第四話 仲間になった
痛む体を動かして奥で転がっているアグノの元へ向かう。
「大丈夫か?」
「うん、傷口自体は塞がってるんだけど動けないや」
アグノの体を見れば服の腹のあたりが大きく切れていた。
「何にせよ助かった。後は帰るだけだ」
「そうだね、早くしないと僕らも丸焦げだ」
ロルフが振り向いた先は轟々と燃え盛る炎が徐々に森を侵食していた。
ロルフは自分の上着を脱ぎ、裸の状態でアグノを背中に乗せ、脱いだ上着をロープのようにして自分の体とアグノを固定した。
キュキュと何回か袖を縛り確認すると出口に向かって走り出す。
興奮状態のうちに出られなければ、痛みが増し他のモンスターに襲われた時に逃げられない可能性がある。
そうならない為にも無茶を承知で急ぐ必要があった。
ロルフ達は順調に出口へと向かい四階層へ着いた頃。
「――ロルフッ!!」
「……ナティ姉!?」
淡い光を放つ結晶のみが光源の暗い洞窟で突然名前を呼ばれる。
聴き馴染みのある声にもしやと思いながら進むと、暗闇から現れたのはロルフの専属職員でもあるナスティの姿だった。
「行っておいでよ、僕は大丈夫だから」
「……ありがとう」
家族を一番に思うアグノは自分を床に下ろさせ、再会を促す。
ロルフがアグノを下ろした瞬間ナスティはロルフに飛びかかる。
「ああっ! 良かったっ、生きてて……!」
ロルフを包み込むように抱きしめる。その力は元冒険者だけはあった。
「ちょっ…………ギブっ」
ナスティの胸に顔をうめるロルフは息が出来ずにジタバタと暴れる。
「ごめん、もうちょっとこのまま……」
ナスティの顔を見なくともロルフにはナスティがどんな表情でいるかが理解出来た。
(沢山心配かけたよな。ありがとう、ナティ姉)
ロルフは自然とナスティを抱きしめ返した。
床に座りながらそれを微笑ましいそうに見上げるアグノ。
三十秒程経ってナスティがロルフから腕を離す。
「……ところで、何でナティ姉がダンジョンにいるんだ? 大丈夫なのか?」
若干の気まずさを祓う為にロルフは疑問を口にする。
「そんな事よりも回復優先」と言いながらロルフに回復魔法をかけながら、話を始める。
「実はね、ダンジョンに異常が発生したの。今確認出来ているのは二階層の地形変化、それから十階層にボス階層のモンスターが出現していることね」
「それで、彼は? 何があったの? 」
「彼はアグノ。もしかしたらナティ姉の方が詳しいかもね」
ギルドで働いているだけあって知っていたようで納得したように声を出した。
「彼がアグノ君ね。話は聞いてるよ、期待の新人って噂だからね」
「ありがとうございます」とアグノは笑みを零す。
「それで実は――」
ロルフはこれまでの経緯を話し出す。
「――何で逃げなかったのッ!! フェンリル相手に2人で戦うなんてッ!」
「「ごめんなさい」」
二人は地面に座らされ、鬼のようなナスティに叱られる。
「とはいえ、二人とも良くやってくれたわ」
アグノの状態は単に怪我という訳ではないので回復魔法であっても回復に時間が掛かっていた。
しかし、時間はかかるといっても数分のうちにアグノは動ける位には回復した。
「それじゃ帰りましょうか」
ナスティの柔らかな笑みがロルフを安心させる。
ロルフはようやく心が軽くなった気がした。
◇
あれから一週間が経った。
ダンジョンは一時的に冒険者ギルドによって封鎖され、すぐに高ランク冒険者のみで構成された調査隊によってダンジョンの異常調査が開始された。
低階層から順に開放されつつあるが、未だ調査中である。それを受けて既に多くの冒険者が他の近場のダンジョンに向かっていった。
冒険者の街というのは経済活動の中心が冒険者であり、冒険者が居なくなれば、モンスターのドロップを買い取る商人も、冒険者必需品を売りに来る商人も居なくなる。往来が少なくなれば宿屋も儲からず、飯屋も土産屋、多くの店が打撃を受ける。一応、それらの店にはダンジョンの調査が終わるまで冒険者ギルドや商業ギルドから資金の補填がある。
とはいえ人が少なくなるのは変わりなく、少しばかりこの街も閑古鳥が鳴くだろう。
ロルフとアグノは今回の件の当事者であり、冒険者ギルドに一日拘束され話をさせられた。それだけ、今回の異常が大きかったというのと、フェンリルというのがどれだけ悪名高い存在であるかということの証明でもあった。
ロルフ達にとってフェンリルとの会敵は不幸ばかりではなく、ランクが上がった。ギルド内での強さを表す星が一つ上がり二ツ星冒険者に格上げされた。
それに対してロルフを馬鹿にしていた奴らは顎が外れるんじゃないかというほど驚いて、負け惜しみすら吐かずに固まっていた。
いつもの調子でニヤニヤとロルフが煽ると、顔を真っ赤にして追いかけてきたガリアは傑作だった。
ロルフは初めて心の底から煽り合いを楽しんだ。
そして、ロルフがフェンリルを倒したと聞きつけた冒険者達は、ロルフへの対応を180度変え、是非うちのパーティーに来ないかと連日勧誘を受けることになった。それでもアグノに比べれば、まだマシな方だ。ギルドに顔を出せば、一斉に囲まれて我先にと冒険者達がアグノに話しかける様子は餌に群がる家畜のようであった。
そんなことをしている傍らギルドではアンデッドのような顔付きの職員が大忙し。そこにはもちろんナスティの顔もあった。一週間が経った今なおも業務に追われ忙しそうにしている。
傷や疲れも癒え、一旦落ち着いたアグノとロルフは酒を飲み交わしながら祝勝会を行なっていた。
「色々とあったが、お疲れ様だ」
「本当にフェンリルと戦った時より疲れたかもしれないよ」
「ははっ、違いねぇ!」
酒も入っているせいかいつもより上機嫌なロルフは高らかに笑う。
「それで、アグノはこれからどうするんだ?」
「死にかけたけど運良く生き残れたからね、一回僕は故郷の村に帰るよ」
「俺もついて行っていいか? どうせしばらくはダンジョンには潜れないし、お金は大分余裕あるしな」
フェンリルを倒したことで10年以上は食っていけるほどの大金が入ってきた。ダンジョン封鎖の期間はどのみち休もうとしていた為、ちょうど良かった。
「大したところじゃないけれど、それで良いなら喜んで」
「故郷に行った後はどうするんだ?冒険者を続けるのか?」
少し不安そうにロルフは尋ねる。死にかけた後で冒険者を辞めると言うのは珍しいことではない。
「んー、まだ冒険者を続けるかな。他にやりたい事もないしね」
腕を組んで少し考えた後、アグノは笑って言う。
「だったら、俺とパーティ組まないか?」
少し照れくさそうに頬を掻きながら言う。
「もちろん!」
アグノは嬉しそうに即答した。
「よっしゃっ!」
ロルフは小さくガッツポーズを取る。初めての仲間の存在にロルフは喜んだ。
その後も酒を飲み交わしながら、今までのことを話したり充実した時間を過ごした。
◇
ガタンゴトンと馬車が揺れ、荷台の中から風に揺れ美しく輝く草木を眺める。
何とも美しい光景であるが、何日も見ていれば飽きるというものだ。
旅とはもっと面白いものだと思っていたロルフはなんだか夢が砕けた様な喪失感を感じていた。
「暇だな」
「そうだね」
初日はウキウキだったロルフは既に馬車に揺られるだけの生活に飽き飽きしていた。
「これが後一週間以上続くんだろ? 遠くないかアグノの村は」
「遠いっていってもまだ近い方だよ。何ヶ月もかけてエデンを目指す人もいるんだし」
「マジ?」
ロルフは信じられないといったように目を見開く。街を出たことがなかったロルフはそこら辺の感覚がズレていた。
「マジ」
アグノは嘘ではないことを明確に伝える。
ロルフは、はぁと溜息をつく。
「まぁ、文句言っても仕方ないか」
ロルフはなんとはなしに自身の左腕のステータスを眺める。
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ロルフ・アンロス (十四歳)
ヒューマン
力 253
俊敏 645
器用 313
持久力 284
魔力 237
スキル
疾駆逐電
魔力を消費し瞬間的な移動を可能とする。
逃走本能
敵への恐怖増大、俊敏、持久力への超高補正。
→闘争本能
全パラメータへの高補正、強敵との戦闘時、俊敏、力への超高補正
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「……うへへっ」
気持ちの悪い笑みを零すロルフを呆れた目で見つめるアグノ。
暇になるとこうしてだらしない顔をするのを見続けるれば呆れるのも仕方ないだろう。
しかし、ロルフは喜悦のあまりアグノの視線など気にも止めていなかった。
それも仕方ない。ロルフの念願が叶ったのだ。
逃走本能が闘争本能へと昇華することで恐怖というデメリットは消え、さらに強力なものへと変化していた。
「……本当にただの子供だなぁ」
そんなロルフの様子に、ポツリと独り言を漏らすアグノ。
「え? 何か言ったか?」
「何も言ってないよ」
自分を助けたヒーローはどこか抜けている無邪気な少年で、でも、恐怖に震えながらも人を助ける勇気のあるそんな人。
そんなロルフと一緒なら冒険も悪くないと、そう思うアグノだった。




