第十五話「恋仲」
夜。
ネオン光る街をクレラに手を引かれ歩いていく。
悪く思わないでくれエリザベス、ホワイトロック、アスカ……。
今日だけはクレラとの二人っきりの時間を満喫だ。
眩いメリーゴーランドの前を通り抜け、一緒にクレープを購入した。
今回は俺が奢る形に。
今まで彼女が出来たことの無かった俺にとって、夢のような時間だった、
気づけば空に花火も上がっていたのだ。
魂の双子という解釈も出来た。
居心地は良く、全てが噛み合ってる気すらした。
メリーゴーランドの近くのベンチに腰掛けた俺達は、ストロベリーの入ったクレープを互いに頬張る。
「あ、あのさ」
俺は唐突に切り出した。
今だったら言える。
今だったら想いを伝えられる。
恋愛本で夜の方が告白は成功しやすいとあった。
他の女子達が別の所にいる今しか、逆に言えばチャンスはねえ。
「俺、クレラの事が好きだ。俺の彼女になってくれねーか?」
クレープを食べ終わって程なくしてからだった。
偶然上がった花火はロマンチックだったし、俺の手は微かに隣のクレラの手の上に重ねつつあった。
「うん」
人生初めての彼女。
アスカ達の事も当然頭の隅にはあったが、今はそれどころじゃなかった。
顔が徐々に近づいていき、俺達は花火の上がる音が鳴り響く中キスをした。
頭がポワンとしそうな中、俺達はピンク色の花火に視線を移した。
「綺麗だね」
クレラも本当は一対一が良かったんじゃねーの?
いや……この感じまだ他の女子達の事を気にしてる。
成り行きでキスしたとは言えクレラの視線は泳いでいるようにも見えた。
アスカちゃん……一途に俺の事を想ってくれてる。
ホワイトロックさん……謎だらけだがどこか気になる。
エリザベス……やっぱりほっとけない。
そんな中クレラとの接吻は俺の恋模様にて一歩踏み込む出来事と言えた。
俺達が手を絡ませる中、セレナが此方に近づいてきた。
紺色の鎧を着た男と一緒だ。
この雰囲気、間違いねえアレサンドロ・ジュニアだ。
セレナは俺達に気付いたようだったが、ムードを察知してか素通りしてくれた。
視線を伏せるクレラ。
「一つ言わなきゃいけない事があって。私、少し前に彼氏がいたの。少しだけどキスもした。アスカちゃん達を巻き込んだのはその罪滅しなの」
なるほど……俺の事を運命の人だとは当然彼女も勘づいていたらしい。
十七歳の俺にはショックだなぁ。
俺がクレラちゃんの一人目の彼氏が良かったのは言うまでもない。
でも、これからを共に生きられるのは自分だけだ。
ゲームクリアで離れ離れになるのかもしんないけど、この一瞬を無駄にしたくねぇ。
告白には何の後悔もなかった。
「クレラ……」
抱きしめる。
鎧を着ているとはいえ、温かみは伝わるはずだ。
この世界に居る以上、鎧はほぼ常に身に着けておくべきだった。
それはそうとあのアスカちゃんの恋心を思いっきり踏みにじるのも違う気がする。
多少は成り行きに身を任せてもバチは当たらないだろう。
そこへアニキとクロウが通りかかった。
どうやらこの街でのホワイトロックの目撃情報を得たらしい。
そんな中アニキは一人俯きながら「嫌な予感がする……」と呟いていた。
何にせよこれで俺とクレラは正式に恋仲になったわけだ。
立ち上がり「さっきセレナさん見かけたよ」とアニキ達に告げる。
デートは終わったように見えたが、充実感で言えば百点満点だった。
そこへセレナを連れたレダスが通りかかった。
何とエッジの宮殿へと招待される事になったらしい。
六人で共和国の代表者の宮殿へ行く事に。
ファンタジアを気に入ってる俺達には願ったり叶ったりだ。
本当に夢のような場所だと思っていたんだ。
ジン王国やヒロナ帝国より遥かに文明は進んでるし、人間達にとって楽園そのもののはずだった。
「行こう」
レインやフォックス無き今、恐らく自分がリーダー格だった。
この世界での経験値はまだまだかもしんねぇ。
笑顔もまだ足りないと言えるかもしんねぇ。
それでも誰かが率いなければならなかった。
もし歳が同じならリーダーシップで言うとレインと互角と言ったところか。
まあ一々比べるのも野暮な気もするが、とにかくエッジとやらに挨拶をするのも悪くないだろう。
俺を先頭に六人はネオン光る街を闊歩していった。
宮殿、か……贅沢三昧なのだろうか。
アニキがポツリと「嫌な予感がする」と言っていたのも気になる。
クレラと手を繋いでも良かったが、流石にバカップルっぽいか他の四人に遠慮しないのは。
宮殿は想像以上に豪華だった。
ジン王国の館が金箔だとしたら此処のは純金と言った具合か。
階段を上り中へ入ると、そこにいたのは俺と瓜二つの顔をした男だった。
アレサンドロ・ジュニアらしき鎧の男も隣にいる。
彼がエッジか……?
突如現れた俺のドッペルゲンガーの出現にクレラも手で口を押さえている。
「異世界人ソラやモリガンの娘クレラ達だな。歓迎しよう、ようこそファンタジアへ」
エッジの導きで俺達はそれぞれ席についた。
だが亜人クロウに対する侮蔑の目を、俺は逃さなかった。
「十四人のカードがこの世界の命運を左右するとされている。どうやらその中の二人は俺とこのアレサンドロ・ジュニアらしいのだがね」
やはり紺色の鎧はアレサンドロの息子だったか。
エッジの話が途切れた瞬間、アニキが立ち上がった。
「地下から無数のゴブリン或いはオークの気配を感じる。貴様ら奴隷労働させてるな」
あのアニキが言うのだから間違いないだろう。
なんてこったメリーゴーランド等を動かすエネルギーももしや奴隷によるものだったなんて!
「勘が鋭いね」
エッジの言葉と共にアレサンドロ・ジュニアが剣を抜いた。
だがエッジはアニキの力量をある程度感じ取っているようだった。
緊迫した空気が流れる中、顔は俺と同じだが貴族の服装をした男エッジが静かに言った。
「明日アルテマのしきたりに従って一対一の試合を四回、スタジアムで行おう」
二対六は不利だと踏んだか。
だが意外にもアニキは素直にそれに応じた。
民の前で闘う事に意義があるのか。
半ば追い出される形で宮殿を跡にした。
明日スタジアムで決戦を四回。
自分もそのうちの一人に選ばれる可能性は高い。
宿屋に泊まる事になった俺はクレラと添い寝したのだった。
温かい……これならメンヘラ予備群も治りそうだ。
いつか離れ離れになってしまう。
喩え明日の試合に勝ったとしても、魔王の復活を阻止したとしても、いつか別れは来てしまう。
十四人のカードに自分とクレラは入っている気がした。
アニキだって、奴隷労働をさせているエッジよりよっぽど素晴らしい人間のはずだ。
夜の間に暗殺者が来そうだったが、隣の部屋のアニキは隙を見せないだろう。
クレラの褐色肌に触れる。
今だけは鎧も脱いでいた。
だが身体目当てと思われたくない。
クレラも寝息を立てていたし、今日は大変な一日だったのだ。
(おやすみ。愛してる)
彼女のほっぺにキスをし、そのまま眠りにつくのだった。
翌朝俺達はスタジアムを訪れた。
観客は七百人超えで完全にアウェイのムードだ。
彼らは奴隷制に気づいているのか。
気づいているのに俺達を敵だと認識するのか。
アニキは昨夜マリちゃんを死に至らしめた奴について占なったらしく、黒いクラーケンをも超える大きさのドラゴンだったそうだ。
第一試合はセレナが出場する事になった。
相手は白髪の老人。
何処かで見たことがあると思えばジンの側近トーマスじゃないか!
ジン王国はエッジと繋がってるこれはもう間違いねぇ。
互いにウィンウィンの関係なのか知らんが、セレナの王国への忠誠心は此処で断つべきだね。
おまけに何だ何だ、トーマス怪物に変身したぞ?
あれは零社の技術と見て間違いねぇ。
つまり天空島の神々も含めて全員グルってわけだ。
トーマスの変身後の姿は地獄の三本首の黒い番犬ケルベロス……ゴーレムに勝るとも劣らないオーラを放っている。
だが本気のセレナは誰にも止められない。
「究極剣技『桜花絢爛』!」
剣先から花びらが舞う美しき大技だった。
威力は天空クロス斬りと互角……いやそれ以上か。
何にせよセレナは一撃でトーマスを葬った。
辛いだろう。
忠誠を誓っていた国に裏切られるのは。
それでも俺やレダスやアニキと一緒にいる以上未来はある。
いつか彼女も切り替える事が出来るだろう。
ブーイングの中セレナが控えに帰ってくる。
それにしてもエッジめこの四対四の殺し合いまで民の娯楽にするつもりか。
第二試合は俺が出る事になった。
そろそろ首に下げてるアルマクルスの本領発揮にならないとマズい。
潜在能力を限界まで引き出すそれはセレナから頂いた物だが今だに完全には使いこなせていない。
(ゴーレムを召喚すべきだろうか……)
俺が石造りの床の上に足を踏み入れたその時だった。
第二試合の相手は目の紅いホワイトロックだったのだ。
彼女と殺し合いなど俺には到底出来ない。
かと言って命を落とす事も絶対避けるべき。
零社の注射の影響でホワイトロックの力量は先程のトーマスを優に超えるだろう。
本当に気は抜けない。
口で説得するしかない。
試合開始のゴングが鳴った。
放たれる弓矢はアレサンドロの鎧が守ってくれた。
問題は裏魔法だ。
「ホワイトロック……俺の話を聞いてくれ!一緒に元の関係に戻ろう。アスカだってまだ生きてるんだよ!」
構わず裏魔法を放つ構えを見せるホワイトロック。
だが俺は攻撃する姿勢を見せなかった。
手を広げて彼女の目を見つめる。
「裏魔法『魑魅魍魎』!」
妖怪のようなものが鎧姿のおれにぶつかった。
アレサンドロの鎧じゃなかったら命は無かっただろう。
本当に焼けるような痛みだ。
その時首元のアルマクルスが青白く光った。
凄腕占い師リクも言っていた俺の潜在能力……そのうちの一つが打たれ強さか?
近づいていき、ホワイトロックを抱きしめた。
「もういい……もういいんだ」
自然とそんな言葉が口から出た。
ホワイトロックの目は元に戻り試合は引き分けとなった。
裏魔法を受けても攻撃しない態度が審判の心を打ったか。
何にせよこれでパーティは七人になった。
第三試合と第四試合は同時に行われるそうでアニキとレダスが場に躍り出たその時だった。
スタジアムを覆う影。
何本もの首を持つ体長二十メートル超えのバケモノに人々は「ウロボロスだー!」と声を上げていた。
ウロボロスの口から放たれるビーム攻撃に、立て続けにやられるエッジとアレサンドロ・ジュニア。
アニキとレダスを殺させまいとクレラ達と共に再び試合場へ。
七人でウロボロスを睨み返した。
「ナナニンノ……カード……!」
何と人語を操る相手はそれだけ言うと引き返していった。
とにかくエッジ達が死んだんだ、今日からこの国のコブリンないしオークは自由だ。
俺は再びホワイトロックと抱擁を交わし薄っすら仕舞っていた彼女への恋心にも気付かされるのだった。
本心はどうか知らんが笑うクレラ。
死ぬまで一緒だ、と告げるセレナ。
そしてサイからのテレパシーで、レイン達はもう直南の山の魔法陣に到着するとの情報が入ったのだった。




