その欄は空けておく
最初の試験便には、三種類の荷が乗った。
村の粉、対岸の布、金属の小さな部品。
大きな財産が一度に渡る取引ではなかったが、失えば翌月の仕入れができなくなる者にとっては、小さくなかった。
港の机には、本人の情報を入れる箱と、貨物の控えだけを入れる箱を別々に置いた。
レクは錠の最後の確認を済ませると、そのまま席を離れた。
作った人間だから全部見てよい、ということにはしなかった。
取引の名義を出したハルは、指定された二つ目の欄で筆を止めた。
旧記録名の対応だった。
「その綴りは、俺の名じゃない」
彼は言った。
港の係は、別人と取り違えないために必要だと説明した。
ハルも取り違えられたいわけではない。
現在使っている名と、対岸の別の綴りが自分を指すという照合は認めた。
しかし、今後すべての取引で向こうの綴りを正しい名として使うことは認めなかった。
同じことではないか、と係は言いかけた。
俺も、一年前なら言っていたかもしれない。
荷が届けばどちらでもいい。
名前より大事なことがある。
自分の名は問題なく呼んでもらえる場所からなら、いくらでも広い心になれる。
「対応するという印と、こっちを正式名にするという印が、同じ場所になっています」
エルナが紙を指した。
係は顔をしかめ、裏を見た。
裏に分ける欄はなかった。
俺は別紙で補おうと言った。
係は別紙を付けると向こうの照合に時間がかかると答えた。
船の積込みは進んでいる。
サーヴァがこちらを見る。
時間が伸びれば、潮の条件も変わる。
ここでハルに少し我慢してもらえば、試験は成功する。
その考えが浮かんだ時、俺は机から一歩離れた。
試験で嫌なことを一度飲み込んでもらった人は、次から、それで済ませた人として扱われる。
成功のための例外は、困る側にだけ長く残りやすい。
「この荷だけ、従来の個別照合へ戻せますか」
俺は尋ねた。
「遅くなりますよ」
「遅くなる分と、かかる費用を出してください。その上で、本人が選べるように」
ハルが俺を見た。
「お前が勝手に払うな」
「まだ払うって言ってない」
「言いそうな顔をした」
腹が立ったが、図星だった。
金を払えばその場を早く収められる。
自分が負担した話にもできる。
そうすれば、次に同じことを拒む人の費用は、またその時に考えればよくなる。
係は帳面を出した。
従来の方法なら追加の照会が一つ要る。
本人の家族構成は要らない。
受け取る者と、代金の支払先が確かめられれば、箱は船へ載せられる。
結果として、その荷は一便遅れた。
ハルは遅れを選んだ。
怒っていないわけではなかったが、怒りの向きがはっきりしていた。
拒んだら商売を全部止められるのではなく、どの手間が増えたかを見て選んだ。
その日売れなかった分は、記録に残った。
試験便は、全件を予定通り積めなかった。
取りまとめ役は、残念な結果ですと言った。
俺は頷きかけたが、止めた。
「予定通りなら、この欄で困ることを見つけられませんでした」
「だからといって、遅れが成功ではないでしょう」
「はい。だから遅れたまま、直すべき所として残したいんです」
うまく言えたような気がして、少し気持ちがよかった。
その直後、ユストに積残しの箱を倉庫へ戻すよう頼まれた。
言葉の出来栄えを味わうには、箱が重すぎた。
ハルは自分の荷の片側を持ち、俺はもう片側を持った。
行き先が同じなら、同じ名前にならなくても、一つの箱は運べた。




