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忘れ潮の灯台守  作者: Tpump6957
灯の届かない入江
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戻る場所の明かり

読んでいただき有難う御座います。土日は更新頑張ります。

帰りのミソサザイには、俺たちのほかに、濡れなかった布と、濡れたので値が下がった布が積まれていた。


同じ港に運ぶのだから空いた場所へ、と商人に頼まれ、サーヴァが引き受けた荷だった。


救助船のまま感動的に故郷へ帰るものと、心の隅で考えていた俺には、荷札を読み上げる朝がいくらか拍子抜けだった。


濡れた包みを動かすと、底に溜まっていた水が甲板へ筋を引いた。


これ以上値を下げないためにも、運び方に気をつけなければならない。


ユストは風の通るところへ包みをずらし、縛った紐が布へ食い込んでいないか確かめた。


俺が手を出すと、二つ目を顎で指した。


「そっちは上へ。力があれば何でも下から持てばいいってもんじゃない」


「僕に力があるという評価は、もう少し広めてくれてもいいよ」


「途中までしか聞かない客が増える」


言いながら、彼は持ち手を俺へ向けた。


俺は文句を言うだけで持ち上げるのを遅らせずに済んだ。


成長と言ってよいのかは、荷一つで判断しない方がいい。


エルナは船尾に座り、書類を読んでいた。


海が揺れると紙から目を離し、遠くを見る。


俺が代わろうかと聞くと、読む仕事は代わってほしくないが、紙の端は持ってほしいと言った。


俺は隣に腰を下ろし、端を押さえた。


それは救助の報告ではなく、マテとの仕事の精算だった。


契約は終わっている。


嵐で延びた滞在の日数を誰が負担するかは、契約の文字だけでは決まらない。


彼女は相手の責任にできない日を切り分け、それでも返事の遅れで増えた作業時間は請求していた。


「強く書くんだね」


つい言うと、彼女は俺を見た。


「そう?」


「助かったばかりだから、もういいです、ってなるのかと思って」


言ってから、島の紙の箱に対して口にせずに済んだことを、別の形で言ってしまったと気づいた。


「仕事のお金が欲しいの。助かって、今も欲しい」


「うん」


俺は紙の端を持ち直した。


握っていたところに浅い皺ができ、彼女はそこを指の腹で伸ばしてから、請求する日数をもう一度足した。


濡らさず持ち帰った仕事の紙だった。


俺は風に持ち上がる隅へ手を添え、今度は計算が終わるまで黙っていた。


湾へ入る頃、雨雲は山の方に溜まっていた。


村の灯台が見えた。


海の上から見ると、窓の大きさが違う。


馴染みの石の傷は見えないのに、階段が内側のどちらへ回っているか分かる気がした。


メルイの塔の細い窓と、埋まった足元を思い出した。


同じ高さに灯があるから、同じ舟のために建てられたのだとは限らない。


父の灯は、昼の明るさの中でほとんど見えなかった。


それでも、決めておいた時間に上部の覆いが動いた。


こちらからも返した。


長い旅の無事を、短い形に押し込んで見せる。


足りない話は、港へ着いてからすればいい。


桟橋にはリナとセラがいた。


母は俺を見て、荷の方を見て、それからエルナの顔を見た。


順番を決めてきたようには見えなかった。


ただ、何を先に確かめるべきか分からない目だった。


エルナが岸へ上がると、母はその肩を両手で触った。


「寒かったでしょう」


「はい。でも、今は大丈夫です」


母は頷き、頷いた後で、もう一度肩を撫でた。


セラは松葉杖の先が縄に引っかからない場所へ移り、運ばれてきた小さな荷に手を添えた。


「濡らしちゃ困る方は?」


「こっちです」


エルナが記録箱を示すと、セラは近くの子供へ軒の下を指した。


抱き合うことと、濡らさないことは同時に必要だった。


俺の荷はしばらく岸に置かれ、俺自身は母に背中を一度叩かれた。


無事な息子に許される挨拶だった。


ロイは少し遅れて来た。


エルナは父を見つけると、荷から手を離して歩いた。


ロイの口が動いた。


俺には聞こえなかった。


彼女は何か答え、顔を少し傾けた。


二人の間に入り、俺の働きを説明する場所はなかったし、探さなくても寂しくならなかった。


ただ、少し離れたところでユストに肘を押された時には、道を塞いでいたことに気づいた。


「感慨は端で頼む」


「港にそんな区画ある?」


「今、作れ」


俺は端へ寄り、荷を持った。


家へ帰る前に、灯台へ上がった。


父は上の窓を開け、油の容器を拭いていた。


吹き込んだ細かな雨が石床に散っている。


俺が灯具を見ようとすると、父はその前に、階段の途中へ置いた空箱を下へ運べと言った。


英雄扱いをされない方が楽だ、と思う。


その一方で、少しくらいされてもいいのにと思う。


両方とも俺だった。


箱を運び終えると、父は勤務の帳面を渡した。


ジナの筆跡で、芯を替えた日と、窓の蝶番の音が大きくなった日が書いてあった。


海の向こうで嵐が続いていた数日、ここでも風が強かった。


窓を押さえた手があった。


俺がいなくても灯は働き、そのために誰かが夜更かしした。


「助かった人は、全員?」


父が聞いた。


「うん。最後の三人も、修繕港に着いた。名前を確かめてきた」


「そうか」


父は長く息を吐き、窓を閉めた。


俺が間違えた浅瀬のことも話した。


舟腹の傷と、俺の賃金から支払う分。


父は金額を聞き、先に決めた村への返済を勝手に遅らせないようにと言った。


俺は分かっていると答えた後で、来月の収入が足りない場合の仕事を相談した。


分かっている、と言うのは簡単だった。


足りない分をどうするかを口にする方が、ずっと大人らしくなく感じる。


できる人間のふりを脱ぐというのは、思ったより寒い。


父は果樹園の囲いの修繕と、船着き場の荷札台の仕事を挙げた。


灯台の勤務の間にできる。


どちらも、人を救った話をしたら終わる仕事ではなかった。


その夜、食卓の第五の椅子にはセラが座っていた。


低い座面の下へ、彼女は足を少し斜めに伸ばした。


俺がいつもの場所へ椅子を引くと、膝がぶつかった。


「そっち、もう少し寄れる?」


「僕の方?」


「あなたの膝の方が動きやすそうだけど」


俺は椅子を引いた。


脚が床の継ぎ目に引っ掛かり、器の中の汁が揺れた。


セラは自分の器を持ち上げて待っている。


世界の秘密にまで関わった椅子なのだから、もう少し滑らかに動いてもよさそうなものだった。


ようやく膝が収まると、叔母は何事もなかったように器を戻した。


母は途中で一度、匙を止めた。


俺が島の水の話をした時だった。


「次の便に、洗い分ける布を足しましょうか」


「欲しいか聞いてからがいいと思う。置く場所にも困るかもしれない」


俺が答えると、母は少し眉を上げた。


俺自身も、自分がそう答えたことに驚いていた。


たいていの善意は、贈る側に置く場所があるから増えてしまう。


食後、エルナが小鉢を見せに来た。


持ち帰った荷は父の家へ収めてある。


彼女は包みをほどき、傷がないかを母と確かめた。


歪んだ縁を見て、母はいい形ね、と言った。


俺にはまだ少し歪んで見えたが、その歪みを直したいとは思わなかった。


「ここに置いていく?」


聞くと、エルナは首を振った。


「今日は持って帰る。明日の朝に使いたいから」


「そっか」


俺は包む布を押さえた。


同じ村へ帰ってきたことと、同じ家で眠ることは、まだ同じではない。


その隔たりを不満で埋めず、どこまで一緒にしたいのかを、いつか明るい時間に話そうと思った。


彼女を道の分かれ目まで送った。


土の匂いがした。


海から運ばれた湿り気に、果樹園の落ち葉の甘い腐りかけた匂いが混じる。


エルナは小鉢の包みを抱え、俺の腕に肩を一度寄せた。


「ただいま」


港で何度も言ったはずの言葉を、ここでもう一度言った。


「お帰り」


俺は答えた。


エルナは包みを抱え直した。


腕へ寄せていた肩が離れると、そこへ夜の冷たさが入ってきた。


もっと気の利いた言葉を探しているうちに、彼女は先へ歩き出した。


俺はしばらく立ったまま、さっきの声を胸の中で繰り返した。


彼女の家の戸が閉まるまで見送り、振り返った。


高台には父が引き継いだ灯があった。


海の奥の、こちらからは見えない入江にも、明日の朝に誰かが火を起こす場所がある。


地図の線は、まだそこまで届いていない。


俺は家へ戻って、借りた筆で、その入江の名を書いた。


メルイ。


その横へ、井戸の水は住民に尋ねること、と小さく書き足した。


灯だけでは分からなかったことを、今度、そこへ行く誰かに渡すために。


翌日の荷札台の修繕では、削った木の粉が袖に入った。


手を止めるたびに昨日の疲れが肘へ戻ってきたが、急いで仕上げると舟が接岸する時に札が落ちる。


俺は古い釘穴を避け、新しい留め方を父に見せた。


父は縁を強く押し、片側だけを指した。


「ここはまだ浮く」


俺は浮く方へ木片を挟んだ。


父はもう一度押した。


波の上で危険を見分けた後でも、机の脚を一度でまっすぐにできるようにはならない。


俺は昔なら、才能の使いどころが違うのだと考えたと思う。


今も少し考えた。


ただ、その才能を待つあいだに荷札が飛んでいったら、誰かが拾うことになる。


削り直した木片は、二度目には収まった。


昼過ぎ、岸を通ったジナが、これなら濡れた手でも札を差せると言った。


俺の顔を見ず、実際に濡らした指で試してから言ったので、嬉しかった。


その日の賃金を帳面へ記し、サーヴァへの支払いの分を封筒へ入れた。


残りは村への返済のために分けた。


暮らしに使う分は、思っていたより少なくなった。


それでも夕方、エルナの家へ行く前に、小さな焼き菓子を二つ買った。


一つしか買わず、彼女に譲るつもりで結局半分もらうような善人になるより、初めから二つ買う方が、俺には向いていた。




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