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最後のピエロ  作者: ハロル・ロイド
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ミスターX

 月の無い暗い夜空に点滅する光が現れた。


 ヘリコプターだ。メインローターが二つ、勢いよく回っているが、さほど、爆音は発していない。

パタパタと乾いた音を奏でながら都心の上空を突き進んでいく。


 寝静まったビル街にたった一つ闇空にサーチライトの光を向けるビルがある。

ヘリコプターはそのビルをめざしていた。

 その上空に到達したヘリは暫くそこでホバリングを始めた。


 ビルの屋上に備え付けられたヘリポートに、ユックリと舞い降りた。

 黒いコートをまとった男達がヘリを見守っている。


 黒い流線型の大型ヘリが風を撒き散らしながらヘリポートに着地した。

ヘリから出てきたのは、出迎えの男達と同様の黒服、黒いサングラスの二人だった。


 男達は一言二言話を交わし、ヘリのドア近くに固まった。

 ヘリの開け放たれたドアを見つめている。

 誰かが出てくるのを待っているようだ。


 白いコートの人物が現れた。

 白い杖を左手に、足元がおぼつかない様子だ。

黒いマスクを着け、鍔の広い帽子を目深にかぶりしかも、黒いサングラスまでかけている。

 極力、自分の正体を見せないようにしているのか、それともそれがこの人物のスタイルなのか。

 老人なのかそれとも病みあがりの女性なのか判然としない。。

 二人の男が手を添えてその白いコートの人物をフォローした。

 タラップを降り立った、白コートの人物は右手を軽く挙げ出迎えの者に軽く会釈をした。


 屋上にはペントハウスがあった。


 ペントハウスにはエレベーターが備わっている。

 白いコートの人物は男達と共にそのエレベーターに乗った。向った階はB15、このビルの最下階である。


 白コートの人物はおもむろに帽子を取り、左横の男にその帽子を渡した。


 渡された男は腫れ物でも触るように帽子を受け取った。


 帽子で隠されていた頭はきれいに禿げ上がっていた。

 ところどころに茶色いシミが滲み出てるように点在している。


 今度はマスクをはずした。顔が顕になった。


 額や口元、頬に深い皺が刻み込まれている。

 顔面にはシミが点在していた。特徴的なのは窪んだ眼窩に光る鋭い目と、唯一、顔面で若々しく艶が映える高い鷲鼻だ。

そして、左耳がない。その部分には小さな、親指大くらい穴が存在するだけだった。


 様子から見て還暦は当に過ぎているだろう。

 老人は白い杖を左手で握り締めながら呟くように言った。


 「遅いエレベータだ」


 黒いコートの取り巻きの一人がそれに反応し答えた。

 「半年ほど前に、最新鋭のものに取り替えました。今のところこのエレベータは世界で最速…」


 「わしは、時間がすべてだと言ってるのだ」相手の言葉をさえぎり強い口調で一喝した老人、確かにこの老人には有り余った時間はないように思われる。


 地下にある、数多くの部屋の中で一番広い部屋に白いコートの男は通された。

 その部屋には二十人前後の男達が円卓を囲むように腰かけている。


 老人はコートを脱ぎ、空いている椅子に案内された。

 周りの男達は全員椅子から立ち上がり、その老人に注目した。

 老人は、腕時計を見て一言言った。

「午前二時五分。では始めよう」

老人が椅子に座り終えた後、全員の男達も席に着いた。


 どうやら会議が始まるらしい。


 円卓の中の一人が立ち上がり話しはじめた。

 この男が進行役を務めるようだ。

 

 「今日はミスターXにわざわざ遠いところをお越ししていただきました。

ご存じのとおり先日、千葉支部の地下ドームが破壊されました。その支部の組織員の半数以上が死亡。

 犯人の名は坂口正太、朝中日報の事件記者。

 右腕義手の仕込まれた高性能爆弾を自爆させたことによる犯行です。

  その一部始終をビデオで撮った映像があります。この映像は東京の本部に直で送られたものを保存した物です、今からそのビデオを写します」


そう言った後、天井からスクリーンが降ろされ部屋が暗転した。


スクリーンに出てきたのは椅子に座った坂口の正面の姿と黒コートの後頭部だった。

 二人のやり取りが写し出されていく。

 二人の会話がしばらく続いた後、坂口の両目が金色に輝き始めた。


これを見た円卓の男達は目を見張った。

 そして、坂口が自分の義手の中指を外した場面が出てきて、数秒後にその映像は切れた。


それを見た老人は言い始めた。

「見ての通りだ。

坂口が言った、ジョーカーの正体のおおよそが分かった。

アルビノという白皮病の男が真犯人だ。

この国に存在するその遺伝子疾患の男達を全て洗い出せ。そして、ジョーカーの手下が我々の組織に

入り込んでいる事も判明した。

我々の中にスパイがいるのだ。まさか、ここにいる君たちの中にいるとは思いたくないが…」

そう言いながら老人は周りの男達を眺めた。

 

老人が従えて来た男達はバッグから青いスェードの箱を取り出しテーブルの上に置き始めた。

男達の前に、それは1個づつ置かれた。

 

 「目の前の箱を開け給え」

 老人は円卓の男たちを一瞥しながら告げた。


銀色に輝く時計が出てきた。

「今からその腕時計をはめてもらう、付け給え」

男達は不審の眼を抱くことなく素直にその時計を付けた。


「その時計には、諸君達が何処にいるかを絶えず確認ができる発信装置が取り付けてある。

携帯を使えばその記録がその時計にメモリーされ、誰かと接触すれば会った時間が記録される。

君たちの行動が逐一記録され本部のホストコンピューターに残るのだ」


「我々を監視するのですか?」

円卓の男の一人が尋ねた。


「そうだ、この時計は、いずれ我々組織全員に嵌めてもらう事になる。

まず最初は君たちからだ。あらかじめ言っておくが間違ってもはずさないように」


「外せば、あの坂口の義手のように爆発するとか?」

別の男が尋ねた。


「いいや、爆発はしない。ただ、この時計に仕込まれた毒針が手首を刺すだけだ。諸君、我慢してくれたまえ。

これは、スパイを暴きだす一つの手立てだ。君たちの中から出ない事を祈るばかりだ」

老人はそう言った後ポケットから古ぼけたカードを取り出した。


突然、老人の脳裏に遠い過去の一場面がフラッシュバックのように蘇った。


そこは暗い倉庫の中。

一人の男が今にも首を吊るされようとしていた。

それを見つめている若者がいる。

髪をたっぷりのポマードで撫で付けオールバックにした男だ。右手にはマツダカルタのカードが握られている。そのカードを振り上げた。

「またこんなカードを作ろうとしているんですか」

若者がロープを首に巻かれた男に言う。

「殺戮の時代は終わった。日本中の病んだ心を元に戻すのは娯楽さ。そのカードが救ってくれる」


「このカードで日本が救える?松田さん、目を覚ましてくれませんか。もう一度考え直してください。

我々の仲間になって欲しい。

あなたを殺したくない。あなたのような優れた人材を我々は必要としているのだ」

首にロープを巻かれた男は答えた。

「手助けはできない。私は君達のように陰で隠れてコソコソ暗躍するような性格ではないのだ」


 「暗躍?とんでもない。

この国を正しい方向へ導くための水先案内人の役目を果たそうとしているだけだ」


 「だったら、堂々と表舞台に出て行動すればいいではないか」


 「あなたは分かっているはずだ。表舞台に立てば、しがらみに巻き込まれ権力の中に取り込まれ、利用され我々の目的は踏みにじられるだけだ。あの戦争だって、我々が危険を冒して得た情報を、日本に発信したのに軍閥は無視し戦争に踏み切った。そして、このザマだ。あの私利私欲の軍閥官僚共が生きている限り日本は変わらない」


 「日本は民主国家になったのだ。軍閥は消えた」


 「何もわかっちゃいない。松田さん。軍人は消えたが軍閥官僚は生きている。

軍閥と言う冠が亡くなっただけで、戦前からの官僚組織は永遠に生き残る。

しかもアメリカはその官僚共と手を結び始めた。

彼らに対抗し、そして動かすには地下に潜り込み奴等の首を締め上げるしかないのだ」


「佐藤君、君の考え方はまともじゃない。ハッキリ言って君はあの軍閥官僚となんら変わらない」


若者は首をうなだれ暫く寡黙になった。

「残念です。あなただけは賛成してくれるものと思っていたのに。松田さん、ホントに残念です」

若者はロープで吊るされた男の足元の椅子を蹴り上げた。椅子が外された男の体は、一気にずり下がり首に巻かれたロープは緊張した。


 若者は男の足が痙攣するのを見届けた後、その場から立ち去った。


老人の脳裏に一連のその光景が一瞬に頭の中を通り過ぎた。

 そして老人、いやミスターXの右手には皺の寄った古びたジョーカーのカードが握られていた。


「諸君、まずは全てのアルビノを捜し出し一人残らず抹殺するのだ」





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