父親殺し
「父親?私の父親…」
エヌマルイチの顔は歪み、次第に不機嫌になった。
「但馬室長。私の別名をご存じでしょう。…父親殺し」
エヌマルイチは自虐的な笑みを浮かべた。
「ああ、知っている。私のせいでその名がついてしまったのを」
「但馬室長のせいではありません。むしろ、このあだ名は僕にとっては勲章のようなものです。たとえ父親であろうとあの鬼のような化け物を私の手で始末できたのを誇りに思っています。あの時、あいつの顔を吹き飛ばした時に初めてこの組織に身を捧げようと決心がついたのです。私はむしろ、但馬室長に感謝してるんです」
「…違うんだよ。全然違うんだ」但馬の声は微かにふるえていた。
「もうその話はやめましょう。それより、ジョーカーの居場所を教えてください。いったいどこにいるのですか?」
「あれは作り話だった。君を助けようとして考え出した私の作り話なんだ。ああでもしなければ君は私の部下に殺されていた」
「室長、何をおしゃってるんですか?」
「君の父親、東 五郎は我々の組織を探っていた『新聞記者』だった。我々は当然、彼をマークしていた。彼は次第に我々組織の内情を知るようになった。そしてそれを世間に公表しようとしていたのだ。もちろん、ミスターxは手をこまねいて見過ごさなかった」
「何の話をしているのですか?」
「君の本当の父親の話だ」
「私には父親はいない!」エヌマルイチは吐き捨てるように怒鳴った。
周りの部下たちは二人の会話に目もくれず、本棚を壊し、部屋の壁という壁を破壊していた。
但馬は文章を流し読むように淡々と話し続けた。
「ミスターxは東一家を消す命を下した。我々の常とう手段、事故に見せかけて葬ることにしたんだ。あれは寒い風の強い冬の時期だった。火事と見せかけ殺すことを企てた。家は燃えた。だが、計画は失敗だった。その日、五郎本人は不在で命拾いしたのだ。代わりに五郎の妻と子供が被害者になり焼け出された。
子供は全身、酷い火傷だったが一命はとりとめた。母親は体全身で我が子の体をかばう様に死んでいた」
エヌマルイチは但馬の言葉を一言一句聞き逃さなかった。
「最終的に我々は東五郎を捕らえた。作戦を変えたのだ。これもミスターxの命だった。生き残った子供を利用したのだ」
「いうことを聞かなければ子供もろとも殺す…」エヌマルイチは呟いた。
「ああ、そのとおりだ。ただ、もう一つ条件を出した。いうことを聞けば、焼けただれた子供の体を元に戻してやると」
「君の父親はその条件を飲み我々に下ったのだ。それ以降、東五郎は我々の手足のようによく働いてくれた。ミスターxは約束は必ず守る男だ。子供は皮膚移植を繰り返し、重度の火傷もみるみるよくなっていった」
「その子供がこの私ですか…」
但馬は静かに頷いた。
「君の父親は我々組織のため、いや、君のために身を粉にして働いた。君の体が少しづつ良くなっていくのを写真で見せると泣いて喜んでいた。だが、ミスターxは一度我々に牙を向けた人間を許すような度量の深い男ではなかった。君への最終的な試験はミスターxが考え出したんだ。処刑される人間の息子を死刑執行人にするという、気が滅入るシナリオを作った」




