同じ箱の軽い石
下の部屋は、昨日の荷でいっぱいだった。
地面に近い窓があり、開けると外の枯れ草が中へ入ってきた。乾燥のための炉はあったが、灰は冷たい。壁際の薪には、蜘蛛の細い糸が一本かかっていた。
ヘドは、ここは前に使った部屋だと言い直した。
俺は、説明を聞くたびに石の通った道が伸びていくのを、黙って聞いていた。最初は数日乾かした。次には別室で下処理した。その別室へ来ると、さらに前の部屋がある。
オルネの言葉を思い出す。
上手くいった見本だけ見せられて帰るな。
老人はこういう顔で笑う相手を、俺より何人も見てきたのだろう。
「上の棚から、僕が選んだ物を取っていいですか」
ヘドは一度、入口の男へ視線をやった。
「もちろん。必要な数を」
俺は三枚選んだ。
一枚には縁へ小さな鉤の形の欠けがあり、もう一枚には斜めに黒い点が並んでいた。どれも同じ厚さに削られているが、持つと重みが違う。箱へ収める前に、キナから秤を借りた。
「それ、荷札より信用できるからね」
彼女は錘を置きながら言った。
俺は重さを書いた。石の端を紙へ当て、外形も取った。
ヘドは何も言わなかった。
坂を下りる時、木箱を運ぶと言ったのは彼の部下だった。俺は断りかけたが、左肩の紐が皮膚を擦って痛かった。案内所へ先に回しておく、という言葉を受け入れた。
その程度なら、大丈夫だと思った。
昼過ぎ、イェトの工房で木箱を開けた。
鉤の形の欠けがなかった。
俺は石をひっくり返した。黒い点のある一枚も、見つからない。代わりに、よく乾いた淡い灰色の板が三枚、布の上へ綺麗に並んでいた。
自分が間違ったのかと思った。
まっさきにそう思うのは、俺が謙虚だからではない。自分に記憶の穴があると知っていると、他人に大声で異議を唱えるのが怖くなる時があるのだ。
紙を出した。
欠けを写した線があった。
俺はそれに石を重ねた。角が合わない。
「替えられた」
声に出すと、腹の中に熱いものが下りた。
イェトが石を受け取り、爪で弾いた。
「いい音だな」
「褒めてる場合ですか」
「褒めてない。これは売っていい石だ」
彼は俺を見た。
「悪いのが出る場所を知っていて、いい物を選んだ奴がいる」
ヘドが肉を差し出した時の手が浮かんだ。俺はあの肉を美味しく食べた。食べたことまで取り消したくなったが、それをしても腹が減るだけだった。
ダナが箱の裏を調べた。
「外はそのままだ。次は箱ごと離すな」
「分かってる」
言い方が強くなった。
ダナは俺を見たが、何も言わなかった。俺は少しのあいだ、机へ向けて息を吐いた。
「ごめん。今のは、八つ当たり」
「知ってる」
それで済んだ。
夕方、キナが工房へ来た。
額に髪が張りつき、唇が乾いていた。水を渡すと一息で半分飲み、籠から小さな布包みを出した。
「上の荷。今、包み直してる」
赤い印が、内側へ折ってあった。
俺は布へ触れた。指が冷たくなった。
「いつ出る?」
「明後日の昼。街道の大荷へ繋ぐ。下の荷主がそれより遅くは待たない」
イェトが顔を上げた。
「誰が決めた」
「ヘド」
キナは残った水を飲み、器を置いた。
「重い分を払えと言ったら、次から私には回さないってさ」
彼女は笑った。笑うと、怒っているのがよく分かった。
「だから次からのために、今、軽くしてもらいに来た」




