紙の上の浅瀬
古い塔は、岬の陰にあった。
遠くからは、アルヴェインの灯台とよく似て見えた。
白い壁と黒い屋根。
だが近づくと、窓の並びが違い、根元には輪のような石積みがある。
俺は海図の印を見て、その塔が航路の位置を示すものだと考えた。
「ここを目印に、右へ抜けられるはず」
俺は言った。
サーヴァは沖の水面を見ていた。
「何が根拠?」
「図のこの線。古い帰路の刻線の向きと同じだから。塔の窓も」
自分の声は、説明するほど確かになった。
ユストが前方から何か言った。
風に消えて、俺には全部聞こえなかった。
サーヴァは帆の扱いを変え、俺へ塔の足元をよく見るよう言った。
「今、見えてる石は、図にあるか」
俺は目を細めた。
塔の根元の石積みの先に、低い岩が続いていた。
海図では水面のはずの場所だ。
古い設備が示す道と、船が今通れる水深は同じではない。
潮が下がれば見える岩を、図の線は避けていなかった。
「待って。あそこ」
俺が言った瞬間、船底に浅い振動が来た。
音は大きくなかった。
その小ささが怖かった。
何か決定的なものは、必ず大きな音を立てると思い込んでいた。
サーヴァの声が飛び、ユストが動いた。
俺は邪魔にならない場所へ膝をついた。
自分で何かしなければという焦りが湧いたが、手を伸ばす先が分からなかった。
帆と舵の動きに、俺の知っている言葉は追いつかない。
船は岩の外へ回った。
揺れの向きが変わり、塔が横へずれた。
俺はしばらく、足の下から次の音が来るのを待っていた。
ユストが船内を確かめた。
大きな漏れはないという。
サーヴァは、その言葉だけで安心せず、岸の風の弱い場所へ入って状態を見ると決めた。
「僕が、間違えた」
俺は言った。
「そうだね」
彼女は返した。
「塔の働きと、今日の水を一緒にした」
「ごめん」
「謝る前に、何を見てそう言ったか書いとけ。同じ図で次の船を入れないように」
俺は紙を出した。
役に立ちたくて前へ出た結果、人を危険へ近づけた。
その形には見覚えがあった。
知っているから二度としない人間には、まだなれていなかった。
船底の擦り傷は、後で費用を確かめることになった。
サーヴァは船長として確かめ切れなかった部分も自分で書き、俺の判断だけへ全てを押しつけなかった。
それはありがたかったが、だから俺の部分を軽くしてよいわけでもない。
俺たちは上陸し、塔を外から調べた。
入口は低く、階段の向きが村と反対だった。
石の輪は船着場を守るためのもので、塔の向く先には、今は砂の盛り上がった古い水路があった。
同じ名前の建物が、同じ道を指すとは限らない。
俺は図へ線を足し、分からない場所には分からないと書いた。
書き慣れてきたはずの言葉が、今日は指の中で重かった。




