渡せるもの、渡せないもの
グレンの財産の話し合いは、海が荒れた日に行われた。
窓の外では干していた布が片づけられ、通りがいつもより暗かった。
外へ出せない荷を廊下へ積んだため、家の中には狭い通り道しか残っていない。
俺は包みを踏まないように足を持ち上げ、何度も頭を梁へ近づけた。
元の家へ帰るという願いと、今この家で仕事をしている現実が、同じ狭い廊下の中にあった。
ソルダが来て、最初に今日決めることを読み上げた。
グレンの生存を現在の記録へ反映すること。
過去に行われた財産の処分の根拠を確かめること。
今後の金銭と使用する場所を決めること。
誰と誰が同じ家に暮らすかを、財産の数字だけで命令しない。
その点も先に確認した。
レダは深く頷いた。
グレンは唇を結び、コルは膝の上で手を重ねていた。
「返せないものもあります」
レダが言った。
「売った土地の代金は、生活と借入れの返済に使いました。残っているものとして計算すると、本当にあるものが分からなくなる」
グレンは帳面を見た。
そこには屋根の修繕、食費、子供の学び、通院、仕事の材料が並んでいた。
彼のいなかった時間が、金の動きとして見える。
数字だけでは、その日に誰が泣き、誰が腹を空かせたかは分からない。
それでも、何もなかった時間ではないことは分かった。
「この借入れは、俺が出る前のものだ」
彼が一行を指した。
ヴェスのような専門の会計係はいなかったが、コルは原本の控えを持ってきた。
グレンが署名した借入れの残りを、レダが働いて返していた。
俺は黙って数字を写した。
この家が彼から奪ったものだけを数えるなら、この返済は書けなくなる。
逆に、残る者が苦労したから帰還者は何も求めるなとするなら、彼が持っていた仕事と権利が消える。
帳面を二冊へ分けたのは、誰かの苦労を大きく見せるためではなかった。
違う種類の出来事を同じ欄へ押し込まないためだった。
昼になると、コルがパンを出した。
皆が同じ卓で食べるのは難しく、話し合いの席を一度外し、台所でそれぞれ立って食べた。
グレンはパンの端を選んだ。
レダはそれを見て、昔もそこが好きだったと言いかけ、止めた。
「ここ、食べやすいから」
グレンが言った。
今の歯の話だった。
閉じ込められる前の好みと同じかどうかを確かめるより、目の前の彼には具体的な理由があった。
午後、仕事場の水の槽を見ることになった。
レダたちの仕事では、繁忙の朝に水を運び、染めた布を洗う場所を整える人手が足りなかった。
グレンは排水溝の石を見て、以前より流れが悪いと言った。
コルは新しい槽を置いたときに角度が変わったと答えた。
二人はしばらく、水の流れについてだけ話した。
俺はそれを見て、うまくいく、と喜びそうになった。
だがソルダが、仕事を引き受けるかは住居や返還金と別に決める、と釘を刺した。
働いてくれれば権利を返す、という条件を、親しさの中へ紛れ込ませないためだった。
グレンは少し考えた。
「週のうち、二度。朝の水だけなら」
彼は言った。
「それ以上は、港の仕事がある」
コルは時間と作業を紙へ書いた。
給金も、途中でやめるときの連絡も。
家族だった頃には書かなかったことを、今は書かなければならない。
その手間を寂しいだけと決めれば、新しく作る関係へ失礼なのかもしれなかった。
*
最終的に、グレンは川を一本隔てた部屋を借りることになった。
現在の家を売らずに清算できる持分を分け、残る分は期限を決めて支払う。
彼が以前から負っていた借入れを家側が返した分も、双方の帳面へ同じ形で記した。
数字は互いに不満のないものではなかったが、何を数えたかは読み直せた。
レダは今の婚姻と暮らしを続ける。
グレンがそれを快く受け入れた、とは書けない。
彼の顔を見れば、まだ置き場所のない痛みがあることは分かった。
それでも、誰かが別の家へ出ていけば自分の失った年月が帰るわけではないことを、彼は自分の言葉で確かめた。
「しばらく、仕事の日以外は来ない」
彼は言った。
「会う回数を、少なくしたい。会いたくないわけじゃないが、帰りがつらい」
レダは頷いた。
「分かった」
ソルダはその約束を、財産の紙とは別の場所へ記した。
法で命じることではない。
互いに忘れないようにするための、今の約束だった。
その翌日、グレンは生存を確認する窓口へ行った。
役人は古い通知へ大きな線を引こうとして、手を止めた。
書類に残すのは過去の判断がなかったという訂正ではなく、現在は本人が生存しているという確認だった。
ソルダが持ってきた付紙を綴じ、本人を見た日と、確認に使った証拠を別の欄へ入れる。
グレンは自分の名前を書いた。
途中でインクが足りなくなり、最後の字だけ薄くなった。
役人が重ね書きするか聞くと、彼はもう一度ペン先を浸し、自分でなぞった。
人が生きている証拠としてはひどく細い線だったが、誰かに代筆させたくないという意思が、その指にはあった。
「これで、あの人が嘘をついたことにはならない?」
彼は確認した。
「長期不在を根拠にした当時の申立てと、今の生存確認は、両方を残します」
役人は答えた。
グレンは長く紙を見て、それから頷いた。
自分が生きて帰ったことによって、待った人が偽りを申し立てた罪人になる。
それもまた、彼が望んだ帰り方ではなかった。
窓口を出ると、靴の裏へ小さな紙屑が貼りついていた。
俺が指摘すると、グレンは片足を上げ、壁へ手をついて取った。
重大な書類を書いた人間も、次の瞬間には靴の裏を気にしている。
その普通さが、俺にはありがたかった。
俺は紙を乾かし、控えを一通ずつ渡した。
全員が同じ家へ戻る絵を思い描いていた俺には、少し静かすぎる決着だった。
だが、俺の想像した絵の中に、ミラの机や、コルが売った道具や、グレンが一人で眠りたい夜は入っていなかった。




