粉のまま触る
レクの箱を試したのは、港の倉庫の片隅だった。
磨いた会議机の上ではなく、小麦を移した後の板の上。
空気には粉が浮き、鼻の奥が乾いた。
トマは婚礼を終えても相変わらず粉屋で、港に渡す袋の口を縛る手順を教えに来ていた。
アニは蜂の仕事があり、同行しなかった。
新婚なら二人で来るものだと言った客に、トマは、蜂は婚礼が済むのを待ってくれないと答えた。
二人の新しい暮らしには、互いが来ない場所がもう普通にあるようだった。
試験用の書類箱は三つあった。
鍵を持つ者、開いた後の紙を見る者、運ぶだけの者を分けられる。
全員の名簿を一冊にして一番偉い者が持つより、手間は増えた。
違う荷の箱を開けようとして、留め具の感触で間違いに気づくよう、外側の形も少し変えてある。
俺はよくできていると言った。
「まだ触ってない」
レクに指摘された。
「見ただけで分かる部分も」
「壊れる部分は、触ってから分かる」
俺は黙って鍵を受け取った。
乾いた指なら難しくない。
次に粉を付ける。
さらに水で湿らせた手で触ると、粉が糊のように溝へ入った。
俺が眉をしかめると、レクは嬉しそうにした。
欠点を見つけられて喜ぶ職人というのは、なかなか理解しがたい生き物だ。
粉の逃げる溝は働いていた。
留め具も滑らない。
ただ、箱を逆さに積まれた後に開けると、蓋の内側へ粉が落ちた。
「運ぶ向きを、札に書けば」
俺は言った。
ユストが箱を見た。
「札を読める向きで積めるとは限らない」
レクは蓋を外し、内側に薄い段を付けられないか、指で幅を測った。
鍵の出来を褒めるために集まったのではない。
箱に紙を入れて、海を越えさせるために集まったのだ。
トマは粉の残った掌を服に擦りつけようとして、途中で止めた。
婚礼の日に洗ったばかりの上着だったらしい。
「そこは箱より難しいね」
俺が言うと、彼はじろりと見た。
「アニには言うな」
「まだやってないのに?」
「やりかけたことまで報告される」
レクは二人を無視して、図に線を足した。
昼には試した人の意見を分けた。
使いにくかったこと、説明が足りなかったこと、箱そのものとは関係のない運用の不満。
誰がどの書類を見てよいかは、錠前師が勝手に決めることではない。
鍵を作れば、悪い開け方がなくなるわけでもない。
それでも、開けないで済む形を作ることはできた。
全員の出生番号を紙の表に書かなくても、運ぶ品と、代金を請求できる相手を確かめる。
別の用事で提出された書類を、商取引のついでに読む必要はない。
試験の費用は、最初に決めた通り払われた。
レクは受取の紙へ、今の名と、錠前の修繕を請ける店の場所を書いた。
医師の資格の欄はなかった。
俺はそれを見て、妙に胸が熱くなり、彼に言いかけた。
君の人生を取り戻したね、と。
言わずに済んだ。
彼は俺が会う前から錠前を作っていた。
俺が彼の人生を認める場面を待って、生き始めたわけではない。
「もう一つ、個人で頼んでもいい?」
代わりに尋ねた。
「金を払うなら」
「自分の記録を入れる箱。持ち歩けるくらいの」
レクは俺の手を見た。
紙の大きさを聞き、濡れる場所へ持って行くのかを聞いた。
俺の前世の職業も、将来どんな人間になりたいかも聞かなかった。
注文というのは、ときどき、とても親切だった。




