第2話 辺境伯代理アルド、研究所を作れと言い出す
第2話です。
追放された主人公が、辺境で研究所を作るきっかけの話になります。
牙猪の死骸から煙がゆらゆらと立ち上っている。
広場はまだ静まり返っていた。
先ほどまで暴れていた魔物が、あまりにもあっさり倒されたからだ。
「……いまの魔法」
若い衛兵がぽつりと呟いた。
「普通の火球……ですよね?」
「そうだな」
レオンはあっさり答えた。
嘘ではない。
術式の基礎は確かに火球魔法だった。
ただし――構造を修正してあるだけだ。
「いや、でも……威力が」
「普通じゃない」
衛兵たちは困惑している。
それも当然だ。
この世界の魔法は基本的に
感覚と経験で扱うもの
とされている。
術式は古い時代に作られたものをそのまま使うのが常識だ。
だからこそ、改良という発想がない。
そのとき、先ほど名乗った男――アルドが一歩前に出た。
「さっきの魔法、もう一度見せてもらえるかな」
レオンは軽く肩をすくめる。
「見せるのは構わないが、魔物がいない」
「なら、あれを」
アルドは広場の端を指差した。
そこには荷車があり、木箱が積まれている。
レオンは軽く手を上げた。
「危ないぞ」
「構わない」
アルドは即答した。
レオンは空中に指を走らせ、術式を描く。
火球魔法。
ただし第一回路を短縮し、魔力の流量を絞る。
「《フレイム》」
小さな火球が生まれた。
それが一直線に飛び、木箱の中央を撃ち抜く。
――ドン。
乾いた音とともに箱が吹き飛んだ。
中身は粉々だ。
広場がざわめく。
「……なるほど」
アルドは腕を組んだ。
「威力が高いだけじゃない。魔力効率が良いな」
レオンは少し驚いた。
普通はそこまで見ない。
「わかるのか」
「私は魔術師ではないが、領地を預かる立場でね。魔術師の無駄遣いくらいは見てきた」
アルドはにやりと笑う。
「君の魔法は、普通の半分以下の魔力で撃てるだろう」
「……半分どころじゃない」
「ほう?」
「十分の一だ」
その言葉に、周囲がざわめいた。
衛兵が思わず声を上げる。
「じゅ、十分の一!?」
レオンは肩をすくめた。
「術式に無駄が多いだけだ」
アルドはしばらくレオンを見つめ、それから静かに言った。
「やはり面白い」
「……何がだ」
「君だよ」
アルドはあっさり言う。
「王都の研究者だろう?」
「元、だ」
「なぜ追放された?」
レオンは少しだけ考えたが、隠す理由もない。
「研究が役に立たないからだ」
アルドは一瞬だけ目を丸くし、それから声を上げて笑った。
「なるほど!」
「……何がおかしい」
「王都の連中は、相変わらず短気だということだ」
アルドは腕を広げた。
「この町は見ての通り、辺境だ。魔物は出るし、資源も乏しい。だが――」
アルドはレオンをまっすぐ見る。
「新しいことを試すには、最高の場所でもある」
「……つまり?」
「研究所を作れ」
レオンは思わず聞き返した。
「研究所?」
「そうだ」
アルドは即答する。
「君のような研究者は、この町に必要だ」
「俺の研究は王都では無価値だった」
「ここでは違う」
アルドは広場を見回した。
「この町には魔術師が足りない。魔道具も足りない。魔物対策も足りない」
それから、もう一度レオンを見る。
「だが君がいれば、全部解決するかもしれない」
レオンは少し黙った。
王都では理解されなかった研究。
だが、この町なら。
「場所は用意する」
アルドは続ける。
「古い工房がある。好きに使え」
「……条件がある」
レオンは言った。
「言ってみろ」
「研究に口を出さないこと」
アルドは笑った。
「成果さえ出すなら、好きにやれ」
レオンは静かに頷いた。
どうやら、追放は悪いことばかりではないらしい。
「いいだろう」
レオンは言った。
「研究所を作る」
アルドは満足そうに頷いた。
「決まりだな」
そして言う。
「辺境の町アストラ魔法研究所――その所長は君だ」
第2話を読んでいただきありがとうございます!
ここから研究所と魔法研究の物語が本格的に始まります。
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次回は研究所の初研究です。お楽しみに!




