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最後のピエロ  作者: ハロル・ロイド
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謎の失踪

藤田幸平は連続殺人事件の解決に一筋の光を見出した。

今まで、藤田の頭に引っ掛かっていたジョーカーと名付けた新聞記者の存在が解決の糸口になると確信したのだ。

ところが、その新聞記者坂口が失踪したということでまた事件は闇の中に迷走することになった。


捜査会議はいつものように夜中に始まった。

捜査主任の平方 淳はインフルエンザで入院した。

代理で藤田が捜査の責を任された。


「重要参考人の坂口正太が失踪した。

坂口のアパートのドア近くに鍵が落ちていた。その鍵は坂口のものだと判明した。

アパートの住人が、その日未明に複数の人間が争うのを聞いている。その争いが坂口の失踪に

関連しているのかまだ不明だ。

とにかく目撃者がいない」


捜査員から質問が出た。

「という事は、坂口は誰かに拉致されたわけですか?」


「分からん。

逃げたのか、拉致されたのかは不明だ。

現在、周辺の監視カメラ及びNシステムなどで調べ上げているところだ。もちろん諸君たちの今後の聞き取り調査にも期待している」


捜査員の顔に疲れの色が増した。

「ところで、坂口についての詳細な経歴を述べていく。下田捜査官頼む」


下田は今朝五時に携帯で上司の藤田から叩き起こされた。

坂口について徹底的に調べ上げよと突然言われた。


下田はその日一日中、足を棒にして坂口の情報をかき集めたのだった。


「坂口 正太、三十三歳。

皆さんの中でも顔を知っている方もいらっしゃると思いますが朝中日報の事件記者です。

現在独身。

親は港区で歯科を開業しています。

両親とも歯科医。歯科の評判は上々で近隣とのトラブルはありません。

坂口正太に関しても悪い噂はありません。

坂口正太は長男で一人っ子です。

国立歯科大学にストレートで入り順調にいけば今頃、親の後をついでいるはずなんですが…。

実は国家試験の合格発表その日に事故に遭い、利き腕の右手を失っています」


「利き腕がなくなった?じゃあ、あの腕は義手か。精工にできた代物だ」

坂口を知る刑事が呟いた。


「しかし、歯科医になった途端、腕を失くすなんてついてない男だ」

捜査員の中からそんな声が聞こえた。


「利き腕の失った歯科医は、翼の無い飛行機だな」

「確かに、口に入れて何ぼの商売だからな」


次第に私語が伝播し始めた。

捜査員たちの中から無駄口が湧き上った。

藤田は、何も言わずざわめきが無くなるのを待った。

捜査員たちは連日の先の見えない犯人捜しにイラつきがつのっていた。

藤田はここでガス抜きをしようとあえて何も言わずに黙っていた。


ひととおり騒ぎが落ち着いたところで下田は話を続けた。

「腕を失ったその事故と言うのは、自動車事故です。調べていきますと意外なことが分かりました。事故を起こした加害者は、島田純也」


「島田純也と言うのは、連続殺人の犠牲者の一人ではないのですか」

捜査員の中から声が上がった。


「そのとおり、無謀運転で三人の女学生を死に至らしめた男、島田純也。

連続殺人事件の被害者の一人だ。

島田純也が起こした事故に、たまたま坂口も巻き込まれた。

たまたま居合わせた坂口の右腕をその車が押し潰してしまったのだ」

藤田はその事故の詳細を付け足した。


「ひょっとすると、その坂口が連続殺人犯のホンボシではないのか?恨みによる犯行というか」

そんな声が上がる。


下田は最後にこう伝えた。

「坂口のアパートには爆弾製造に関する書物、資料などがありました。同じく坂口のパソコンには時限装置のサイトへ何度もアクセスの履歴がありました」




頭が痛む…。なんでこんなに痛むんだ。

二日酔いか?

坂口は垂れた頭を軽く振った。

ズキンとこめかみが痛む。

ユックリ目を開け顔を上げた。

眼の前に男がいる。

顔がはっきりしない。

ボンヤリと焦点が合わないような感じだ。

こいつは一体誰で、ここは何処だ。

坂口は辺りを見回した。

窓のない部屋。

ドアが一つ。

そして、ドアとは様子が違う一メートル四方の金属製の扉がある。

坂口の右横の壁だ。

どこかで見たような扉だが…何の扉だったか?

坂口は首を傾げた。

ふと、坂口の両隣に人の気配を感じた。

男が両横に一人づついるようだ。



俺はどうなってるんだろうか。

坂口は、自分自身を眺めた。

椅子に座り角ばったテーブルが前にある。

体の自由がきかない。見れば腰に拘束ベルトが巻いてある。椅子に括りつけられているらしい。椅子も床に固定式でビクともしない。


「気づいたようだね。坂口正太さん」

坂口の眼の焦点がハッキリしてきた。


黒いサングラスをかけたオールバックの男。

歳は四十前後か。

その背後の壁には異様に大きな鏡が取り付けてある。

どうやら、マジックミラーのようだ。

と、すると此処は取調室か。


警察?


 坂口は思い出した。

 アパートで自分の部屋に入ろうとした時、二人の男に無理矢理車に乗せられたのだ。抵抗したが、頭をイヤと言うほど殴られた。

一時的に記憶喪失したらしい。


 警察があんな乱暴な事をするか?

坂口は自問しながら、慎重に相手の出方を待った。


 「ここは、地下十階の一室だ」サングラスの男は言った。


 「地下?」


 坂口はもう一度、改めて部屋の中を見渡した。こころなしかどことなく土の匂いを感じる。


 「あんた達は何者だ」坂口は尋ねた。


「坂口さん、あんた、公安警察の資料室に入り込み無断でコンピューターの中の情報を盗み取ったね」

坂口は意外な言葉に面食らった。


 資料室に入り、情報をメモリーに書き写したのは確かだ。

 しかし、誰も気づかれずに事を運んだつもりだった。監視カメラの電源は切ってあった。資料室に入り込むためのパスワードキーも事前にジョーカーから教えられたものだ。


 公安警察の中に潜り込んでいるジョーカーのスパイが裏切り、タレこんだのだろうか。

だが、俺だ、という事はジョーカー以外誰も知らないはずだ。


 坂口は、とりあえずしらを通すことに決めた。

 「何のことやらだね。言っている意味が分からない」


 「我々が知りたいのは三つだ。何の目的のためにその情報を盗んだか、その情報は誰に渡したか、それともう一つ、ジョーカーの正体は一体誰なのか」


 なぜ、ジョーカーの名前が出るんだ?

 坂口の心に不安がよぎった。

 やはり、仲間の誰かが裏切ってるのだ。


 坂口は言った。

 「弁護士を呼んでくれないか。これは不当尋問にあたるぞ。暴力的に私を連れ出しこんなところで尋問しようなんて人権侵害だ。弁護士を呼べ」坂口は語気を荒げ、自分の権利を主張した。


 「坂口さん、勘違いしているようだね。法律に触れるのは百も承知さ。それを承知であんたをここに連れてきたのだ。

 いいかい、坂口さん。 

 この地下にはね法律とか人権なんて、洒落たものは存在し無いんだよ」


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