第六話 盗賊の行方
交渉を終えた二人にティアが神妙な面持ちで近付いてくる。
「二人はまだこの村に残るんですよね?」
「ああ、奴らだってそう遠くには行ってないはずだ。なんなら何かを探しにこの村に来たならここに戻ってくることも考えられる。俺達は残って奴らを探して皆んなを助ける」
ロルフは気合いいっぱいに拳を掌に打ち付け、そう答える。
「なら、私も同行させてください」
「ダメだ」
即座にノーを突きつけたのはロルフだ。ティアは明確な拒絶に予想はしていたが、少したじろぐ。
「ッ何故ですか、私だって戦力になれます!」
「理由は主に二つだ。
まず、おそらく相手が手練だということ。短時間で村を制圧し、撤収した。戦闘だけでなく、こういうことも慣れている奴らだ。戦闘に慣れていないティアの戦力と守りながら戦う負担を天秤にかけると後者の方が重いと俺は考えてる。
二つ目にティアは人を殺す覚悟があるか?」
確かめる様にロルフはティアの瞳をじっと見つめる。
まるで体に重りでもつけた様に、ロルフの言葉がずしんと重くのしかかる。ロルフの眼光も相まって反論したいのに言葉がまとまらず、固まってしまう。
「別にそれが普通だ。安心しろ、ちゃんと皆んな助けて帰ってくる」
その様子を見てロルフは表情を緩めて諭す様に話す。
なんて惨めなんだろう。自分の家族が、村の皆んなが助けを待っている。それなのに命を賭けるのも、命を賭けるのも考えただけで怖くて体が震えてしまう。そして、それをこの村に関係のない知り合ったばかりの少年に慰められている。なんと情けないことか。しかしそれでも、逃げるわけには行かない。
「……正直なところ人を殺す覚悟も死ぬ覚悟もありません。情けないですが、考えただけで手が震えます。でも、だからこそ私は行かなくては行けないと思うのです。
私には力がある!二人と同じ皆んなを助ける力が! それなのにここで逃げてしまったら、この力は何の為にあるんですか? 二人が帰って来なかったら? 私は一生、自分を許せなくなる。
だからお願いです。私も一緒に戦わせて下さい」
今にも溢れそうなほど涙で瞳を揺らし、実直にただ真っ直ぐにロルフを見つめる。その瞳には涙だけでない、決意の炎が揺れて見えた。
「……分かった。ティアも連れていく」
「ロルフッ!?」
ロルフは怖くて仕方ない気持ち、その惨めさ、そして何よりも逃げるだけの辛さを痛いほど知っていた。
ティアの言葉はロルフの決定を覆すほどにロルフの心を動かした。
対照的にアグノはティアの身を案じる一心で反対の声を上げる。
「怖くてたまらない、でもここで逃げたら後悔する。アグノを助けた時、俺はずっとそう思って戦ってた。戦わずに逃げるのだって、同じぐらい怖いんだよ。分かっちまうから、もうダメなんて俺は言えねぇ」
ロルフはアグノへ淡々と語りだす。アグノはそれを黙って聞くしか無かった。アグノはロルフの過去に何があったのかは知らない。しかし、ロルフの言葉に計り知れない重みを感じ取った。ティアとロルフの思いを覆すだけの論理も言葉もアグノには考えつかなかった。
「分かった。二人がそこまで言うなら僕も認める」
「ありがとう、アグノ、ロルフ」
「おーい、そろそろ出たいんだがー!」
「分かりました!」
ダリさんの呼びかけにアグノが答える。
3人は馬車の元へと向かい、アグノは兄弟に別れを告げ、ティアは老人と夫婦に皆んなをよろしくとそれぞれ声をかけた後、馬車は出発した。
「それじゃ、行くか」
「行くって盗賊が逃げた場所が分かるのですか?」
ティアがどうやってと疑問を投げかける。
「いや、分からん。だけど、人や馬の足跡それから馬車の車輪跡を辿って行けば辿り着く」
ロルフは見ろと地面の方に指を指す。そこには確かに車輪の跡がくっきりと残っていた。
「なるほど、これで盗賊の場所が分かりますね!」
「方向の森の方だな」
「急ごう、ロルフ」
「そうだな。ただ、森に入った後は慎重に進む」
「何でさ、急がないと追いつかないだろ?」
当然の疑問をアグノは投げかける。
「ティアから聞いた話だと、奴らは単に金目のものを求めていたんじゃなく、何か特定のものを探していた。金にならない老人達も攫っていったことからも、確定だと思っていい。そして、何故老人達も攫う必要があったかを考えると――」
「――探し物は見つからなかった」
ティアがなるほどという様に答える。
「正解だ。粗方探し回ったが見つけられず、昔から村にいる老人ならその探し物を知っているかもしれないから攫ったと考えられる」
「でも、その場で聞き出すことも出来たのになんで撤収したの?」
アグノが疑問を投げかける。
「んー、そこなんだよな」
ロルフも何故そうしなかったのか分からずに頭を悩ませる。
「単純に焦ったのでは? 想定外に見つけられず、煙も上がり、遠くから見た誰かが来るかもしれないと。そうなれば、一度引いて確実に在処を聞き出してから後から回収すれば良いと考えてもおかしくないと思います」
「まぁ、そんな所か。どのみちそこはあんま重要じゃない。そして結論まで言ってくれたが、在処が分かっても分かっていなくても奴らが次に取る行動は村にまた探しに来るというのが可能性として一番高い」
「相手も痕跡を辿ってここに来るからバレない様にゆっくり進むってことか」
アグノもロルフの考えを理解した様子で頷いた。
そして話しているうちに盗賊の痕跡は森へと差し掛かった。
「そゆこと、こっからは注意して進むぞ」
「うんっ」「はいっ」
ロルフ達は前方からの物音や気配に注意しながらも、順調に進んでいく。
そして、思っていたよりも早くロルフの予想は的中する。
「来た」
人の気配にいち早く気づいたロルフが静かに声をあげる。まだ見えてはいないが、複数の足音をロルフの耳が捉えた。おそらく、村を襲った盗賊の仲間であろう。
ロルフはハンドサインでこっちに来いと茂みの方へと二人を導く。
少し待つと奥からガラの悪い男が三人姿を現した。全員が鼻から下を布で覆っている。少なくとも紋章は目視出来ないが、明らかに肌を見せない格好であり、ロルフは少なくとも一人は紋章持ちがいると考えていた。
「数は3人、恐らく右の奴が紋章持ちだと思う」
ロルフは今までスキルによって誰が強いかということを肌で感じ取っていた。その経験がここで活きた。右の奴が強いとなんとなく感じ取った。
「ここからどうするんですか?」
「奇襲だ。ティアが奴らの足元を泥沼化する。拘束できるならそれが良い。その瞬間に俺が速攻で右の奴をやる。それに合わせてアグノも戦闘に加わってくれ。後の二人は殺さず捕まえる。出来るな、ティア」
「ええ、やってみせます」
「問題ないよ」
作戦会議の間で十分射程圏内に近付いた。
ティアは静かに魔力を集中させる。
「<我は生者、大いなる大地は生者を護り、生かすためにあらん。天は地へと降り注ぎ、大地は全ての根源となる。大地は揺れ、我に付き従う。
我が魔力を糧とし顕現せよ天生穣地>!」
「な、なんだっ!」
賊の足下はたちま水のように波打つ。波打つ度に足が埋まり、地面から抜けようと踠くたびに更に地面に埋まっていく。
「くそっ抜けねぇっ!」
藻掻く賊に追い打ちをかけるかのように一際大きな波が男達に向けて畝り迫る。
「うわぁっ!」「ぎゃ」と男達は悲鳴をあげ、土の波に飲み込まれる。
そしてその場に残ったのは、地面から頭だけを出して気絶する3人の盗賊達の姿。
その圧倒的な制圧力にを目撃したロルフは自分の出番すらなかったと驚きを隠せないでいた。
アグノも同様、その凄まじさに剣に手をかけたまま止まっていた。
「これで良いですか?」
ティアは腰まで伸びた美しい髪を振り向きざまに揺らしながら、可憐に微笑した。
「ティアを連れてきて正解だったな」
「本当にね」
あまりの威力にロルフとアグノは少し顔を引き攣らせながらも、予想外の戦力に喜ぶのだった。
◇
頭をびしょびしょに濡らし、手足を土で固められた男が三人、川辺に白目を向いて失神していた。
情報を聞き出すためにロルフは彼らに拷問を行った。
比較的単純なもので水に頭をつけ、一人だけ顔を上げさせ質問をしていき、答えなければまた水に沈め、次の人間に質問をするというもの。息が出来ない恐怖と、早く答えなければ仲間が溺れ死ぬという二つの恐怖に駆られ男達は素直に協力してくれた。
「――よしっ、粗方情報は引き出せたな」
パンパンとロルフは汚れた手を払う。
「そ、そうだね」
上手く情報を引き出せたロルフは安堵から笑みがこぼれる。しかし、ティアやアグノからしてみれば何処で拷問の技術など身に付けたのかと頼もしさと共に少し恐怖を感じていた。
そんな二人の心情も知らずにロルフは何故二人がそんな反応をするのかと疑問に思っていた。
そんなことよりも、盗賊達の情報についてである。
今まで三人が盗賊などと勘違いしていた犯罪集団の実態は傭兵だった。
名前は黒の獅子団という、金次第で悪どいこともなんでもやる裏社会では有名な傭兵団なんだとか。
人数は計15人でその中でも紋章持ちはたった三人。先程ロルフ達に捕まえられた男と、黒の獅子団の頭脳と呼ばれる男マギコ、そして黒の獅子と呼ばれるリーダー、ガルル。
特にガルルの強さは異常で、マギコ以外の団の全員でかかっても軽くあしらわれる程だとか。
奴らのスキルも把握しておきたかったが、知らないようだった。恐らく、黒の獅子団という組織はリーダーガルルと参謀のマギコが居れば成り立つという組織なのだろう。だから、他の人間は実力的にも信頼されていないのだろう。
後は奴らの場所と村の人の場所についてだ。どちらもここから数キロ離れた洞窟の中にいるという。捕えられた村の人も無事であるという。一度、拉致した人間は全員殺したという奴が居たもんだから死ぬ寸前まで水に沈めたら、必死に謝りながら全員無事だと白状した。
そして、何故この村に来たのかということを問いただすと、やはり探し物をしていた。
「――それで奴らが探しているのが、宝石らしいけど、なんか心当たりある?」
ティアが首を横に振る隣でアグノは遠慮がちに手を挙げた。
そして胸元から首にかけられた純白に輝く石を取り出した。
「多分、これじゃないかな。村を出る時村長に渡されたんだけど、困った時に売って良いって言ってたし、そんな特別な物とは思ってもなかったけど」
確かに綺麗な石ではあるが、ダイヤモンドやルビーそれらの名の通った宝石の方が透明度が高く、装飾としての価値は高いと思える。ロルフからしても特別な物には見えなかった。
「普通のネックレスに見えますし本当にこれが目当てのものかも分からないですね」
可能性はあるが、断定するには宝石という情報は少なすぎる。
「まぁ、どの道俺達のやることは村人の救出だ」
相手がこちらよりも強ければ、交渉を持ちかけたところで意味はない。あるとすれば、相手が村の人達を盾にして交渉を持ちかけてきた時ぐらいだろう。
そうだね。ええ。と二人は返事をし、再び森の中を歩き出す。




