朝食を待たせない
帰りの海は、行きより揺れなかった。
俺が慣れたからだと思いたかったが、サーヴァは今日は穏やかだと言った。
努力の成果にしたいことを天候へ返されるのは、少し悔しかった。
夜番に立つと、エシュルの部屋の窓を考えた。
今頃、エルナは紙を乾かしているのか。
それとも、疲れて早く眠ったのか。
俺に見られていない時間の彼女を想像することはできるが、知っていることにはならない。
その違いを埋めるために、手紙がある。
けれど、手紙が来るまでのあいだ、相手の人生が止まっているわけではない。
俺は荷の紐を確かめ、舟の傾きを見た。
今ここでやるべき仕事が、都合よく俺を救ってくれた。
だからといって働いていれば寂しくないわけでもなく、食事の器を一つだけ受け取ったときには、少し落ち着かなかった。
*
湾へ戻ると、父は灯台の下で窓枠を削っていた。
俺の顔を見るなり、荷より先に手を貸せと言った。
板の端を持ち、父が刃を引くのを待つ。
挨拶としては地味だったが、俺が帰ってきたことを身体で確かめるには悪くなかった。
「エルナは」
「仕事で残る。三か月くらい」
「そうか」
父は板を裏返した。
「お前は、いつから当番へ戻れる」
「明日」
「じゃあ、今日は荷をほどけ」
エルナが残ることについて、それ以上は聞かなかった。
俺は少し拍子抜けし、反対されなかったことに安心した。
自分が決めたわけでもない彼女の仕事を、父へ許してもらう必要はないのだが、心の中の古い順序はすぐには変わらない。
家へ帰ると、母は旅の上着を見て眉を寄せた。
「そのまま椅子へ掛けないで」
セラが窓際から、こっちも駄目、と言った。
俺は上着を脱ぎ、戸口の釘へ掛けた。
五脚目の椅子には、セラが使う布袋が置いてあった。
海の向こうで何が起こっても、家の家具にはその日の都合がある。
夕食でグレンのことを話した。
帰ったが、元の家には住まない。
別の部屋を借り、港の仕事と、以前の家の水仕事を少しずつ引き受ける。
母は途中で匙を置き、セラは最後まで黙って聞いた。
「会えたのは、よかった」
セラが言った。
「それだけでは、よくなかったんだね」
俺は頷いた。
母は隣の妹を見た。
二人には今も、好みの分からない料理や、聞くと互いに怒ってしまう昔話がある。
それでも、食卓にいる相手へもう一度尋ねられる。
そのことと、元に戻れたことは違う。
*
翌朝から、窓を拭いた。
塩は薄く見えても、布で拭くと白い跡を残した。
風向きと水位を書き、油の残りを確かめ、代番の記録を読んだ。
ジナは俺の書き方と違う場所へ注意を書いていて、最初は見落としそうになった。
自分の方式へ全部直す前に、彼女の意図を聞いた。
俺がいない間にも、仕事は続いていた。
当然のことだった。
だが、当然に続くために、誰かが夜中に起き、足りない布を探し、濡れた薪を避けて火を作っていた。
俺は呼出しの手当を数え、立て替えてもらった分を払った。
船旅の感想より先に払う金があることを、以前なら夢から覚めたように感じただろう。
今も多少は感じた。
それでも、夢を見ている間の自分の仕事を、誰かが無料で持つべきだとは言えなかった。
エルナから最初の手紙が来たのは、俺が三度目の夜番を終えた後だった。
出帆を見送った日の夕方に書かれ、別の便で運ばれたものだ。
俺が手紙を読んでいる今と、彼女が書いた夜は違う。
紙の上の寂しさへ返事をするときには、もう彼女は忙しくて少し笑っているかもしれない。
彼女は部屋の窓から見える屋根の色と、隣人が夜に歌うことを書いていた。
工房の仕事は三行だけだった。
俺が送った荷の包み方が一つ雑だったことは、四行あった。
最後に、小鉢が割れずに使えている、とあった。
俺は返事に、こちらの窓の塩と、父の作った新しい棚と、グレンの話を聞いたセラの様子を書いた。
会いたい、も書いた。
早く帰ってこい、とは書かなかった。
同じ意味ではないことを、ようやく少し分かり始めていた。
*
その後の便で、グレンの短い手紙が届いた。
新しい部屋の窓が風で鳴るので、近所の職人に直してもらった。
港の給金が初めて一月分まとまって入った。
レダの家の水路は、前より流れる。
ミラとはまだ多くを話さないが、朝に顔を合わせれば挨拶をする。
俺は、一つ一つ読んだ。
そこに劇的な幸福はなかった。
だが、帰ってからの人生が始まっていた。
生存の記録は訂正され、過去の死亡扱いの紙も、なぜそう判断されたかが分かるよう残された。
生きていることを認めるために、待った年月までなかったことへする必要はない。
最後に、朝食のことが書いてあった。
以前は誰かが食べ始めるのを待っていたが、仕事へ遅れるので、自分の時刻に食べることにしたという。
鍋が小さくなったぶん、魚の骨を入れすぎると汁の場所がなくなる、と。
俺は笑った。
その朝、台所には三つの器が並んでいた。
母は手当で出かけ、父は森へ入っていた。
セラがパンを切り、ミアが薬の包みを隣へ避けた。
「誰か待つ?」
セラが聞いた。
俺は首を振った。
「食べよう。冷めるから」
遠い街にも、朝食がある。
俺の見ていない相手が、それを食べ、自分の時間を始めている。
そのことを寂しいだけと思わずにいられる朝が、少しずつ増えればよいと思った。
返事を書いた紙は、乾くのを待っていた。




