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第七話 村人救出作戦

 捕まえた男達は拘束したまま放置し、目的の洞窟へと再び進み始めた。

 洞窟は案外すぐに見つかった。崖の麓そこに一際大きな空洞が空いており、すぐに洞窟の入り口だと分かった。洞窟の前には、黒の獅子団らしき男が二人見張り番をしていた。近くには、複数の馬と馬車も停めてある。


 ロルフ達は森の木陰に身を潜め、作戦会議を始める。


「見張りの二人は俺がやる。アグノは出来るだけ温存してはてティアは手筈通りに」

 二人はこくりと一回頷く。


 見張り番は洞窟の左右におり、二、三メートルは空いている。長槍を持って洞窟に入らせないような位置取りである。装備もフルアーマーとまではいかないが急所を中心に広く守られており、なかなかにやりずらい。

 ロルフは新調したばかりのナイフを両手に握り、狩人の如く目を光らせ、時を待った。


 そして、一人の見張りがもう一人へと近付いた時――


「―― 疾駆逐電(ドゥラペテーヴォ)


「「っ……!」」

 ロルフは瞬時に二人の鳩尾に的確にナイフを打ち込む。その力量差は歴然で、見張りは武器を構える暇もなく、白目を剥きながら気絶する。

 倒れた二人を素早く森の中に縛り付け、ロルフは中へと入る。

 それを確認したアグノは洞窟へと駆け出す。


 洞窟に入れば、中を反響する声が幾つもある。村人もいるということは分かるが、敵の人数も気配が多すぎて正確には分からない。


 ロルフは後ろに差した二本のナイフを、アグノは剣を抜く。

 先ほどはティアの手前、負担を掛けないよう気絶させたが、ここからは命の取り合いだ。

 迷宮の中と同じ、殺さなければこちらが殺される。


「二人とも気を付けて」

「ああ、そっちもな」

「ティアも気を付けて」

 ここからはロルフとアグノの二人とティアは別行動をとる。


「行くぞ」

「うん」


 この戦いに於いての最重要事項なのは村人を救い出すということ。

 問題は村人を救い出す方法だ。その作戦の立案者はティアであった。そして、その作戦のキーとなるのもティアの存在だった。

作戦は単純だ。ティアが村人の所までトンネルを掘り、地下から一気に村人を救出する。

 ティアならば土の中を移動し、簡単にトンネルを掘ることが出来る。敵にばれることなく、地中から村人たちの元に行き、その下を一気にくり抜き一斉に村人の救出が可能だ。

 ティアがトンネルを掘る間、そして村人を救出し安全圏まで逃げる間、ロルフとアグノが紋章持ちの二人を抑えるこれが大まかな作戦の内容だ。


 紋章持ち以外は雑兵でしかないが、その隙に紋章持ちに攻められれば危うくなる。


 先ずは紋章持ち以外を片付けるために、慎重に進む。


 すると、奥から二人組が会話しながらこちらに歩いてくる。おおよそ、見張り番の交代だろうかと当たりをつける。


 ロルフは曲がり角から一気に飛び出し肉薄する。

 ロルフに気付いた男達は腰に下げた剣を抜こうと手をかけ、引き抜こうとする。しかし、すかさずロルフは腰を屈め二人の間に入ると、逆手に持っていた右手のナイフで左側の男の喉元へと瞬時に突き刺す。

その隙にアグノがもう一人を背後から斬りかかる。

 鮮血を噴き出し、苦痛の表情を浮かべながら男二人は音を立てて崩れ去る。

 二人の足下には一瞬で血の海が出来る。


 ロルフは構うことなく、左に倒れる男の首からナイフを引き抜き血を払う。

 人を殺したことは今まで無かったが、人が死ぬところは何度も見てきた。モンスターも何度も殺してきた。それでも、その場面になれば動揺するかとも思っていたが、モンスターと同じ命の奪い合いをしたという興奮が手に残っていただけだった。

それでも、心の何処かで奪った命について考えてしまう。ロルフは出来れば人は殺したくないとそう思った。


 ロルフはアグノにちらりと視線を向ける。アグノも殺人に対して狼狽えている様子はないが、じっと二つの死体を眺めている。自分たちが殺した人間の顔を覚えているのか、村を襲った人間を忘れないためか、それはロルフには分からなかった。


「大丈夫か?」

「大丈夫、先を急ごうか」

大丈夫だというようにアグノは笑みを浮かべ言う。

「ああ」


 二人は死体に踵を向け奥へと進む。

 奥へ行くにつれ人の話し声や気配が濃密になっていく。

 洞窟に入り十分もしないうちに黒の獅子団が根城とする広い空間が見えた。

 ロルフはレアモンスター狩りで培った技術で気配を殺し、岩陰に隠れて中を覗く。


 一際体躯の大きい男と黒色のローブに身を包む男が奥に鎮座しており、その手前に六人の柄の悪い男が酒を呑んだり、賭け事をして笑っている。おそらくあの大男がガルル、ローブの男がマギコだろう。


 そして右手に半円状の穴が出来ており、その中に村人らしき人達が詰め込まれ、監獄のように金属格子で閉じ込められていた。


「おい、爺さん。本当に知らねぇのか? 宝石の在処はよぉ」

 低く唸る獣のような声が洞窟に響く。


「本当に何も知らないっ! 私達の村は貧乏な村で、代々引き継がれてきた物は祭りの祭具位だ! その中に宝石などという高価な物は見たことがない!」

 老いを感じるが芯の通った声がそれに応える。


「村長だ……」

 村人達の生存を知ったアグノは少し安堵しながらも静かに呟いた。

 村を襲ったやつらに堂々と白を切り、声を張り上げる姿は村長としての風格があった。


「俺も無闇な殺生は嫌いなんだがなぁ。あくまでシラを通すつもりなら、仕方ねぇ!」

 ガルルはそう言ってこの場に似つかわしくない煌びやかな椅子から立ち上がり、牢へと一歩一歩と距離を詰める。


 アグノの怒りは爆発寸前だった。握りこんだ拳が痛くなるほど軋む。今にも飛び出してしまいたい衝動にかられた。


 もう飛び出していいか、と求めるように後ろを振り返れば、憤慨したように大男を睨みつけながらも、冷静に機会をうかがっているロルフがいた。それを見た途端、アグノは少し冷静さを取り戻した。


「まずは紋章持ち以外だ。アグノ、準備は出来てるな」

「準備出来てるよ」


 ガルルが村人の胸ぐらをつかみ、拳を振り上げようとした瞬間、


「今だ!」

 ロルフの合図で二人は一斉に飛び込んだ。


 初めにロルフに気付いたのは入口近くにいた男だった。


「てっ、敵だっ!――――っ!」

 会敵を知らせると共に男の喉元から血が噴き出し、倒れる。

 返り血を浴びることのない速度で一直線にロルフが大男へと肉薄したのだ。


 突然の死に何が起こったかも分からず呆然とする者達。それらは村人も含めた紋章持ち以外の者達だった。

 そしてその数秒が戦場となったこの場で命取りであった。


 アグノは自らの剣で指先を切り、慈血焔壊(アギオス・アグニ)を詠唱し、球状の火焰を七つ浮かせる。


 アグノが先ず攻撃を仕掛けたのは参謀と呼ばれるローブの男、マギコ。

 狙いをつけ、浮かばせていた火球を二発射出する。

 そして、左の四人、右の一人に火球を放つ。

 ほぼ同時に七つの爆発が起き、紋章なしの雑兵たちは容赦なくその顔面を焼かれ、息をすればたちまち気管を焼かれ息が出来なくなる。のたうち回る男たちもすぐに動かなくなる。

 作戦通り、紋章持ち以外の殲滅を瞬時に終わらせた二人はすぐさま標的を切り替える。


(僕が抑えるべきはローブの男!)

 火球の爆発によって舞い散る土煙にアグノは一直線に突っ込んでいく。


 それとほぼ同時に、ロルフは大男の首にナイフを持った右手を叩きつける。渾身の一撃は風を切り、音を鳴らしながら刹那に距離を詰める。


「はあっ!!」


 しかし、首を捉えたナイフは大男の腕につけられたガントレットによって完全に停止する。


 ギリギリ、と金属同士が拮抗する音が響く。


「――速い。が、軽いなぁッ!」


 大男はその豪腕でいとも容易くロルフの一撃を振り払うように弾き飛ばす。


 ロルフはバックステップで大きく後ろに下がりつつ、ナイフを構え直す。頭二つ以上ある身長差はそれだけで威圧感を感じさせる。


「ガキの割にはよくやるじゃねぇか」

 カカッ、と興奮したように笑い上げる。しかし、その間も脱力しているようで全く隙を見いだせない。


 ――たったの一合。


 それだけでロルフは自分よりも遥かに実力が上であることを悟った。


 そして、先ほどはよく見えなかった顔を正面からはっきりと眺めて気付く。


「昨日の大男!?」

 ロルフが昨日、宿の扉をぶつけてしまった大男であった。ロルフはまさかの人物に目を丸くして驚く。一瞬何もかもを忘れる程に驚愕した。


「ん……? あぁ! 昨日のガキか! 面白れぇこともあるもんだ!」

 ガルルも眉を上げ驚いたように声を上げる。そしてその偶然に面白そうに笑みを浮かべる。


「あんた、傭兵なんだろ! 村を襲って何が目的だ!」


「目的? あぁ、この村にあるらしい宝石? 宝玉? を奪うことだ。そうだ、お前知らねぇか? 白っぽいやつだ見たことないか?」


「知らねぇ! 宝石なんか探してそんなに金に困ってんのか?!」

 ロルフは苛立ちを隠そうともせずに言う。怒りは本物だが、特徴からしてアグノの持つネックレスで違いなさそうだと冷静に判断する。


「俺らは金の為にこの依頼を受けただけだ。だからそれは間違っちゃいねぇ。ただ、仕事にも楽しみは必要だろ? それなのに目的のものはねぇし、一方的にいたぶるなんてのも面白くないわでちょうど退屈していたところだったんだよ。だが、予期せぬ邪魔者の登場! ようやく面白くなりそうだ!!」


 ガルルは饒舌に語る。ロルフ達とは根本的に考え方の違う人種だ。金の為だけに人を殺し、奪い、傷付ける。戦闘に命のやり取りに楽しみを見出す戦闘狂。仲間が殺されたことに何の怒りも感じずに、これから始まる戦闘に心を弾ませる。

 ガルルはまるで肉食獣が草食獣を狙うような、鋭くも愉悦を感じる瞳でロルフを睨む。昨日の笑顔とは違う、純粋な狂気の笑顔。


「もういい、てめぇがどういう人間かよく分かった」

 ロルフは男に殺気を飛ばしながら、吠える。


「いいねぇ、威勢のいいガキは好きだぜ、俺は! ガキ、名前は何だ?」

ガルルは笑みを浮かべながら問う。


「お前に名乗る名前なんてねぇよ!」

それをロルフは拒絶する。


「じゃあ、俺は勝手に名乗るぜ」


「――俺は黒の獅子団、頭。ガルル・レグスだ、()()()()()


 こうして、紋章持ち同士の戦いが始まった。









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