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忘れ潮の灯台守  作者: Tpump6957
二つの岸の約束
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なくなった一つの数え方

立会所の長椅子は、座る人間の気持ちに比べてよく磨かれていた。


誰が磨くのだろう、と俺は考えた。


昨日ここで怒鳴った人がいても、泣いた人がいても、朝には布で拭かれる。


机の上には砂を入れた小皿があり、筆先についた余分なものを落とすために使われていた。


窓は細く開いていたが、人が集まるにつれて部屋の空気は重くなった。


席を決める係が、俺たちの名を一人ずつ確かめた。


エルナはロイの代理として話す範囲と、自分が損失を受けた本人として話す範囲を確認された。


俺は署名した者として、何を見せられ、どの言葉で安心し、何を読まなかったのかを答えた。


何を読まなかったのか。


質問は、そこだけ小さな鉤を持っていた。


「自分が立ち会っていない回収まで、承認したことになるとは考えていませんでした」


「そのように確認しましたか」


「いいえ」


答えると、筆が紙を擦った。


ベレスは、俺に責任を押しつけなかった。


だが、自分一人が決めたとも言わなかった。


設備の維持のために必要だとされた量、上から割り当てられた回収予定、保留を続けた場合に迫る運用上の問題。


それらを、順を追って説明した。


話を聞くうちに、俺は何度か頷きかけた。


必要な量があり、間に合わない期限がある。


知っている苦しさだった。


隣でエルナが控えをめくる音がして、ようやく顎を止めた。


その紙の先には、もう空になったロイの封片がある。


俺は膝の上で指を組み、返事を急がず続きを聞いた。


審査に当たる女が、別の役人へ尋ねた。


「この家が拒否した場合の扱いを、誰が確かめましたか」


答えは一度で出なかった。


技術上使えるかを確かめた者は、使ってよいかは別の担当だと言った。


別の担当は、署名のある控えを受け取ったと言った。


控えをまとめた者は、現場の確認が済んでいると思ったと言った。


答えるたびに、視線が次の席へ移った。


俺もかつて、その視線の行く先を確かめずに紙を渡した。


膝に置いていた手が湿り、控えの端へ触れるのをやめた。


エルナが話す番になった。


彼女は最初に、返還された二つを開けていないことを述べた。


それは怠慢でも、治る機会を捨てたのでもない。


父と話し、まだ開かないという選択を続けている。


そこへ、この場の判断を混ぜないでほしいと言った。


次に、失われた一つについて話した。


父が持っていた、幼い娘の雨の日の記憶。


娘である彼女自身にも、その出来事を同じ形で覚えている保証はない。


だから二人のどちらかが説明し直せば補える、と数えられるものではなかった。


「父が持っていたものです」


彼女は言った。


「私が代わりに持ち直すことも、皆さんが金額にして返すことも、できません。でも、それで何も払わなくていいことにはしないでください」


声が一度切れた。


俺は口を閉じていた。


彼女は自分の指を机から離し、続きを言った。


父の暮らしに増えた負担、手続のために休んだ仕事、返還を求めるのに使った時間。


数えられるものを一つずつ数えた。


俺は、数えられない悲しみだけを語る方が、聞く側には都合がいいのだと知った。


悲しみなら黙って頭を下げていられる。


失った仕事の日数には、支払先がある。


ベレスへの担当停止と、複数の関係者の責任範囲は、その日の審査で示された。


回収の適否を決める持場から外し、記録と本人の意向を確かめずに包括署名を根拠として進めた点を、個人の判断として認めた。


指示を出した部署と、控えを受け付けた側の不備も、別に残された。


補償額の細部は、明細の確認が要る。


すぐに金が入るわけではなかった。


それでも、いつ誰が次の返答をするのかは、その場で書かれた。


俺の返済が、それで消えるとは書かれなかった。


エルナは控えを受け取り、日付を確かめた。


ベレスは少し離れた場所で、自分の担当を引き継ぐための書類を渡していた。


部屋の外へ出ると、雨が降っていた。


俺は何か言おうとしたが、勝ったね、とは言えなかった。


彼女は扉の下の乾いた場所に立ち、紙を袋へ入れた。


「何か食べたい」


ようやく言った。


「何がいい?」


「自分で選びたい。でも、お店を探すのは今日は頼んでもいい?」


俺は頷いた。


道の向こうに、湯気の上がる屋台があった。


雨を避ける席が二つ空いている。


俺は走り、戻って来て、彼女の荷ではなく、雨の当たりにくい道の方を指した。


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