七人分の場所
最初の便に、エルナは乗らなかった。
俺は積荷を固定しながら、岸を見た。
彼女は小屋の前でモルと話し、紙を指で押さえている。
会えたばかりでまた離れるのは、思ったより難しかった。
だが、俺がここへ来た目的は、彼女だけを連れて帰ることではない。
そう言えば立派だが、正直なところ、彼女だけが先に乗ればかなり安心したと思う。
その気持ちを隠すために、皆のためだという顔をするのはやめた。
俺は寂しいまま、七人の乗船を手伝った。
最初の行き先はアルヴェインではなく、物資と大きな船を待てる近い港だった。
そこからそれぞれの家へ向かう便を手配する。
一度で全てを終える必要はない。
人を安全な場所へ一段ずつ動かす。
足首を傷めた商人を乗せるとき、彼は俺の肩へ強く掴まった。
「痛かったら言って」
俺が言うと、もう痛い、と返された。
俺は謝り、ユストと持ち方を変えた。
手当の袋を出し、母の説明に従って支えを作る。
治す魔法で全てを解決するなら、痛みの原因と身体の形を知らなければならない。
俺の都合で早く歩ける人へ変えることはできない。
子供は船へ乗った途端に泣いた。
母親が謝ったが、サーヴァは泣く分の場所も料金に入ってると言った。
今は救援便なので、細かい支払いの話は後だった。
母親が少し笑い、子供は相変わらず泣いた。
声が出ることだけでも、少し安心できる場合がある。
*
入り江を出ると、船の揺れが変わった。
乗客が同じ側へ寄りかけ、ユストが場所を指した。
俺も声をかけたが、自分の言葉がサーヴァの指示に重なると気づき、止めた。
指示を増やせば安全になるとは限らない。
俺は担当した荷と、足首を傷めた男を見た。
その二つだけでも仕事はあった。
男が水を求め、子供が吐き、布が足りなくなる。
英雄的な判断の入る余地はないほど、手が忙しかった。
途中、帆の端の金具が外れかけた。
ユストが縄を取り、サーヴァが船の向きを調整した。
俺は道具袋を開き、必要なものを渡した。
金具の縁に亀裂がある。
無理に締めれば割れる。
仮の締結で負担を別へ逃がし、次の港で部品を替えることになった。
補助の術を使う余地はあったが、今の揺れの中で流路を確かめるより、縄を一本増やすほうが早かった。
その選択を、魔法が役に立たない証拠だとは思わなかった。
何をどこで使うかを間違えないことも、技術の一部だった。
港へ着くと、乗客は足元が動かないことに驚いていた。
俺は自分が最初の渡航で同じ顔をしたことを思い出し、笑いかけた。
だが笑うより先に、荷が足元へ置かれないよう動かす必要があった。
七人の名前を、受け入れる宿の係へ渡した。
全員の行き先が同じではない。
家族へ連絡が届く人と、宛先を確認し直す人がいる。
ここまで運べば終わり、と言いたくなる疲れがあったが、引き継ぐところまでが今日の便だった。
最後の人が椅子へ座るのを見て、俺はようやく自分も腰を下ろした。
掌に縄の跡が残っていた。
エルナはまだ島にいる。
だが、今日運んだ七人も、誰かの帰りを待たせていた人間だった。




