第十四話「亡霊の森、そしてーー」
ーー「絶望」。
アルテマサーガは一言で言って「絶望」だった。
黒騎士のようなモブにして強大な力を持つ者や、味方を注射で操ってくる零社のような敵対勢力もいる。
そして北東のラグナロク復活を企む者たちの存在。
このゲームの難易度は非常に高く、もはや只のゲームではないというのが占い師リクの見解だったのだ。
俺達は森を進んだ。
裏魔法の扱えるホワイトロックの敵対は何を意味するのか。
幸いもう一人の裏魔法習得者アニキは味方としてピンピンしている。
裏魔法の「連携」が何を齎すと言うのか。
セレナ戦での俺とアニキの連携は、連携にして連携技ではなかった。
同じ天空技同士ならそれなりにシナジーがあったはずだし、二人の技を合体させたのような一撃を放てないと真の連携ではないはずだ。
何にせよ俺はアスカの姉ホワイトロックを放っておくつもりはなかった。
エリザベス同様、論理的にも感情的にも大切な存在だ。
「召喚獣は出していない状態が続くと自動的に体力は回復される。ゴーレム『テレサ』もそろそろ大丈夫なはずだよ」
アニキの言葉に、俺は彼の緑色の目を見て頷いた。
彼の武器は今ブラストソードとしてレベルアップしているはずだ。
ブラストについてはどこかで聞いたような気がしないでもないが、とにかくこれでアニキの物理攻撃も俺に並んだか。
衝撃波は黒魔法に分類されるようで、アニキは魔力もずば抜けていた。
セレナもレダスも彼らの武器、能力共に強力で、絆を深め連携技を極めれば神々とも戦えると俺は信じていた。
モリガンの娘クレラや鳥人クロウの潜在能力も興味深いものがあり、エリザベス救出に向けてこの六人だけでも挑む覚悟だった。
「その『モリガンの御守り』絶対に失くさないように。クレラと再会出来たのもそれのおかげな気がします」
レダスの言葉に俺はヒロナさんを思い浮かべた。
強力な運を味方にする御守りなのだとしたら、彼女も相当妹を想っての事か。
美人だし性格はホワイトロックとはまた少し違ったカッコ良さがある。
彼女の期待に応えられるように、魔王復活を阻止しないと。
「連携技は最大四人まで同時にコネクトできるぞ。我々の絆を深める旅にしよう」
セレナは大事な回復薬を消費させた事から、当分の間仲間でいるつもりのようだった。
只の男っぽい女性っていうわけでもないらしく、クールな一面以外の彼女がこの旅では見れそうだ。
だが肝心なリーダーレインが居ない。
彼はアスカと共に海を隔てた港町にいる。
もう一度船に乗りそこから南東へ向かうという選択肢もある中、テレパシーの使えるサイの存在が鍵を握ると言えた。
「そろそろ国境付近です」
カーナビか、と俺はレダスに心の中でツッコミを入れた。
冗談だよ冗談、それより南側の国の名は……?
「エッジ共和国……首都の名『ファンタジア』……」
クレラが呟くように言った。
エッジ……それが長の名か?
いや共和国と言うくらいだから長は存在しないのか。
何にせよこの森からファンタジアまでそう遠くはないそうだ。
それにしても樹海や森のド真ん中に零社のビルがあったのはビックリした。
建設には魔力も多分に要しているだろう。
あのビルのような近代さと現代魔法のコラボだとしたらファンタジアは一見の価値がある。
この世界は絶望と定義したが旅には旅なりの充実感に似たものがある。
そう言った意味では最初に出会った人間がクレラだったのは奇跡だし、仲間たちとの関係も大切にしようと思えた。
森は、まだ続く。
その時何処かで狼の遠吠えが聞こえた。
嫌な予感がする……俺が剣を構えているとあっという間に十数匹の狼に囲まれた。
「斬るか?」
「そうするしか無さそうだな!」
俺が大剣を振り下ろそうとした、その時だった。
「皆んな、攻撃しちゃダメ!」
見れば追いかけてきたのはマリナだった。
あの銀竜シルバーを以前相棒にしていた茶髪三つ編みの女の子である。
そのマリちゃんが何故此処に……?
こんな所で危ねーぞと言おうとした次の瞬間、彼女の身体がかなり透き通っているのが目に映った。
「この森は別名『亡霊の森』……」
俺はレダスの言葉に土の地面を思いっきり殴った。
異世界人として平和を実現するはずだった。
それが村娘一人も護れねーなんて。
あのマリちゃんが海を越えて此処に存在してる時点で不自然な気はしてたんだ。
初めて思い知る知人の死だった。
本人は死んでいる事に気付いているのか。
(どっちにせよ恐らく彼女はこの森から出られない。まさか成仏するまで永遠に彷徨うのか……?)
クレラが俺の肩に手を置いていた。
シルバーと引き合わす約束だったじゃないか。
一体誰が彼女を葬ったんだ。
狼狽える俺に対し、マリナは死んでいる事にも気付いていない素振りで首を傾げていた。
人は死ねばこの森に流れ着くのか。
異世界人である俺もまさか例外ではないーー?
何にせよあまり幸せそうではなかった。
アニキが言うには召喚獣のいる世界は一面真っ白な世界だそうだ。
それが「あの世」だとすれば此処はあの世とこの世の境い目か。
マリちゃん……!
クレラが隙あらば彼女候補にしていた女性だった。
顔も可愛らしく動物と心を交わせる優しい性格の印象だった。
マリちゃんを殺したのは誰だったのか。
この世界を生きている限り、いずれぶつかる事になるだろう。
その時は容赦なく叩き斬るしかない。
段々見えてきたこの世界の全貌。
西側でジンを裏で操る者たちや東側で科学を極める零社。
彼らがもし手を組んでいるとしたらーー?
そうなった場合頼みの綱はヒロナ帝国だった。
大切なモリガンの御守りを授かった今、俺達が成すべき事とは。
俺が首に下げた御守りを鎧の上から意識していると、セレナが口を開いた。
「十字の御守り……北西の国で見つけた『アルマクルス』って言うんだ」
「アルマクルス……?」
「私じゃその真価を発揮できなかった。異世界人のキミならどうかなって」
不意に見せたセレナの無邪気な表情に若干ドキッとさせられた。
そうーー男っぽいからって彼女が恋愛対象に入らないとは限らない。
とは言えこのゲームは一回きりだ。
俺は悪魔でクレラ中心のルートで行く。
で、アルマクルスの真価って?
「潜在能力を限界にまで引き出す効果って言えばいいのかな。でもこの事は秘密だよ」
思ったより早くクールなセレナさんの素顔を拝見出来そうだった。
それに俺とて、まだアルマクルスの真価を引き出せてるとは言えない。
だが粘り強く、この首飾りは身につけておくべきだった。
ゴーレム「テレサ」の事もあるしな。
マリちゃんは懸命に着いてきていたが、やがてその足は止まった。
亡霊の森の中でも生き来できるのは此処までか。
「本当に良いの?敵について聞かないで」
「嫌なことは認識させない方がいい……」
クレラの言葉に俺は小さく言った。
いずれこの世界の闇とはぶつかるはずだ。
あんな立派なビルを構えた零社が交渉先を探さない方がおかしい。
これから行く共和国とやらはどうなのか……。
俺達はマリナとの別れの挨拶を済ませ、やがて森を抜けた。
「ファンタジアまであと少し、頑張ろ!」
クレラお前は明るいな。
見れば煉瓦の道がずっと南の方まで続いているのが見て取れた。
あの道を行けばファンタジアまで最短で辿り着けるだろう。
「裏魔法が使えるホワイトロックが心配だ。喩え注射の効果を持ってしても良心を維持できる可能性はある。だから尚更心配だ」
ジン王国の政府は裏魔法の存在を危惧していた。
二人或いは三人もしくは四人の連携技で何かが成せる。
それを政府の裏の者は恐れているんだ。
零社と手を組んでいる可能性は百パーセントではないが、早いとこホワイトロックを連れ戻さないと取り返しのつかない事になる。
「今晩、彼女について占ってみるよ」
占星術を使えるアニキが味方なのはせめてもの救いだ。
それにしても凄腕占い師リクの言っていた、この世界は只のゲームではないという情報。
ならば尚更この世界の悪とは対立しなければならない。
これから向かう「ファンタジア」に希望はあるのか。
「で、どう思う?マリナを殺した奴について」
「獣によるものかもしれないだろ?」
「だとしたら狼と打ち解けないと私は思うけど」
俺、アニキ、クレラが口々に話す。
アニキの占いは一日一回きり。
ならば翌日にはマリちゃんについての占いを。
急を要すのはホワイトロックの方だった。
(サイからのテレパシーも一方通行だからなぁ。アスカ達無事だといいけど……)
煉瓦の道を歩いていると近代魔法を駆使したような街並みが見えてきた。
旅をしてると良い事だってある。
少なくともこの時はそう思っていた。
「北西の国に行ったことあるんだ?」
「ああ……アーティファクトでひとっ飛びさ」
アーティファクトはセレナの飛空艇の仇名だった。
聞けば今彼女の飛空艇は天空島にあると言う。
「ポセイドン達の強さって?」
「その為のキミのアルマクルスさ」
セレナさんは俺の不安を煽るような発言はしなかった。
だがあのセレナが負けるくらいだ。
アニキたちも刺し違える程の覚悟が必要かもしれない。
冬を司るエリザベス。
彼女が消えればこの世界は終わりだった。
気温は瞬く間に上昇し、砂漠が増える事になるのか。
ソーイアロの娘エリザベスに、モリガンの娘ヒロナとクレラ。
アレサンドロにも子孫は存在するのだろうか。
「アレサンドロ・ジュニアは長らくファンタジアに滞在中ですよ」
レダスの言葉にちょっとだけ胸が躍った。
アレサンドロの鎧を身に纏う者として挨拶は欠かせないだろう。
(マリちゃんを殺した奴についてはいずれ潰す……その時彼女は成仏できるはずだ)
一度森の方を振り返った。
言われてみれば考えた事もなかったあの世ーー。
一面真っ白な世界なのか、或いはそもそも存在しないのか。
魔王ラグナロクが死して尚、彼がこの世界に影響力を及ぼすのは彼の魂が完全には消え失せていないからだ。
ガゼドの者が狙う魔王復活の狼煙。
まさかとは思うが零社と手を組んでねーよなぁ。
ギリシャ神話の神々もそうだし、この世界の「闇」は信用ならねぇ。
ならばこれから訪れるファンタジアはどうか。
アレサンドロ・ジュニアが居るとは言え、もはや百パーセントは信用ならねぇ。
それでもクレラを護る為に強くなるんだよ!
レイン、アスカちゃんと俺達の再会まで彼女の事頼んだぜ。
何処か遊園地に近いものまで視界に映る中、俺達はエッジ共和国首都ファンタジアに足を踏み入れた。




