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最後のピエロ  作者: ハロル・ロイド
23/102

手がかり

順子は、毎週土曜日に花を持って見舞いに来てくれた。

一方

弟、博史の容態は一進一退を繰り返しながらかろうじて生きながらえている状態だ。

不思議な事に、博史の体は衰弱しているのに博史の魂は体の衰弱に反比例するかのように元気を増している。

魂と言ったが、実際は生霊と言うべきかもしれない。


いつでも、博史は俺の体に入ってくる。

たとえどんなに遠くに離れていようと。

特に最近は俺の体に入り浸りらしい。

らしいって言うのは、俺は全く感じないからだ。

突然、俺に言葉を投げかけ初めて博が俺の中に潜んでいるのが分る。

ある時、俺はこう思った。

博史が死んだら、博史の遊離している魂はどうなるのだろうか。

体と共に博史の魂も消滅するのだろうか。

それとも、魂は永遠と言うから俺が死ぬまで俺の体に宿るのだろうか。

そんな事をふと考えた時、

博史は俺の心を読み、語りかけた。

「兄さん、それは僕にも分らない。死んで見ないとね」

確かにそうだ。

博史にとっても初めての体験だ。死というのは。


まあ、そうなったらそうなった時だ、どちらにしても俺は受け入れるしかないのだ。


かいがいしく順子は看護士と共に博史の体を拭いてくれる。

一週間に二回、博史の寝たきりの体を看護士はきれいにしてくれる。


順子が手伝うようになったのは看護士の思い違いからだった。

看護士は順子を博史の恋人と勘違いし、博史の体を拭くのを手伝わせたのが

きっかけだ。

俺がその場にいたらすぐ止めさせたがあいにく俺がいない時の

出来事だった。


それ以後、順子は積極的に看護士と共に博史の体を拭いてくれた。

俺が止めさせようとしても聞き入れなかった。

「いい眺めだ。まったく感謝しきれないよ」

そう言ったのは博史だ。

俺の体に入って、博史は自分自身の体をきれいにしてくれる順子を眺めているのだ。

こんなこと続けさせたら、順子さんはもう見舞いに来てくれなくなるぞ。

俺は博史に言った。

「いいさ、もう十分さ。兄さん、順子さんに言ってくれ。もう僕の事は

忘れてくれって。もう僕に関わらずに順子さんの人生を生きてくれって」


博史の言いたいことはよく分かる。

いずれ、博史の言うとおりそろそろ順子とは決別しようと俺も思っていた。

これ以上、俺達兄弟のために順子を束縛しちゃ申し訳ない。


病棟を去るとき受付ロビーでテレビのニュースが耳に入った。

小和田が殺されたという事件だった。

俺は耳を疑った。

足を止め、テレビに目を移した。

そんな馬鹿な。

小和田達が屋上から落とされた?

小和田達をロープで吊るしたのは俺達だが簡単に落ちるような仕掛けはしなかった。

奴等の足首には二重にロープを巻きつけた。

ほどけるような結び方はしていない。確かにもう一方に結んだ手摺は錆びていたが

直ぐに壊れるような状態じゃなかった。奴らがどんなに暴れても、朽ちない手摺を選んだ。


『犯人は被害者をロープで吊るしたうえ、しかもそのロープを焼切り二十階相当の高さから

落としたという事です』

アナウンサーの声に俺は思わず首を傾げた。

ロープを焼切る?

どういう事だ。一体誰がロープを焼切った?

「兄さん、僕が感じたあの冷気が多分関係しているかもしれない」

博史はそう俺に告げた。

『犯人の遺体のそばには、いままで起きた一連の殺人事件で使用されたと思われるトランプ

のジョーカーが落ちていたということです。

警察は連続殺人犯の犯行を視野に入れ捜査しています』


近づいてきたあの冷気の正体はジョーカーだというのか?

「あの恐ろしい冷気が連続殺人鬼の正体だったんだ」

全身が凍るような味わったこともない震えが、そのジョーカーから発するものだったのか。

「ああ。僕が感じたのは底知れない恐怖だ。

怒りと憎しみ、怨念だけで生きている人間が発する冷たい感情、

温かみや優しさの一欠けらもない人間、いや人間というより化け物かもしれない」


だが、なぜジョーカーは俺達の行動を知ることができたんだ。

俺達の仲間内だけの計画だったんだ。

「答えは簡単さ。仲間内にジョーカーと通じるものがいたんだ」

そんな馬鹿な。

「それしか考えられない」

博史は言い切った。


俺はフト隣いた順子の方に目をやった。

順子も呆然とした顔でテレビを見つめていた。

小和田は順子にとって知らない相手ではない。

被害者の小和田は、順子にしつっこく言い寄っていた男なのだから。

どんな気持ちが順子の心を過っているのだろうか。

俺は順子の横顔を眺めた。


週に一度行われる捜査会議に新たな展開を生み出す情報は出なかった。

三百人体制で捜査員たちは足を棒にして犯人を突き止めようと捜査しているが

何の手がかりも未だ掴めていない。

次から次へと起こる残虐な殺人事件は、まるで無能な警察組織への挑戦のようにも思われる。

藤田は、会議室で一人腕を組んで考えた。

眼の前のボードには被害者たちの名前が連なっている。

その被害者たちは全て大なり小なり犯罪を犯した者たちだった。

ボードにはその被害者たちが起こした事件の詳細が書かれてある。

藤田はその被害者たちの犯した罪を読み上げた。

後藤力は覚せい剤の売人。白根は覚せい剤を取り扱っている暴力団の組長。

島田は元暴走族。三人の人間を車で殺傷。

沖田と畑山は女子学生監禁暴行殺人、宮島はボウガンで浮浪者殺害、

内田は小学生の女子だけを狙うレイプ犯。

そして、小和田は婦女暴行、恐喝、窃盗等。

藤田は目を瞬きながらもう一度被害者達が起こした犯罪を読み上げた。

藤田は何かに気付いた。

「この被害者たちは、全て軽い刑で終わっているか、または証拠不備で犯人として挙げられなかった

者達ばかりだ。しかも、マスコミには名前を伏せて報道されている。

殺人鬼はいったいどうやってこの被害者の存在を知り得たんだ」

そう呟いた後、藤田の眼が輝いた。

「まさか、俺達の身近にいるのか」

藤田はさっそく携帯電話を取出し部下の下田に連絡を取り始めた。

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