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忘れ潮の灯台守  作者: Tpump6957
向こう岸の朝食
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新しい部屋の窓

引越しの日、雨は止んでいた。


グレンの荷物は、来たときより少し増えていた。


仕事の上着、寝台に敷く布、小さな鍋。


どれも新しい人生の象徴と呼ぶには安く、実際に毎日使うには大切なものだった。


俺たちは荷を運び、狭い階段を上った。


部屋には窓が一つあり、川の一部が見えた。


正面の家の屋根が視界を塞いでいるが、舟の通る音は聞こえる。


朝は近くの洗い場が騒がしいらしい。


グレンはそれを聞いて、静かすぎるよりいいと言った。


寝台の位置を決めるのに時間がかかった。


壁へ寄せれば寒くなくなるが、夜に立つと椅子へぶつかる。


窓の下は明るいが、雨の吹き込みがある。


俺は紙へ簡単な図を描き、彼は図より先に実際の寝台を動かした。


図面の上では同じ幅でも、肩を擦ると狭い。


「ここでいい」


彼が言ったときには、俺の背中に汗が出ていた。


エルナは棚の一番下へ紙の束を置きかけ、グレンに場所を聞いた。


彼は上がいいと言った。


水をこぼすから、と。


その返事で、俺はこの部屋の持ち主が自分たちではないことを、もう一度確かめた。


コルが、修繕した椅子を持ってきた。


以前の家に残っていたものではなく、仕事場で余っていた椅子を直したのだという。


グレンは少し戸惑い、座面へ手を当てた。


「代金は」


「要りません。不要なら、別の人へ」


コルは言った。


それから、途中で言葉を変えた。


「ただ、受け取らないと気まずいと思わせたくないので。今すぐ答えなくても」


グレンは一度、座ってみた。


椅子は軋んだが、傾かなかった。


「使わせてもらう」


彼は言った。


グレンは椅子から立ち、背へ掌を置いたままコルを見た。


礼のあとに言葉が続かず、コルも戸口へ一度目をやった。


俺は二人に何か話してほしくなったが、グレンが座面の擦り傷を親指で撫で始めたので、積んだ荷へ向き直った。


それでも、椅子は部屋に残った。



*



昼に近所のパンを買い、鍋で汁を温めた。


魚の骨を除くのに手間取り、俺が文句を言うと、グレンは骨をまとめて布へ包むやり方を教えた。


彼はこの街の料理を、完全には忘れていなかった。


十七年の隔離の中で、材料がなくても話したことがあったという。


「向こうでは、魚をどう説明したんですか」


「うまいって」


「それじゃ、分からないでしょう」


「食べたことのないものを長く説明しても、腹が減るだけだった」


俺は笑った。


父へ海を説明したときの言葉は、今も知識として残っている。


塩水がいっぱいあると言っても、父には畑が駄目になる心配のほうが先だった。


その父は今、塩で傷んだ窓を拭いている。


言葉で知ることと、その後を暮らすことの間には、長い距離がある。


グレンは汁を配り、自分は少し冷めるのを待った。


熱いものが苦手なのだと、俺はそのとき初めて知った。


彼が帰還者の一人だった頃、俺は名前と荷物の数と、歩けるかどうかを確かめた。


今は、同じ卓で汁が冷めるのを待つ人として、彼を見ている。


救助が終わってから分かることのほうが、ずっと多かった。


食後、エルナは工房へ戻った。


俺も港の荷の確認へ行かなければならなかったが、グレンが少しだけ待ってほしいと言った。


彼は部屋の隅から古い包みを出し、小さな金属の輪を見せた。


「結婚したときのもの?」


「違う。荷を数える札をまとめてた輪だ」


俺は口を閉じた。


感動の品を早く見つけたがるのも、悪い癖だった。


「向こうで、ずっと持ってた。仕事の続きをするつもりで」


彼は輪を指へ掛けた。


「今の札は穴が小さくて、入らないんだ」


「別の輪を作ってもらえます」


「うん。それでいいと思った」


古い輪は、棚の上へ置かれた。


彼はそれを捨てなかったし、全ての札を合わせて削り直そうともしなかった。


使えないものを持っていることは、いつでも次へ進めない証拠になるわけではない。


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