向こうにも朝が来る
協定を使う最初の定期便が出る朝、港には、見物より働く人の方が多かった。
それが少し残念だった。
俺は、この一年余りにやったことを誰かが一目で分かるような、晴れがましい朝を期待していたのかもしれない。
実際には縄が湿り、札の一枚が裏返り、先に積むはずの樽がまだ届いていなかった。
サーヴァは船縁に肘を置き、荷を持ってくる男へ、大事に運ぶことと遅く歩くことは違うと声をかけた。
男は言い返し、その後で少し歩くのを速めた。
ユストは出航前の点検を終えて、控えに印を付けた。
二人の共同所有になったからといって、船体の色が変わるわけではない。
だが、大きな修繕の予定を尋ねられた時、サーヴァは一人で答えず、ユストの方へ顔を向けた。
そこだけ、前と違っていた。
ハルの荷は、今回は予定の便へ載った。
彼の名は彼の綴りのまま、対応する控えが別の紙に付いている。
俺はその組合せを念入りに見て、ハルに、見すぎだと言われた。
「間違ってないか確かめてる」
「俺の字が変わるまで見るな」
俺は紙を戻した。
信用とは、確かめることを無限に続けることではない。
どこで確かめ終えたことにするかも、決めなければならなかった。
レクの箱には、彼の店の印が小さく入っていた。
持ち手の下なので、使う時には見えない。
俺がもっと見える所でもいいのではないかと言った時、彼は箱の使い手が自分の宣伝を持ち歩く必要はないと答えていた。
そのくせ納品書には、店の名を大きく書いていた。
直す時に迷われるのは困るからだという。
彼の母ネルダが送った短い便りも、その便で届いていた。
レクから近況を聞いたこと、時々昼食を共にしていること。
最後に、彼が手の具合を悪くしていないかを尋ねてあった。
俺は返事で、本人へ聞いてくださいとだけ書こうとして、少し冷たすぎると思った。
代わりに、最近見た仕事の様子を、レクが話してよいとした範囲で書いた。
誰かの心配を全部切り捨てることと、本人を飛び越えないことは、同じではない。
灯台から出航の確認が来た。
昼の油灯が何でも伝えられるわけではない。
見える合図を見える範囲で確かめ、長い書類は箱で運ぶ。
急を要する照会のためには、別に費用を積み、契約した封片の残りを記してある。
術で届く文字が一行増えるたびに、どこかの誰かから切り離された体験が消費される。
紙を舟に乗せるのは遅い。
しかし、早い方にしか値段がないのではなかった。
俺は出航を待つ箱へ手を置き、今朝はその遅さを選べることを確かめた。
ミソサザイが桟橋を離れた。
人々が手を振り、船上の誰かが振り返した。
途中で腕が疲れた子供が先にやめ、その後もう一度思い出したように振った。
舟はゆっくり小さくなり、港には空の荷車と、片づける縄が残った。
俺は縄を巻いた。
出る舟を見送る時に必要なのは、胸を張って遠くを見る顔だけではなかった。
次の舟が来る場所を空ける必要がある。
父が荷車を寄せ、トマが空樽を押した。
アニは新しい行先へ出す蜂の品の見本を持って、取りまとめ役と話していた。
彼女の傷のある掌は、瓶を持つ時に少し角度が変わる。
その動きは消えていない。
俺が彼女へ謝ったことも、今日の出航がうまくいったことも、その角度を元に戻しはしなかった。
それでも彼女は、売りたい品の話をしていた。
俺の後悔のために、未来を空けて待っている人ではなかった。
定期便は、その後も予定通りにだけは動かなかった。
風で二日遅れた便があり、積荷の一部を別の便へ回した日もあった。
ただ、遅れた理由が分かる控えが届き、待つ側は、全部失ったのだと思わずに次の仕事を組めた。
間違った受取人へ回りかけた布は、相違の欄を見た係が止め、元の店へ戻した。
小さな失敗が、世界の真相のせいにされず、小さな失敗として扱われた。
それはかなり大きな変化だった。
秋の入り口、俺は二十一になった。
灯台の窓の下へ、薄い落ち葉が一枚入り込んでいた。
拾おうとすると風で逃げ、追いかけた先で古い道具箱を開けることになった。
中には使わなくなった金具と、寸法を書いた控えが入っていた。
対岸から届いた替えの部品を、その横へ並べた。
一見すると同じ形なのに、穴の間隔がわずかに違う。
村の灯台に最初からあるものと、後に足されたものも、全て同じ規格ではない。
何でも一つの仕組みに揃えようとしていた頃なら、間違って作った者がいるのだと考えただろう。
別の時代に、別の困り方をした人間が直した可能性がある。
俺は違う穴の間隔を、削って合わせる前に紙へ写した。
ノアの受理番号に関する照会も、少しだけ進んでいた。
索引に載る保管先へ、正式に問い合わせる順番が決まった。
自分のために他の依頼を後へ回してもらうのではない。
返事を待つあいだ、油を足し、窓を拭き、給金を受け取り、決めた返済を続ける。
待つことに慣れたわけではなかった。
返事の袋が来るたび、心臓は勝手に速くなった。
別の用件だと分かると、落胆した。
誰かの仕事を喜ばせる便りより、自分の謎の一行が欲しい。
そういう狭さは、俺の中にちゃんと残っていた。
ただ、袋を粗雑に置く前に、表の名を読める日が増えた。
ある日、北の仕入れ先から値上げの知らせが届いた。
封片の素材と加工にかかる費用が上がるという。
理由は幾つか書いてあったが、原料そのものの不足と、乾燥に要する時間が同じ行にまとめられていた。
オルネは、まとめたまま受け入れる前に、詳しい控えを求めようと返事をした。
俺も同意した。
高いと言って値切ることと、安くするために何を省いたかを見ることは、別の仕事なのだと、少しずつ分かり始めていた。
届いた見本を包む布にも、小さな赤い印があった。
包みを開いた者が、加工前のものと取り違えないための印だった。
俺はそれを布ごと残し、容器だけを綺麗なものへ替えるのをやめた。
見た目を整えることで消える情報がある。
何かを保存する仕事は、いつも立派な箱を用意することとは限らなかった。
その日は、新しい旅を決めなかった。
灯台の番を終えた後、俺は家へ帰った。
エルナが来る日で、途中で焼きたてのパンを受け取る約束をしていたからだ。
約束の時間を過ぎると、村のパン焼き人は俺の分を奥へしまい、探す手間が増える。
家では、エルナが小鉢を洗っていた。
袖をまくり、濡れた指で器の底を確かめている。
俺が戻ると、彼女はお帰りと言った。
それから、パンを置く所を作るため、広げていた紙を自分で寄せた。
その動きが嬉しかった。
俺のために全てを片づけるのではない。
二人で使う分だけ、場所が空く。
今の俺たちには、それくらいが、よく似合っていた。
「今日、何か分かった?」
エルナが聞いた。
「穴の位置が違った」
「何の?」
「灯台の金具。新しい方が悪いんじゃなくて、違う所へ使うものかもしれない」
彼女は少し考え、食べ終えたら紙を見せてと言った。
俺は頷き、パンを割った。
海の向こうでも、今頃、誰かが仕事の話をしながら食べているのだろう。
グレンは自分の部屋で、ネイは繕いかけの帆布のそばで、レクは明日直す錠前を脇へ寄せて。
俺が見ていないところに、それぞれの暮らしが続いている。
それらを全部、一冊の帳面へ閉じ込める必要はなかった。
届けたい物がある時に、名を確かめ、出してよいものを尋ね、受け取ったと返せる。
そのための細い道が、海の上にできていた。
エルナは小鉢の歪んだ縁へ唇を寄せた。
俺は、明日の灯台の当番を忘れないよう、食事の後で帳面に印を付けた。
向こうの朝を知った後にも、こちらで起きる朝がある。
その朝へ間に合うよう、俺たちは灯を少し早く消した。




