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【言葉の鍵穴】(外伝追記と追記)  作者: かぐつち・くまナぱ(便乗期間限定w)


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言葉の鍵穴【 外伝:鍵穴の前に】

本編『言葉の鍵穴』にいただいた感想へ、お返事を書いていたところ……


頭の中にあったセラの過去の設定を、もう少し広げてみたくなってしまいました!(笑)(о´∀`о)Φ<そして、気がつけば外伝が一本できあがっていました!w


私の脳内の設定だけで眠っていたものが、ようやくお話になった感じですね!(。•̀ᴗ-)b✧というわけで、今回はセラの過去を描いた外伝です。


本編とは少し違った彼女の姿を、楽しんでいただけたら嬉しいです。m(_ _)m


それでは、どうぞ!ヽ(=´▽`=)ノ

 言葉の鍵穴【 外伝:鍵穴の前に】


 ◆◆◆


 ──セラの家は、代々、領主の「口」を務める家だった。


 他領との境の争い。水利の割り。税の減免。訴えの取り次ぎ。


 領主の命を、そのまま伝えるだけではない。


 民の事情を、領主の耳へ運ぶのも、その家の仕事だった。


 家訓は、一つだった。


『どの主にも、寄らぬこと。』


 もう一つ、掟があった。


『口の家の子は、外では、仮の名で呼ばれる。真の名は、父母と、いずれ添う者にだけ、明かす。』


 名は、鍵になるからだった。


 ──「セラ」は、その、仮の名だった。


 父は、一族の家訓を、一番うまく守った人だった。


 隣り合う二つの領が、小川一本をめぐって、戦の支度を始めたことがあった。


 父は、四十日、両方の陣を、歩いて往き来した。


 古い境の石を探し出し、水を、日で分けた。


 一本の矢も、両方の領からは、飛ばなかった。


 領主は、父を「あの男がいれば、剣が要らぬ」と言った。


 民は、「領主に逆らってでも、話を聞いてくれる人だ」と言った。


 他領は、「敵に回したくない」と言った。


 強硬な者たちは、「決断を遅らせる臆病者だ」と言った。


 父は、最後の評判を、一番よく覚えていた。


 ──その夜、セラは、眠れなかった。


 廊下の向こうで、紙をめくる音が、していた。


 書斎の扉を、少し、開けた。


 父は、机に向かっていた。帳面が、いくつも、広げてあった。


「父さま」


 父は、顔を上げた。


「眠れないのか」


 うなずくと、父は、ペンを置いた。


 帳面を、閉じた。


「おいで」


 抱き上げられて、廊下を歩いた。


 父の肩は、インクと蝋の匂いがした。


 寝台に戻されて、掛け布が、整えられた。


「父さまは、まだ、お仕事?」


「もう少しな」


「おしごと……たいへん?」


「そうだな」


 父は、少し、笑った。


「言葉は、鞘だ」


 父は、寝台の脇に、静かに、腰を下ろした。


「刃を抜く前に、一度、怖がれる者が、要るのだ」


「怖がるの?」


「何を失わせるか。誰を傷つけるか」


 父は、セラの髪を、撫でた。


「言葉は、鞘なのだ」


 セラは、その意味を、まだ、よく知らなかった。


 父の手が、温かかったことだけを、覚えていた。


 ◆◆◆


 ──セラが八つの年、父は、当代の領主と、約束を交わした。


 領主の嫡子ベルトランと、セラを、いずれ、娶せる。


 政略というには、素朴な約束だった。


 口の家を、次の代にも、つなぎ留めておくための。


 ベルトランは、そのとき四つだった。


 痩せた、よく熱を出す子で、馬が、少し苦手だった。


 セラのことを、「姉さま」と呼んだ。


 年上の許嫁を、そう呼ぶ者は、他にいなかった。


 セラは、その呼び名が、くすぐったかった。


 それから三年たった秋の午後、庭の林檎の木の下で、二人は、実ひとつをめぐって、言い争った。


 遊びだった。


「ベルトラン様」


「ベルでいいよ」


「そういうわけには、まいりません」


「じゃあ、代わりに、あとで、ひとつ、教えて」


「何をですか」


「あれが採れた、後で」


 ベルトランは、林檎の枝を、指さした。


「これは、私が先に見つけました」


「見つけただけじゃ、自分のものにならないって、父上が言ってた」


「では、あなたのものでもありません」


 ベルトランは、笑って、言い返した。


 七つの子の声だった。


 何度か、言葉が、往き来した。


 やがて、セラは、言った。


「あなたは、嘘をつくとき、左の袖を、握ります」


 ベルトランの顔から、笑いが、消えた。


「……まさか」


「今、握っています」


 本当だった。


 男の子は、右の手で、左の袖を、握りしめていた。


 ──長い、間があった。


 セラは、勝ったと思った。


 胸が、温かくなった。


 それから、ベルトランは、小さく、息を吐いた。


「……当たり」


 彼は、袖を、まくった。


 小さな手首には、まだ大きい、細い銀の腕輪が、はまっていた。


「母上がくれた腕輪。亡くなる前の日に、はめてくれた」


「嘘をつくと、これが、重くなるんだ。だから、握っちゃうんだ」


「……ごめんなさい」


「いいよ」


 ベルトランは、林檎を、セラに、渡した。


「でも、姉さまは、見えすぎる。当てられると……逃げるところが、なくなる」


「逃げ場が、なくなると、どうなりますか」


「怖い」


 彼は、正直に、そう言った。


 それから、少し考えて、付け足した。


「だから、ひとつだけ、約束して」


「はい」


「姉さまが話すときは、ぼくが、聞く役をやる。最後まで、聞く」


 ベルトランは、セラの目を見つめた。


「その代わり、言い終わる前に、一回だけ、息をして」


「……どうしてですか」


「そこに、ぼくが、入るから」


 セラには、意味が、分からなかった。


 ベルトランは、林檎を持つセラの手を、じっと見た。


「姉さま。さっきの、あとで、だよ」


「……はい、何でしょう」


「姉さまの、ほんとうの名前、教えて」


 セラは、息を、止めた。


 父母は、その名を、人前で、一度も、呼んだことがなかった。


「……ずるいです」


「ぼくは、腕輪を、見せたよ」


 セラの耳が、赤くなった。


 あたりを見回して、誰もいないのを、三度、確かめた。


「……笑わないで、くださいね」


「笑わない」


「ぜったい、ぜったい、内緒です。破ったら、もう、口をききません」


「うん。約束する」


 セラは、両手で、口の脇を、囲った。


 ベルトランの耳に、顔を、寄せた。


 名を、告げた。


 ベルトランは、少し、黙っていた。


 それから、その名を、口の中で、一度だけ、転がして、笑った。


「いい名前」


「……やめてください。呼ばないで」


 セラは、両手で、顔を、隠した。


 指の間から、林檎の赤と、よく似た色が見えた。


「呼ばないよ。ぼくだけの、鍵にしておく」


 ──その夜、セラは、母の寝台の脇に、立った。


「母さま」


「どうしました」


「……ベルトラン様に、告げてしまいました」


 母の手が、止まった。


「何をですか」


「ほんとうの、名を」


 母は、灯りを、小さくした。


 長い、間があった。


「あの方は、何と」


 セラは、叱られると、思った。


「いい名前、と。……呼ばないよ、と。ぼくだけの、鍵にしておく、と」


 母は、小さく、息を吐いた。


 笑ったのかも、しれなかった。


「叱りません」


 母は、セラの髪を、撫でた。


「預けたのなら、信じなさい」


「……はい」


「おやすみなさい」


 寝台の中で、セラは、口に残る、林檎の甘さを、思った。


 ◆◆◆


 ──火は、その年の秋に、来た。


 セラは、十一になっていた。


 ベルトランは、その秋の初めに、川上の領主の元へ、預けられていた。


 館には、いなかった。


 窓の外では、声が、日ごとに大きくなっていた。


 畑を捨てた者たち。


 税を払えなかった者たち。


 その夜、館には、領主の客が、大勢いた。


 父は、広間の隅に、立っていた。


 ──鞘は、間に合わなかった。


 誰が、最初に火をつけたのかは、のちのちまで、語られなかった。


 母は、セラを、窓の外へ、押し出した。


 右の頬を、火が、舐めた。


 熱い、と思う前に、世界が、白くなった。


「聞いてもらえなくても、話しなさい」


 窓の内側で、母が、言った。


「話すことは、聞いてもらえるかどうかとは、別のことだから」


 それが、最後だった。


 朝になって、館は、黒い梁だけになっていた。


 セラの家の者は、ひとりも、出てこなかった。


 領主も、そのとき、死んだ。


 ──セラは、川のそばに、座っていた。


 右の顔は、火傷で、引きつれ、片目が、うまく開かなかった。


 村の子どもが、来た。


「あの家の子だ」


 最初の石は、肩に当たった。


 二つ目は、避けた。


 三つ目から、避け方を、覚えた。


 残ったのは、それだけだった。


 ──ある日、荷車が、通りかかった。


 御者は、何も言わずに、セラを、藁の上に、乗せた。


 川を渡って、よその領の、小さな村に、降ろした。


 それが、善意だったのか、厄介払いだったのか、セラには、分からなかった。


 ◆◆


 ──その冬、セラは、村の外れの、代書人の家の軒下で、凍えていた。


 老人は、何も訊かずに、粥を、置いた。


 字の読めない者の代わりに、訴えを、書く人だった。


 セラは、一年、黙って、その手元を見ていた。


 字を覚えた。順序を、覚えた。


 ──ある日、老人が、言った。


「お前は、顔を見られると、聞いてもらえんな」


「石も投げられます」


 セラは、うなずいた。


「なら、顔を見せる前に、声を聞かせることだ」


 次の春から、セラは、老人の隣の、屏風の向こうに、座った。


 ──訴えを持つ者が、屏風の前で、話す。


 セラは、屏風の向こうで、それを整える。


 誰が、何を、いつ、失ったか。


 順序と、数と、日付。


 屏風の向こうの声は、ふしぎと、よく、聞こえた。


 老人は、時々、言った。


「人には、鍵穴がある」


「恐れだ。誰にでも、ある。形は、ひとりずつ、違う。形を知って、合う鍵を作れば、どんな扉も、開く」


 セラは、林檎の木の下の、袖の話を、思い出した。


 黙って、うなずいた。


 老人は、少し、黙った。


「ただし、扉の向こうに、人がいる」


 セラは、その言葉を、よく聞かなかった。


 ◆◆◆


 ──老人は、セラが二十の冬に、死んだ。


 最後に、枕元で、言った。


「お前の言葉は、よく切れる」


「はい」


「切れすぎる」


 老人は、目を閉じたまま、続けた。


「私は、切らない言葉を、教えそびれた」


 セラは、老人の手を握りながら、尋ねた。


「切らない言葉は、誰が、聞くのですか」


 老人は、答えなかった。


 セラは、泣かなかった。


 ──春になって、ひとりで、屏風の前に座った。


 最初に引き受けたのは、小さな村の、土地の訴えだった。


 相手は、その土地の、有力者だった。


 セラは、帳面と証言を、そろえた。


 正しい順序で、正しいことを、述べた。


 有力者は、薄く、笑った。


「その帳面を書いたのは、誰だ」


「証言した者は、ここにいるのか」


「お前は、誰の代理として、話している」


 セラは、答えられなかった。


 正しいことを言う、資格の話では、なかった。


 正しいことを聞かせる、足場の話だった。


 ──負けた。


 村人は、うなだれて、帰った。


 セラは、屏風の向こうに、ひとりで、座り続けた。


 初めて、言葉が、届かない、ということを、知った。


 ◆◆


 ──三か月、セラは、その有力者のことだけを、調べた。


 粉を挽く者。荷を運ぶ者。市で、彼の名を、口にする者。


 土地の有力者は、領主に納めるべき税の、一部を、懐に入れていた。


 息子の借金を、村人の土地で、埋めていた。


 セラは、それを、並べた。


 二度目の席で、有力者は、何も、言わなかった。


 ──言えなかった。


 土地は、村に、戻った。


 村人は、泣いた。


 誰かが、セラの手を、握ろうとした。


 セラは、屏風の向こうで、それを、受けなかった。


 胸の底が、温かかった。


 勝った、と思った。


 そして、その温かさの下で、別のことを、知った。


『正しいことを言うだけでは、勝てない。』


『相手が隠しているものを、知ること。逃げ道を、先に塞ぐこと。』


 それが、聞かせる、ということなのだと、思った。


 老人の言葉は、棚の奥に、しまった。


 ──その後、勝ちは、続いた。


 水を止めていた村の長は、広場で、言葉を失った。


 水は、流れた。


 翌年、その村に、その長は、いなかった。


 それでも、セラは、研ぐのをやめなかった。


 二十八を過ぎる頃には、屏風の前に、様々な領主の使いが、立つようになった。


 誰も、セラに、勝てなかった。


 ◆◆◆


 ──勝っているあいだは、石が、飛んでこなかった。


 それが、セラには、何より、大きかった。


 市場で、人は、道を空けた。


 目を伏せる者もいた。


 それでも、石は、来なかった。


 勝てば、聞いてもらえる。


 聞いてもらえるあいだは、顔を、見られてもいい。


 ──負けたら、どうなるのか。


 考えないことにした。


 宿に着くと、毎晩、同じことをした。


 明日の席の、相手の言葉を、すべて、先に口に出す。


 そのすべてに、答えを置いておく。


 眠る前に、灯りを、点ける。


 暗くなると、あの夜の、窓の白さが、来るからだった。


 朝まで、小さな灯りを、点けたまま、眠った。


 食事は、いつも、ひとりだった。


 粥と、塩。


 一度、宿の子どもが、セラの顔を、じっと見た。


「それ、痛い?」


 セラは、答えられなかった。


 勝てる論なら、いくつも持っていた。


 その一言に置く言葉は、なかった。


 子どもは、母親に、手を引かれて、行った。


 その晩、セラは、いつもより、長く、灯りを見ていた。


 ◆◆◆


 ──それから、六年あまり。


 セラは、三十四になっていた。


 その夏、川の向こうの、あの領から、使いが、来た。


 言伝は、短かった。


 七つの村が、飢えている。


 領主は、聞く耳を持たないのではない。


 何も、してこなかったのでもない。


 だが、届いていない。


 誰が、そう言ったのかは、分からなかった。


 セラは、頼まれて、行ったのではなかった。


 正しいことを、言うために、行った。


 けれど、領主の館に入る前に、七つの村を、歩いた。


 ──最初の村では、母親が、来年蒔くはずの種籾を、煮ていた。


「子どもに、食べさせたかったの」


 母親は、それだけ、言った。


 ──二つ目の村では、畑を捨てた男が、納屋の隅に、座っていた。


 税を払うために、牛を売った。


 牛がいなくなって、畑が、起こせなくなった。


 怠けたのではない。


 ──三つ目の村の、水車は、止まっていた。


 水が、来なくなった。


 粉を挽く仕事を、失った。


 老いた水車守は、村人への借りを、返せずにいた。


 ──四つ目の村には、子どもだけが、残っていた。


 父親は、徴用に出たまま、帰らない。


 母親は、行方を知らない。


 ──五つ目、六つ目、七つ目の村にも、それぞれの、事情があった。


 同じ理由で、飢えている村は、一つもなかった。


 水と、税と、借りと、人手と、荷の滞り。


 絡み合っていた。


 誰も、領主を、責める言葉を、持たなかった。


 ただ、明日を迎えるために、生きていた。


 七つ目の村の、年嵩の男が、セラに、訊いた。


「お前さんが、館の口の家の、生き残りだと、聞いた」


「はい」


「領主に、話せるか」


「話すことは、できます」


「聞いてもらえるか」


「それは、分かりません」


 男は、しばらく、考えていた。


「それでも、話してくれんか」


 セラは、うなずいた。


 母の言葉が、胸を、通り過ぎた。


『聞いてもらえなくても、話しなさい。』


 けれど、その夜、セラの中で、それは、別のものに、変わっていた。


 ──『聞かせなければ、ならない。』


 ◆◆◆


 ──領主ベルトランは、小さな部屋で、セラを、迎えた。


 痩せた男になっていた。


 彼は、セラの顔を、一度だけ、見た。


 右の頬の、火傷の痕を、見た。


 それから、何も言わず、目を、帳面に、戻した。


 名は、互いに、呼ばなかった。


 ベルトランだけが、セラの、ほんとうの名を、知っていた。


 その、右手が、机の下で、左の袖を、握っていた。


 セラは、それを、見なかった。


 見ていたのは、彼の口と、彼の論の、穴だった。


 一日目、彼は、言った。


「飢えは、先代の頃からだ」


 セラは、三年分の帳面を、広げた。


 二日目、彼は、言った。


「民が、勝手に、畑を捨てたのだ」


 セラは、村の名を、七つ、挙げた。


 畑を捨てた日付と、徴発の使いが来た日付を、並べた。


 使いは、いつも、先に、来ていた。


 三日目、彼は、何も、言わなかった。


 セラは、飢えて死んだ者の数を、伝えた。


 最後の一人まで、数えた。


 三日の間、セラは、一度も、息を、つかなかった。


 彼の指は、袖を、握りしめたままだった。


「……それを、民の前で、言うのか」


 長い間のあと、彼は、訊いた。


「明日、広場で」


 セラは、答えた。


 ──その夜、領主の館の灯りは、朝まで、消えなかった。


 灯りの下にあったのは、七つの村の帳面では、なかった。


 先代から引き継いだ、借財の帳面だった。


 兵への給金。他領への返済。


 何度も、書き直された、足りない数。


 小麦は、いくらかは、動いていた。


 七つの村には、届かなかっただけだった。


 セラは、それを、知らなかった。


 窓から、灯りを見て、眠った。


 自分で灯りを点けずに眠るのは、久しぶりだった。


 ◆◆◆


 ──四日目の朝、門が、閉まった。


 大きな音だった。


 門の上から、ベルトランが、一度だけ、セラを、見下ろした。


 目の下に、深い隈があった。


 右手は、袖を、握っていなかった。


 握る力も、残っていなかったのかもしれない。


「──では」


 最後に、彼は、言った。


「私には、何が残る」


 領主の問いだった。


 そして、林檎の木の下で、息をする間をくれと言った、小さな子の、問いでもあった。


 セラは、答えなかった。


 答えを、持っていなかった。


 彼女は、七つの村の人を、見ていた。


 けれど、門の上に立つ、一人の人間を、見ていなかった。


 正しさの先のことは、考えたことが、なかった。


 広場には、誰も、集まらなかった。


 門の外には、七つの村の者が、立っていた。


 誰かが、言った。


「話すと、言ったじゃないか」


 約束を破られた者の、怒りの声だった。


 そして、信じてしまった者の、絶望の声でもあった。


 ──最初の石は、肩に当たった。


 二つ目は、頬の、火傷の上を、かすめた。


 三つ目が、飛んできた。


 避け方は、体が、覚えていた。


 足は、動こうとした。


 セラは、動かさなかった。 


 石は、額に、当たった。


 血が、目に入った。


 誰かが、泣いていた。


 誰かが、まだ、石を、握っていた。


 七つ目の村の、年嵩の男は、投げなかった。


 ただ、立っていた。


 許したのでは、なかった。


「それでも、話してくれ」と言ったのが、自分の口だったことを、知っていた。


 セラは、膝をついた。


 やがて、石は、止んだ。


 投げる者が、尽きたのではなかった。


 投げる先が、もう、動かなかった。


 避けることをやめた体は、痛みの中で、初めて、自分の喉の奥の、重さを、知った。


 ──三か月後、飢えた民が、門の外へ、押し出された。


 二度と、領主の声を、聞く者は、いなかった。


 その日から、セラは、喋らなくなった。


 父は、言葉は鞘だと、言った。


 彼女は、それを、刃に、研いでしまった。


 鞘に戻す方法を、教える人は、もう、誰もいなかった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!m(_ _)m<今回は『言葉の鍵穴』の外伝でした。


今回のお話には、本編を書く中で改めて広げた設定や、いわゆる後付けになった部分もあります(笑)(*´∀`*)


それでも、セラが歩んできた過去を描くことで、本編での彼女の言葉や沈黙、そして人との関わり方にも、もう少し奥行きを持たせられたのではないかと思っています。(ꈍᴗꈍ)


この外伝を通して、本編のセラにも、これまでとは少し違った思いを寄せていただけたなら嬉しいです。(*人´ω`*)<いつも作品を読んでくださる皆様、感想や応援を届けてくださる皆様、本当にありがとうございます。


皆様からいただいたお言葉が、こうして新しい物語のエネルギーになったこと、とても嬉しさを感じています!

(人*´∀`)。*゜+<改めまして、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
 物語の最初でボッコボッコにした領主様。知り合いだったのか……。なんてひどい再会。  着地点定めずに勝つことだけを目的にした話し合い。こんな事をする人が居る職場は大変だろうなぁと(ひどい)。  外伝で…
番外編、セラの過去編読みました♪ 代々の仕事だったんですね〜! しかも領主ベルトランはセラの年下の元婚約者!! まさかの恋愛エピソードが! 幼い時からの経験もあって、尚更セラはそのようになってしま…
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