最後の五人
三便目の朝、俺は起こされる前に目を覚ました。
宿の部屋は暖かかった。
壁の向こうでは誰かが鼾をかき、窓の隙間に入れた布が少し湿っている。
エルナは別の部屋で、移ってきた人々と一緒に眠っていた。
俺は出発前に会いに行くべきか迷った。
起こさないでほしい、と昨日言われていた。
俺が無事に出ていく姿を見せれば安心するはずだ、と思いつくのは簡単だった。
だが、頼まれたことを守るより、自分が安心するために相手を起こす言い訳を探しているだけでもある。
伝言を書き、宿の女主人へ預けた。
帰ったら会う。
その前に、眠っていてほしい。
その短い文を書くのに、思ったより時間がかかった。
*
島には、帰りたい五人と、自分の船を直す三人が残っていた。
五人のうち二人は島の道具を借りて荷物の修繕をしていた。
待たされた被害者というだけの姿ではない。
モルは彼らへ食べ物を出し、代わりに濡れた薪を風の当たる場所へ積み直してもらっていた。
「客だからって、全部座って待つわけにはいかない」
彼女は言った。
サーヴァは食料の補充分を渡し、使った水の見積りを確かめた。
後で港へ請求する分と、船側が払う分を分ける。
島の人が何も請求しなければ美しい救助になる、と期待する者はいなかった。
俺は榛色丸の修繕を見ることになった。
大きな船は帆の補修だけでなく、舷側の継ぎ目にも手当てが必要だった。
水を受けた木が膨らみ、金具の一本が変形している。
外へ大きく開くのではなく、既存の締結を外して別の支えへ荷重を移す。
船長は、俺の術だけで直せるかと聞いた。
「どこまで傷んでるかを先に見ないと」
俺は答えた。
以前の俺なら、できますと言ってから考えたかもしれない。
今も、その順番のほうが褒められやすいことは知っていた。
結局、魔法は変形した金具の局所加熱にだけ使った。
持ってきた契約済みの封片を、船長とサーヴァの前で確認する。
提供者が炊き場で働いた一夕の熱の体験を、限定した範囲で封じたものだった。
内容を俺が覗いて味わうのではなく、既に検査された適合の範囲を読み、流量を決める。
使用すれば、その部分は戻らない。
俺たちは使用量を記し、封止を開いた。
金具へ熱が集まり、鉄の匂いがわずかに立つ。
隣の木へ熱が移らないよう湿った布を当て、十分に柔らかくなったところで船の職人が形を整えた。
封片の端から、乳白色の筋が消えた。
それだけで船が直ったわけではない。
残る作業のほうが長かった。
新しい当て木を合わせ、孔の位置を見直し、締めた後で水の入り方を確かめる。
俺が最も苦労したのは、狭い場所で同じ姿勢を保つことだった。
背中が痛くなり、足先が痺れた。
この程度で文句を言うのはみっともないと思って黙っていると、船の職人が、動けなくなる前に言え、と叱った。
俺は外へ出て身体を伸ばし、交代した。
役に立ちたいという願いが、周囲に隠さなければならない不調を増やすなら、仕事の邪魔になる。
午後には、榛色丸は自分で近い修繕港へ向かえる見通しになった。
ただし単独では出さない。
風の条件を待ち、沿岸の小艇に付き添ってもらう。
船長と二人の船員はそのために残った。
俺たちは残る五人を乗せた。
モルが最後の荷を渡し、島の名をきちんと書いたかと尋ねた。
「書いた。メルイ」
俺は帳面を見せた。
「入り江の名もある」
彼女は言った。
俺は新しい行を空けた。
誰かの地図の空白は、他の誰かの暮らしにとっては、細かい名前のある場所だった。
*
第三便を終えると、俺は疲れて、話す気力がほとんどなかった。
エルナが宿の戸口へ来た。
顔色が少し戻り、髪を結び直していた。
俺を見ると、荷を置く場所を指した。
「おかえり」
「ただいま」
俺はその言葉に、必要以上の意味を持たせたくなった。
過去にも同じように言ったのか。
失う前の俺は、どんな顔で聞いたのか。
知らないものへ手を伸ばしかけ、それを今の声から離した。
今日、俺に言ってくれた声がある。
俺は荷を置き、椅子へ座った。
彼女は温かいものを持ってきた。
説明より先に飲め、と言われたので、俺は飲んだ。




