第十一話「アルカディアへ」
え……俺生きてる……?
丈夫さの割に軽いとは言え鎧着てたんだぞ?
あの時真っ二つに裂かれた船の柱か何かに頭をぶつけて俺は気絶した。
波に流され陸地に辿り着いたのか。
藁でできた小さな家……粗末だが快適なベッドだ。
俺は大剣ソーイアロが傍に立て掛けてあるのを目にした。
「漁村かな?取り敢えず礼だけでも言わないと」
外は明るく藁の家々を繋ぐ桟橋を行き来するようだった。
ん?見たことのある少女が。
あれは……ナギサ!?
眼鏡外してたから一瞬分からなかった。
桟橋に一人風を受け佇んでいる。
「気がついたんですね!心配しましたよ〜。アニキさんが占星術で此処にソラさんが流れ着くのを予言したんです」
アニキそんな事まで出来るのか。
それに眼鏡を外したナギサは可愛い。
「あの時はごめんよ。仲間に加えなくて。君の事を心配してたんだ」
「大丈夫です。ソラさんの名が無ければ私はアニキさんに弟子入り出来なかったと思います」
「アニキはこの村に居るんだな?」
見たところ小さな村だった。
モルディブに似てなくもないが、そこまで裕福そうとも言い難い。
そしてアニキ達が立ち寄れた事を考えると此処は魔法陣の在処よりずっと北にある事が予測される。
一体何日気を失ってたんだろう。
仲間たちと再会を期待しつつ魔法陣に向かうべきか。
アニキに頭下げてでも協力を要請しないと。
コクリと頷いたナギサに対し、言葉を続ける。
「眼鏡外して大丈夫なのか?いや、めっちゃ……なんつーか……可愛いけど」
「眼鏡無しでもある程度は見えます。まだ若いですから!」
この少女が十四で俺は十七。
っておいクレラへの想いはどうしたー!
いやここで俺がクレラやアスカと離れ離れになったのは天の導き。
ナギサの魅力に惑わされる事なくアニキと共に南へ向かわねば。
「是非アニキの所へ案内してくれ」
見れば火炎弾を桟橋から海側へと放つゴブリンに遭遇した。
コイツもアニキの弟子なんだろーなー。
流石アニキ、種族間の壁を見事に破壊している。
何を隠そう俺は終末の谷でゴブリンがアニキと共に獅子の上に跨り飛んでいたのを目の当たりにしたのだ。
「オキタノカ?」
ゴブリンは小柄だった。
身長は一メートル程しかない。
「ゴシュジンサマ〜レイノオトコガオキマシタヨ!」
ロッドも無しにゴブリンが火炎弾を放てるのはアニキの指導のおかげなんだろうな。
ゴブリンが走って行った先にアニキはいた。
ボロボロの服はそのままだったが、やはり何処か眩しかった。
「おーい!」
俺が遠くから声をかけた次の瞬間、アニキが誰かと対峙中なのが見て取れた。
(相手は……あれ?フォックス!?)
アニキとフォックスが戦闘など、どちらかが操られているとでも言うのか。
アニキの傍に駆け寄るとフォックスは紅い眼をしていた。
「長い歴史の中で貴様と巡り合えたのもまた運命。緑魔法の真髄をご覧入れよう」
フォックスの左右に魔法陣。
その場所に吸いこまれるかのように、ナギサとゴブリンは相手側に立った。
「能力アップ」という緑魔法の概念を超えてる。
相手側にいる二人を自身の左右に立たせ、武器とする能力。
以前のフォックスでは出来なかったに違いない。
「ナギサとナナシが相手だとやり辛いね。今日の所は見逃してくんないかな?」
浜辺で対象を睨見つけていたアニキは、本気を出せばフォックスを倒せたはずだった。
それでも和平を模索し、隙を見せた途端仲間を人質に取られたというわけか。
アニキのナギサ達への想い入れも確かなようで、俺は嘗ての仲間フォックスと剣を交える覚悟だった。
「良いだろう……アニキとソラが相手だとまだ分が悪いとも言える」
フォックスの見せた緑魔法は強者には通用しないのか。
何にせよ紅い眼をしたフォックスを侮るべきではなかった。
樹海が拡がる方角とは逆の方へと去る三人。
戦闘は起きずに終わった。
「アニキ、騎士団のエリザベスが大変なんだ。道中で仲間と再会出来るかもしんねぇ。頼む一緒に南へ行ってくれ」
アニキはナギサ達を失った。
俺はフォックスを失った。
それでも南に行けばクレラ達と合流出来ると信じていたし、アニキと一緒なら黄金奪取の確率も高まる。
待ってろクレラ、アスカ。
アニキは二つ返事で承諾してくれた。
この最強の助っ人と共に彼女らと再会して見せる。
思っていたよりもずっと早く彼をパーティに迎え入れた事になったが、共闘は必須と言えた。
今はサポートという立場かもしれないが、天空島に着く頃には絆も芽生えている可能性も高い。
「占星術でクレラやアスカの居場所を特定出来るのか?」
「まあでも夜にならないとね……」
星を見る占いまで。
本当に最強の人材と言っていい。
それに比べて……俺は装備頼みだ。
いや自分を見捨てるなど以ての外だ。
いつかアニキと本当の意味で肩を並べて歩いてやる。
そして話した回数は少なくとも、俺はアニキには込み上げる想い入れがあった。
ナギサとナナシ(?)の事は残念だったが、いつかきっと仲間に戻るさ。
だがフォックスを操ったのは誰だったのか。
此処から北東の方角にはガゼドがあるそうだ。
フォックス達が向かったのは北だった。
何か嫌な予感がしないでもないが、俺はナギサへ目を瞑り祈りを込め南を目指すのだった。
大剣ソーイアロは俺の背中に吸い付く特性がある。
荒波の中でもまるで意思を持ったかのように俺にひっついていたのだろう。
それはそうとアニキが占いが出来るのは心強かった。
元々ある程度先は読めるようなのだが、占星術で確実さは増すようだ。
アニキの召喚したフライングレオに跨りこの近くだというヒロナ帝国首都「アルカディア」を目指す。
ヒロナ帝国は西国諸国との貿易で栄えているようだった。
「ヒロナ帝国のヒロナ様はクレラちゃんのお姉ちゃんだよ。一緒に彼女を捜索してくれるかもしれない」
クレラには姉がいたのか。
それにしてもフライングレオに跨り樹海の上を飛ぶのは中々の怖さだ。
地上まで十メートルはある。
もしイサベル号を選ばずに北東の方角に船を進めていたら海に隣接するアルカディアに直接辿り着いていたはずだったそうだ。
「季節によってはここらの地面は水浸しになる」
「なるほどな」
アマゾンみたいな感じか。
ヒロナ様(?)がクレラの姉のように六つ歳上のアニキが俺の兄弟だったらな〜。
「そう言えば今日アルカディアで召喚獣バトルトーナメントが開催されるって言ってたな。ダメ元でフライングレオで出場してみるか。優勝したら金竜ゴルドの指輪が手に入るらしいし」
金竜ゴルド。
あのシルバーと対を成す存在だろうか。
「俺も出たい。優勝は無理かもしれないけど、クレラのお姉ちゃんと話したい」
帝国の女王ほどになるときっかけがないと話すら聞いてもらえない。
前回の闘技場でも、俺は冥道クロス斬りを放ったことでジンとの面会に成功している。
ここはダンジョンのゴーレムを、セレナに貰った首飾りによって召喚出来るようにすべきだった。
なんてったって大好きな人のお姉さんだぜ?
仲良くなるに越した事はねぇー。
アルカディアの分厚いコンクリートの壁が見えてきた。
まるで巨大な要塞だ。
入るには門番と話す必要があるだろう。
俺達を乗せたフライングレオはゆっくりと下降していき、やがてアニキの指輪に光になって吸い込まれた。
「レオ、よくやった」
「名前があるの?」
「勿論。長い付き合いだからね」
「じゃあ俺は……『テレサ』にしよう。出てこい!」
「テレサ……?珍しい名前だな」
「本当は優しいゴーレムなのさ」
高さ三メートルの鎧を着た煉瓦ゴーレムは、樹海の端にてその姿を現した。
十字の首飾りへの祈りが通じたようだ。
門番が不思議そうな目で此方を見ている。
あの鉞も健在だ、ひょっとしたら良いところまで勝ち上がれるかもしれない。
テレサに対して元から優勝を期待しないのは失礼と言えた。
「おい、君達何者だ」
「今日のトーナメントに出ようと思って」
「なんだそういう事か」
「この子もジン王国の者です。是非中へ」
「良いだろう」
門番との会話を済ませ、俺達は要塞の中へと足を踏み入れる事となった。
ギギギ……と鉄の門が開く。
入って見れば若者たちが剣の稽古をしていた。
この国の軍事面への意識の高さが伺える。
そして奥の金色の建物がトーナメント会場だそうだ。
へぇ~レストランがある、若者には好評だろう。
「ねぇ昼飯食っていい?」
この世界は魔王ラグナロクの支配から解放されて十五年しか経っていない。
若者の中心の政治は理に適っていると言えた。
「勿論だ」
綺麗なハンバーガーショップだった。
それにしてもクレラやアスカと離れていると落ち着かない。
どうしてるか心配になる。
二人とも顔、服共に魅力的な為襲われないか心配なのだ。
この感情もいつか本当の愛に変わるかな?
取られないかだけじゃなく純粋に彼女達を心配出来るようになれるかな?
「ヒロナ様は十八歳だ……が年齢の割に人に厳しい。多分自分にも」
とナイフとフォークで切ったバーガーを頬張るアニキ。
我に返った俺は「自分にも他人にも厳しいのは女王として良い事だと思う」と言った。
だがクレラの恋人ですなんて言ったら地雷を踏む可能性だってあるわけか。
とにかくクレラは彼女の妹なんだ、きっと助けてくれるはず!
アニキと過ごす事でいつもより甘えん坊な自分がいる事に気付いた。
明らかにクレラ達と冒険していた時と違う。
自分でもちょっぴりビックリだ。
彼が俺の兄となる日は来るのだろうか。
それにしてもハンバーガーを作れる程の文明か。
勿論輸入に頼っている部分はあるだろう。
ジン王国の北部にも陸続きの国は存在するので、飛空艇で縦横無尽とされてるとは言え中々の規模の世界だと思う。
まあ、長い間食べ物を口にしていなかった俺には大満足の昼食になった。
ヒロナ様はトーナメント会場に来ると見て間違いないだろう。
まだ召喚獣について詳しい訳では無いが、ジン王国の闘技場に比べればずっと平和的なイメージがした。
なんてったってあのトロールは鎖で繋がれて登場したんだぜ?
もし自分がこの世界のトロールに生まれていたらと思うと鳥肌が立つ。
俺達二人はトーナメント会場へ。
基本的にコンクリートの家々が建ち並ぶアルカディアだったが、会場の屋根は金箔で覆われていた。
金竜ゴルドの指輪。
手にしたら最高の仲間になる。
トーナメントには七人参加するそうで、一人がシードという形の表だった。
やはり召喚獣を擁する者の数は帝国の首都と言えど限られるのか。
クジで決まった俺の一回戦の相手は……アニキだった。
召喚獣戦とは言えアニキと闘う事になるとは。
しかも第一戦。
もう間もなく試合が始まる。
女王ヒロナも既に到着済みなようで、俺は試合よりもそっちに意識が向きそうな予感がしていた。
ヒロナ帝国アルカディア。
観客は三百人ほどだった。
『さあ、もう間もなく試合が始まります。第一試合はフライングレオとゴーレムの対戦でーす』
俺達はそれぞれの召喚獣を場に出したのだった。




