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忘れ潮の灯台守  作者: Tpump6957
海のない村の灯り
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残ったものの数え方

春まで畑の半分が使えなかった。


灯りが境の膨らみを抑えているあいだに、父たちは俺の短くした流路を切り離した。


夜明けには別の石を迂回路へ繋ぎ、古い設備に流れ込む力を元に近い量まで戻せた。


それで村へ帰ることは許されたが、塔の根元には封じを足し、境標の見回りも増やす必要があった。


夜を越せたことと、問題が解決したことは違う。


俺の一晩の仕事のあとに、大人たちの何年分もの仕事が残った。


塩を洗い流すために溝を掘り、水を通し、石を拾った。


塔を灯したことで俺が英雄になったかというと、そんなことはなかった。


俺が手を加える前から設備は傷んでいたが、危機を早めたのは俺だった。


村の寄り合いでそう決まり、父母の蓄えと、俺が将来稼ぐ金の一部が復旧費へ回ることになった。



俺は何度も、元々壊れかけていた、と言いたくなった。


事実だった。


だからこそ、言い訳に使う誘惑が強かった。



トマの水車は軸が曲がった。


俺は修理を手伝うことを申し出た。


彼は一度断り、翌日になって、材を運ぶだけなら、と言った。


俺は運んだ。


仕組みの説明をしようとすると、トマが手を止めたので、それもやめた。



昼に彼の母がパンを持ってきた。


トマは俺にも一つ回した。


それだけで許されたと思いかけ、俺はパンを握り直した。



「僕、水車ができたの、悔しかった」



トマは口を動かすのをやめた。



「僕が賢いって、みんなが思わなくなる気がして」



「別に、俺、賢くないし」



「そういうとこが嫌だった」



トマは眉を寄せた。


俺も、自分が何を言っているのか情けなくなった。



「ごめん」



彼はしばらく黙っていた。


それから、俺の持っているパンを指した。



「粉、うちで挽いたやつ」



「うん」



「前より細かい」



俺は噛んだ。


柔らかかった。



「おいしい」



その返事に、トマはようやく少し笑った。


以前のようには笑わなかった。


その違いを、俺は急いでなくしたがらないようにした。



オルネは灯台の下に、無理に閉じられた古い階段を見つけた。


今は崩落して通れないという。


石の継ぎ目から回収した金属札には、村にはない紋章と数字が彫られていた。



「都市の記録と照らしたい。半年ほどかかるだろう」



俺はその言葉を聞き、ついて行きたいと言った。



父はすぐに返事をしなかった。


母は薬を詰めていた手を止めた。



「ここを離れたいからか」



父が聞いた。



俺は違うと言おうとして、口を閉じた。


村で視線を浴びるのがつらかった。


何をしても思い出されるのが嫌だった。


新しい場所で、賢い少年からやり直したい。


そんな欲も確かにあった。



「それもある」



俺は答えた。



「でも、知らないで触ったから壊した。次に何かするときは、知ってからにしたい」



父は俺を長く見た。



「知ったら間違えない、とは思うな」



それだけ言い、オルネと仕事の条件を話し始めた。



俺が十二歳になる秋まで、出立は待つことになった。


村の復旧を手伝い、冬を越える薪を用意する。


その間にオルネは滞在先と、働きながら学ぶ口を探してくれた。


華々しい留学ではない。


記録工房の雑役兼見習い、給金の一部は村へ返す。


人生二周目の成功計画としては、ずいぶん地味な第一歩だった。



出立前夜、母が小さな帳面を渡した。


表紙は灰色の布で包まれ、角だけ革で補強してあった。



「毎日書かなくてもいい。書かない日の理由も、忘れる前に書きなさい」



「それ、結局毎日では」



母は笑った。


炉の光で目尻が柔らかくなった。


俺はその顔を、覚えておこうとした。


覚えておこうと思うこと自体には、何の保証もなかった。



窓際の椅子は、避難から戻って一度修理された。


父が裏返したとき、座面の裏に小さな文字があった。


Sに似た古い字と、二つの細い点。


母はそれを見て、腰を下ろした。


座ったのは隣の椅子だった。



「知ってる字?」



俺が聞くと、母は首を振った。



「でも、私が彫った気がする」



父は椅子を元に戻した。


ミアがその背を布で拭いた。



誰も答えを持っていなかった。


俺は帳面に文字の形を写した。


いつか知るために。


知ったふりをしないために。



朝、荷車の横でアニが蜜蝋の小さな包みをくれた。


靴に塗れば水を弾くという。


トマは水車の余り木を削った栞をくれた。


片端に歯車の丸い印があった。



「字、読めるようになったら手紙書く」



トマが言った。



「待ってる」



「読めても書かないかも」



「そこは書けよ」



二人で笑った。



父は荷を締め直し、母は何度も薬の位置を確認した。


ミアは俺の額を指で弾いた。


いつもより痛くなかった。



「知らない女の人に、賢そうなことばっかり言わないのよ」



「人聞きが悪い」



「言うでしょ、どうせ」



否定しきれなかった。



荷車が動き出した。


曲がり角まで家族は立っていた。


俺は何度も手を振り、見えなくなってからも振っていた。


上着の中には灰色の帳面、鞄には前世のことを書いた薄い板。


どちらも軽かった。


その軽さが、もう値段を意味しないことを知っていた。



南の坂から、麦畑の向こうに灯台が見えた。


明かりは消えていた。


白い塔は、また用途の分からない建物として村を見下ろしていた。


それでも俺は、あの窓の内側で失ったものと、そこから照らせた道を知っていた。



オルネが荷台で眠り、エルナが向かいで文字を写していた。


俺が何を書いているのか聞くと、彼女は帳面を少し傾けて見せた。



『アルヴェイン。居住者四名。椅子五脚。座面裏に人名と思われる刻字』



その下に、まだ空白の行があった。



「勝手に埋めないんだな」



俺が言うと、彼女は頷いた。



「今はね」



荷車が石を踏み、二人の膝が同時に跳ねた。


俺は自分の帳面を開いた。


最初の頁に、今日の日付を書いた。

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