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最後のピエロ  作者: ハロル・ロイド
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動き出したジョーカー

引き戸を開け病室に入ってきたベルマンは俺に軽く会釈をした。

俺とベルマンの間に上下関係はない。

会ってもアイコンタクトで挨拶を簡略する、

そういう仲だ。

今日のベルマンは博史の言うようにどこか違う。

まるで、別人のようだ。


「きょうはどうしたんだ?

昨日見舞いに来てくれたばかりじゃないか。毎日見舞いはこっちも迷惑だぜ」

少し冗談を入れて俺は言ったつもりだが、ベルマンの表情はいやに硬い。


「ウルフ、頼みがあるんだ」

ベルマンの目は暗く沈んでいた。

「なんだい?」

「会って欲しい人がいるんだ。

いや、どうしてもあんたに会いたいって言う人がいるんだ」

ベルマンの瞳が一瞬金色に輝いて見えた。

俺は、目を凝らした。

ベルマンの眼は日本人としては少し茶色味の強い黒目だ。

何も変化は見られない。

金色に見えたのは光の加減なのかもしれない。


「その会いたい人って誰?」


「会えば多分わかるはずだ。俺の口からは言えない。その人はあんたを必要としている」


「俺を必要としている?}

謎めいたその言葉が気になる。


『嫌な予感がする。兄さん、ベルマンの願いを聞いちゃだめだ』

博史は俺に言った。


俺は、ベルマンの表情をみてその人物と会うことを決めた。

博史の言いたいことは分かる、多分ベルマンが俺に会わせようとしている人物はジョーカーだろう。

ジョーカーが俺を必要としている、その意味はなんだ。

とにかく会ってみなければわからない。


俺は決断した。

「わかった。ベルマン、そいつに会おう」


『兄さん、駄目だ!会わない方がいい』

博史は俺の心に訴えた。


「博史、ベルマンの顔を見ろよ。今まで見た事もない神妙な顔だ。

俺の知っているベルマンはここにはいない。

ベルマンをこんな風にしたジョーカーの顔を見てみたい。

俺はジョーカーと会う」


博史はしばらく沈黙しそして言った。

『わかったよ、兄さん。できるだけフォローするよ』





奥村隆は、目が覚めた。

いつの間にか眠っていたようだ。

ソファーに座り眠り続けていたのだ。

頭がぼんやりする。

「ここはどこだろう」そう呟き、周りを眺めた。

俺は何でここにいるんだ?奥村は考えた。

思い出そうとすると頭が痛む。

同じソファーにはもう四人、男が眠っている。

よく見れば右手首に奥村と同じ銀色の時計をはめている。

ミスターXから渡された物だ。

仲間か?

奥村はすぐ隣に眠っている男の顔を覗き込んだ。


「支倉?ハセクラじゃないか、どうしてお前がここに…支倉!」


奥村は、男の腕をつかみ揺り動かした。

ソファーに眠っている男達は全て奥村が知る者だった。

他に棚村浩二、佐藤次郎、美田義男全て同じ組織の仲間だ。

しかも、同年代、そして同じ組織の中の幹部クラスの人間。

なぜ、俺達がここに集められたのか?


奥村は直感でジョーカーの名が浮かんだ。


四人は奥村に起こされ目覚めた。

四人とも戸惑いながら、自分達が意識を失う前の記憶を思い起こそうとした。

奥村と同様、タクシーに乗った後意識を失いここに連れ込まれた様だ。

「なぜ、我々はここに集められたんだ」

支倉は奥村と同じ疑問を声に出した。

「俺達全員がここに集められた理由は、ジョーカーが関連しているのではないか」

棚村は核心をついていた。

全員が奥村の表情を探った、

「たぶんそうだろう。ジョーカーが俺達を集めたんだ。だが、なぜ俺達を選んだのだ?

もっと、上層部の幹部連中を拉致すれば効率がいいのに。我々のように中途半端な身分の人間を集めてどうするつもりなんだろう」


「確かに俺達のような役職は掃いて捨てるほどいるのになぜ俺達をピックアップしたんだ」

棚村は言った。


奥村は四人の顔を眺めながら言った。

「地下警察の一員だけという事ではないようだ」




「俺たちはどうなるんだ?殺されるのか」

佐藤は不安気な顔で呟いた。


「殺すつもりならとっくに殺したはずだ」

そう言ったのは美田だ。


「何か魂胆があるにちがいない。我々五人を選び拉致した理由が知りたい」

奥村は両腕を組み考え込んだ。


「俺は経産省、奥村は公安調査庁、棚村は財務省、

支倉は厚生労働…佐藤、お前はたしか…?」

そう訊いたのは美田だ。


「防衛庁だ。しかも皆、役付きの中堅キャリア組…そして地下警察の一員」

佐藤はそう言いながら椅子から立ち上がりドアの方に向かった。


ドアは鋼鉄製の頑丈なものだ。ドアノブを回したがロックされているらしくビクともしない。

部屋はチョッとした会議ができる程度の広さ。

応接セットが真ん中に置かれてあるだけの殺風景な部屋。


「我々五人は幼馴染ときている。中高一貫教育の学校で、大学も一緒。その俺達がここに集められた。

ジョーカーは一体俺たちに何をしようとしているんだ?」

棚村は目の前にある一メートル四方の鏡を見た。

鏡を動かしてみたが動かない。

壁に貼り付けてある作り付けの鏡だ。

「マジックミラーだな」

奥村は鏡に顔を近づけ呟いた。



「ジョーカー、そこにいるのだろう。俺たちをどうするつもりだ?」

奥村は鏡に向かって話しかけた。


「俺たち全員にもう一つ共通していることがある」

そう言ったのが支倉だった。


全員が、支倉の顔を見て沈黙した。


「二十五年前のアレだ」

支倉は呟いた。


「それがどうした?あの事は全てケリはついている。全て穏便に話し合いで終わった。

それに、その事とジョーカーとどういう関係があるんだ?しかも今頃になって」

棚村は不機嫌な顔で支倉に告げた。


「それにもしそうだとしても、もう一人、あの男がここにいなければならんだろう」

美田は言った。


「そうだ、但馬仁、あの男がここにいなければならん。

あいつが張本人だからな」

佐藤は美田に同調するように言った。

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