悪魔の呟き
体に加わった痛みは、それが去った後、あまり記憶に残らないのはなぜだろう。
身悶えるような激痛も時間が過ぎればその感覚は曖昧模糊となり、忘れ去ってしまうことさえあるのはなぜか。
精神的苦痛に比べれば肉体的苦痛は簡単に消えていくものなのか。
自傷行為が精神的苦痛を肉体的苦痛に置き換えて忘却する代償行為?
だとすれば、
犯罪者共に精神的苦痛を思いっきり味合わせてやらなければ。
地獄の恐怖に等しいものを。
朽ちぬ苦痛、恐怖がそいつの心を切り刻むように。
懺悔と後悔の念も与えぬぐらいの底なしの戦慄と絶望を。
ジョーカー
俺たちは気を失った四人をある廃屋ビルの屋上まで担ぎ上げた。
用意したのはガムテープと、麻縄のロープ。
まず、四人の目と口をガムテープで覆った。そして両手を背中に回しガムテープで縛った。
だらしなく脱ぎかかった四人お揃いのジーパンを脱がしてやった。
トランクスだけは勘弁してやろう。
片方の足首にロープを巻きつけ
そしてそのロープのもう一方の端を錆付いた手摺に括りつけた。
後はこいつらが目覚めるのを待つだけだ。
ベルマンは腕時計を覗いた。
「時間は、4時10分」
夜が明けるまでまだ時間はある。
「早く仕事を済まそう」
体躯のでかいザラシは、俺に言った。
もうお分かりだろう。
ザラシはアザラシの略。
アザラシのような体躯。
バイクに乗ったザラシは、まさに馬に乗ったかつての朝青龍だ。
まったく、馬の身にもなれ・・・だ。
「だめだ、こいつらが目を覚ますまでは」
気を失ったままでは意味がない。
これから俺たちがすることをこいつらの目と心に焼き付けるのだ。
「分かった」そう言った後、何を思ったのか仲間の一人のカラス(この男はただ顔が黒いだけ)は、おもむろに自分のズボンのチャックを開けようとした。
「何をするつもりだ」
「目を覚まさせてやるのさ。こうして」
カラスは、自分の一物を取り出し、狙いをつけ四人の顔めがけて勢いよく放射した。
それを見ていた他の仲間も面白がってカラスをまねた。
気を失っている四人の顔は、臭いまみれのションベン面と化した。
なんともいえない異様なにおいが当たり一面に漂いはじめた。
四人の豚共は黒のライダースーツで身を固めた男の便器と化した。
さすがに俺はその行為には参加できなかった。
一体誰がションベンまみれのこいつらを持ち上げるんだ。
全く後先考えない奴らだ。
気を失っていた一人が勢いよく咳き込みながら、といってもガムテープで口が覆われているため、思うように口から吐けず顔を歪めながら鼻から汚水を垂れ流した。
ほとんど溺れ死ぬ一歩手前のように。
ほかの三人もどうやら夢から覚めたようだ。
「お目覚めのようだな」
ベルマンは黒いライダーブーツの先で横たわっている小和田の顔を小突いた。
後ろ手に縛られた四人は顔を上げ唸り声で何かを訴えている。
俺は囁くような優しい言葉で話しかけた。
「どうだい、今の気分は」俺は、しゃがみこみ小和田に尋ねた。
小和田には、俺の声がくぐもったようにしか聞こえないだろう。
俺は、フルマスクの上にフルフェイスのヘルメットを被っている、声を出すのが一苦労だ。
周りの仲間も同じ恰好だ。
「えらい目にあったな。あそこの痛みは直ったかい」
俺はそう言いながら加害者カマフーの顔を見上げた。
カマフーは、ばつの悪そうな素振りで星空を見上げた。
俺は、小和田達に向かって言った。
「ここは廃墟同様のビル。俺たちがいるのはその屋上。お前たちにはもう一つの試練が待っている。なーに、たいしたことじゃない。
簡単なことだ。
この屋上からぶら下がってもらうだけさ。
2,3時間もすれば誰かが気づいてくれる。たぶん。まあそれまでの辛抱だ、だいぶ冷えるが我慢するんだな」
俺たちは嫌がる四人を手摺の外に出した。
コンクリートの淵に立たせ、目を塞いでいたガムテープを思いっきりよく剥がした。
眼下は闇で覆われ、奈落の底のようだ。
小和田達は必死になって首を横に振った。
ガムテープの中で言葉にならないもがき声を発している。
「いいかい、決して暴れるなよ。手摺が錆付いていて壊れる危険があるからな。
手摺に括られている命綱だけがお前たちを支えている。それをを忘れるな」
俺たちは四人をバンジージャンプよろしく闇の底へ突き落とした。




