ウルフ、この日本を牛耳っている本当の悪を見せてやる。これはほんの一部だ」
そう言ってベルマンは壁を覆っていたカーテンを開け始めた。
カーテンに隠れていたのは縦一メートル横二メートルの大きなガラスだった。
ガラスの向うには部屋が見える。どうやら、隣の部屋らしい。
その部屋は眩しいぐらいの明りが灯っている。
こちらの暗い部屋とは対照的だ。
そこには、五人ほどの黒いコートを着た男達がいる。
年齢は四十半ばぐらいだろうか。
その中の数人はこちらを見ている。
が、俺達の事には気づいていないようだ。
こちらの様子が分からないマジックミラーかもしれない。
「ウルフ、奴らはこの日本の生き血を吸っている吸血鬼どもだ」




