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忘れ潮の灯台守  作者: Tpump6957
山に眠る色
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見ていた人間

試験は、小さな木片を二枚動かすだけだった。


二枚とも同じ板から切り、台の上に並べた。イェトは木の縁へ墨で線を引き、移動させる幅を決めた。人の指一本にも満たない距離だった。


ヘドはそれを見て、少し安心したような顔をした。


「大がかりな試験でなくて助かります」


「大がかりにする必要があると思ったんですか」


俺が聞くと、彼は笑顔をこちらへ向けた。


「そこまでのお金は用意していないので」


工房には、荷主の代理の女と、坑の持分を持つ老人が来ていた。呼んだのはイェトだった。老人は物の買い方が遅い、とヘドが紹介したが、イェトは、そのおかげでまだ金がある、と返した。


二人は仲が悪いのか良いのか、俺には分からなかった。


原片には、契約した範囲を示す細い紙が巻いてあった。荷車の後ろで車輪の音を聞いていた時間。小さな保持や移動に使うため、工房が以前から買っていたものだ。


俺は名称を声に出して確かめ、封片を受ける道具へ収めた。


片方には、箱へ入れ直されていた良い試料を継いだ。もう片方には、キナが昨日持ってきた荷から、その場で切り出した薄片を使う。原片は同じ一枚を順に接続し、使う流れを止め目で小さく絞った。


「先にこちらを」


俺は良い方へ手を置いた。


木片が滑った。


台を擦る乾いた音がして、墨の線の手前で止まった。窓から来る光の下で、原片の白い筋が少し細くなる。


次に、キナの持ってきた方を繋いだ。


最初は同じように動いた。


半分ほど進んだ所で、木片が斜めに振れた。止める。俺の手元で栓が鳴った。薄片の中央に暗い線が走り、縁が細かく剥がれた。


原片には、もう一つ透明なところが増えていた。


木片は墨の線へ届かなかった。


誰も喋らなかった。


下の荷主の女が、椅子を引いて前へ来た。彼女は動かなかった距離より、台から外れかけた木片を見ていた。


「これを留め具の保持に使ったら?」


イェトは割れた薄片を拾った。


「支えている途中で、手が離れる」


女はヘドへ向き直った。


「明日の分は止めます」


「待ってください。いま持ち込まれた一つを、全部へ当てはめるのは」


「全部かどうかは、止めてから見ます。うちの荷先で割れたら、うちの名前になる」


ヘドの笑顔が、ようやく消えた。


俺は紙を出した。昨日取った石の輪郭と重さ、それから戻された箱の中身を並べる。


「僕が選んだ見本が、途中で替わっています」


ヘドは紙を見なかった。


「出荷に使う物をお渡ししたはずです」


「そうでしょうね。良い物を選べるんだから」


言ってから、声が鋭くなりすぎたかと思った。


だが、ヘドは俺を見た。


今までで一番、俺をよく見た。


「山に何人いるか、知っていますか」


「今日、働いている人は見ました」


「荷を止めれば、給金が止まる。あなたは調べた分を受け取って帰れる。ここには冬が来るんです」


俺は言い返そうとして、口を閉じた。


彼の言葉には、人の顔を盾にできるだけの事実があった。窓の閉まり方を喜ぶボルンも、肩へ食い込む重さを気にするキナも、ここで暮らしている。


坑の持分を持つ老人が、台の木片へ指を置いた。


「ヘド。去年、乾燥の棚を増やすと言った金は」


「別の支払いへ回しました。今の数を出さなければ」


「誰が決めた」


ヘドは俺から目を離した。


俺はその横顔を見ていた。


「取り決めに沿って、出荷を続けるためです」


「昨日の見本を替えたのも、取り決めか」


老人が聞いた。


ヘドは答えなかった。


その沈黙で、さっきまで部屋の真ん中にあった彼の言葉が、急に薄くなった。


荷主の女は立ち上がった。


「今夜、預りの係を上へ出します。間に合うまで、ここで確かめた荷を動かさないで」


ヘドは低く、承知しました、と言った。


彼が帰ったあと、俺は台の縁へ掌をついた。思ったより汗をかいていた。


イェトが俺の手を見た。


「腹が立ったか」


「立ちました」


「手は震えなかったな」


俺は掌を持ち上げた。


白い粉が、汗へ薄く貼りついていた。


*


夕方になる前に、キナが戻ってきた。


今度は籠を背負っていなかった。


「昼じゃない」


息を整えるより先に、彼女は言った。


「今夜だ。下の荷車を待たせてる。明日の荷を、今、上で積んでる」


ダナが外套を取った。


俺は木箱へ手を伸ばしかけ、やめた。証拠はもう、部屋にいた人々が見ていた。今いる場所に同じことを説明するより先に、動き始めた荷へ追いつかなければならなかった。


工房の戸口で、イェトが小さな保持具を俺へ押しつけた。


先ほどの契約原片が、箱の中で薄く光を透かした。


「残りを入れた。爪一つを押さえるくらいだ。荷を持とうとするな」


「分かった」


「こっちも縄と人を集めて追う。荷下ろし場へ回ったら、上の柱を空けておけ」


「それと、もう一つ」


俺が振り向くと、彼は壁の釘から短い柄を外していた。


「急ぐ時ほど、道具を落とすな」


手首へ通す紐を、俺の掌へ投げた。


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