小鉢の置き場所
エルナと一緒に暮らすことを、俺は何度も想像していた。
想像の中の彼女は、たいてい俺が帰る頃に家にいた。
仕事を終えた俺の話を聞き、二人で食べ、同じ灯を消す。
彼女自身の仕事が遅くなる日は、都合よく想像の外へ置かれていた。
実際の彼女は、夕方に戻って来ると言って、夜に戻ることもあった。
俺の方が先に寝なければならない日もあり、翌朝の勤務は誰かへの愛情で短くならない。
だからこそ一緒にいたいのか、それとも、いつでも会える人を家に置きたいのか。
区別するのは、思ったより難しかった。
話を始めたのは、俺の家の上の部屋を片づけている時だった。
航海から持ち帰った紙を置く場所が足りなくなり、古い棚を動かしていた。
エルナは手伝いに来たのではなく、俺が借りていた物を取りに来た。
そのついでに、紙の束を床へ直接置くなと注意したので、結果として手伝う形になってしまった。
「ごめん、用事が増えた」
俺が言うと、彼女は紙の下へ板を差した。
「今から増やすのをやめてくれればいい」
俺は手を止め、脚のぐらつく棚を壁へ寄せた。
「ここに、もう少し泊まる日を増やせないかな」
言ってみると、想像していたより声が小さかった。
エルナはすぐには答えなかった。
窓の横の棚を見て、床の紙を見て、最後に俺の顔を見た。
「いま引っ越す話?」
「それより前の話。仕事や、お父さんのことを全部移すんじゃなくて。会いに来て、帰る時間を気にしてる日があるから」
「あるね」
彼女が認めてくれたので、俺は安心しかけた。
「でも、ここはあなた一人の家じゃない」
その通りだった。
夜に人が増えれば、朝に洗うものが増える。
台所の水も使う。
家を一緒にしたいと言いながら、そこに住んでいる人の仕事を増やすだけでは、あまり格好がつかない。
夕食の後に、父と母へ話した。
母はまず、エルナがいる日の食事の人数を、なるべく早く教えてほしいと言った。
父は、上の部屋に荷を積みすぎるなと言った。
二人とも、俺が期待していたより実務的だった。
「僕が台所の片づけを増やす」
少し勇ましく言うと、母は笑った。
「今、自分が使った分から始めたらいいわ」
自分の働きを先払いした気分で交渉していた俺は、そこで少し縮んだ。
セラは椅子から立つ時、エルナへ、嫌になったら帰る場所があるままでいいと言った。
それは俺への不信だけではなかった。
家を持つことと、出て行けなくなることを、同じにしない言葉だった。
エルナは父とも話した。
ロイは、その日の様子では、夜の予定を何度か確かめた。
彼女は何度か答え、翌朝に誰が来るかを紙へ書いた。
俺が代わりに答えるより、二人が必要な時間を使う方がよかった。
日によって変わる彼の状態を、一度の安心した返事で固定することはできなかった。
泊まる日は、まず少なく決めた。
工房の仕事が早く終わり、翌朝の支度が重ならない日。
彼女の家がなくなるわけではなく、俺の部屋が二人の恒久の家になるわけでもない。
それでも、畳んだ服を一着置くと、部屋の空気は変わった。
俺は市場で揃いの器を見つけていた。
二つ並べると、急に暮らしがそれらしくなる器だった。
買ってしまえば彼女も喜ぶだろうと考え、値段まで聞いた。
だが、荷を入れる棚の前に立った時、青灰色の小鉢を思い出した。
「小鉢は、どこに置きたい?」
俺は尋ねた。
エルナは窓際を指しかけ、日が強く当たるのを見て、奥の低い所を選んだ。
「ここ。私が来ない日に、他の物で埋めないで」
「分かった」
「分かったって言っただけで、空く?」
俺は積んでいた紙を動かした。
そこには彼女の器が入る幅と、出す時に指が入る余裕ができた。
俺はその余裕を、最初から考えたような顔をしなかった。
最初の夜、彼女は遅くまで紙を読んでいた。
俺は翌朝の灯台勤務があり、先に横になった。
彼女の背中を見ているうちに、寂しさに似たものが胸を掠めた。
一緒にいるのだから、こちらを見てほしい。
自分が誘った暮らしの中で、俺は早くも子供じみていた。
「あと少し?」
声をかけると、彼女は振り返った。
「もう少しかかる。眩しかったら下で読む」
「眩しいんじゃないんだけど」
言ってから、止めた。
「少しだけ、話したい」
言い直すと、彼女は紙へ栞を挟んだ。
「どれくらい?」
「窓を閉めるまで」
窓がひどく閉めにくければいいと思ったが、今朝、自分で留め具を直していた。
俺たちはその短いあいだ、今日見た市場の犬の話をした。
売り物の籠へ顎を載せ、客が来ると目だけを上げる。
俺がその顔を真似すると、エルナはもう十分分かったからやめてと言った。
彼女は笑い、俺の額へ自分の額を軽く当てた。
「おやすみ」
俺は目を閉じた。
紙をめくる音が、しばらく続いた。
顔を向ければ、灯のそばに彼女がいる。
確かめたい気持ちを抱えたまま目を閉じていると、次の頁がめくられる前に、眠気が先へ来た。
翌朝、小鉢には昨夜の残りの果物が入っていた。
俺の分の器は揃いではなかった。
それでも同じ朝食だった。




