できないからではなく
審理の朝、俺は襟を三度直した。
エルナがそれを見て、もう十分だと言った。
彼女自身も髪を結び直していたから、十分というのは美しさの評価ではなく、これ以上いじると遅れるという意味だった。
レクは工房の上着で来た。
「それでいいの?」
聞くと、彼は袖を見下ろした。
「洗った」
「そうじゃなくて」
「仕事を続けたいって話をしに行くのに、仕事の服じゃ駄目か」
俺は口を閉じた。
実際のところ、見た目で損をしてほしくなかった。
だが、その心配をする俺は、彼の働く姿を隠したほうがよいと言っているようにも見えた。
立会所の廊下には、小さな鉢に草が植わっていた。
葉の先が黄色くなり、水をやりすぎたのか足りないのか分からない。
俺はそれを見ていた。
入室を待つ時間に、見つめても失礼にならないものが必要だった。
ネルダはヴェスと来た。
レクを見ると何か言いかけたが、やめた。
部屋の卓は長く、窓は高かった。
海からの光が天井へ当たり、座った者の顔を間接に照らしている。
審理する二人のうち、年長の男は指に布を巻いていた。
書きすぎて傷めたらしい。
俺は勝手に、この人も人間だと思って安心した。
指を傷める人間なら公正だという保証は、どこにもないのだが。
最初に争点が確認された。
工房を借りるためにレク自身が負った金。
引受家が保全庫へ払った金。
医療職を継がせるために用意した教育の費用。
ヴェスは一つの表で説明したが、ソルダは別々の紙へ数字を移してあった。
「同じ人に関係する支出であることと、同じ契約の支出であることは分けます」
彼女は静かに言った。
ディオルも証人として来ていた。
庫の職員が作った古い分類表を読み、医療技能が見込まれたとする判定の範囲を説明した。
「その判定は、今のレク氏が患者を診療できるという資格認定でしたか」
「違います。受理された体験に含まれる要素の判定です」
「当人の成長後の意思を確認した記録は」
ディオルは頁をめくった。
「進路指導の記載があります。ただし、本人の署名とは別です」
俺は胸の奥が熱くなった。
うまく進んでいる。
次に自分が説明すれば、もっとはっきりする。
出番が来ると、俺は用意した紙を出した。
レクが現在の身体で医療の仕事を身につけていないこと。
過去の知識が不完全であること。
前の世界の道具をこの街で再現できないこと。
「つまり、この人には期待された能力がないんです」
言ってから、レクがこちらを見た。
責める顔ではなかった。
そのため俺は、なおさら自分が何を言ったか聞き直さなければならなかった。
ソルダが筆を置いた。
「能力がない場合だけ、進路を変えてよいという申立てではありません」
静かな声が、卓の中央へ落ちた。
俺は用意した紙を握った。
役に立たないから解放してくれ。
それでは、役に立つ人は閉じ込めてもよいことになる。
俺は、彼を助けるつもりで、彼に課せられた物差しの短い側へ立たせていた。
「訂正します」
声が掠れた。
「僕が言えるのは、体験を持つことだけで今の身体の技能は決まらない、ということです。でも、それ以前に、この人が何の仕事をするかを、僕ができるかできないかで決める話じゃなかった」
レクは視線を下げた。
頷いてもくれなかった。
俺の訂正を慰めるために、彼が何かする必要はない。
ネルダが、膝に置いた手を重ね直した。
「では、私たちがこの子に使ったものは、何だったのでしょう」
その問いは、審理のためだけの言葉ではなかった。
レクが顔を上げた。
「育ててくれたんだと思う」
彼は言った。
「でも、それなら育てたことにしてほしい。まだ働いていない医者を買ったことにしないでほしい」
ネルダは息を吸い、長く吐いた。
誰もすぐには言葉を継がなかった。
外で荷車が通り、窓の硝子がかすかに震えた。
部屋の中がどれほど静かでも、街の仕事は続いていた。
*
その日に全ての判断は出なかった。
工房の道具の引上げは、審理が済むまで止められた。
現在の借入れについては既定の支払いを続ける。
保全費と教育費については、引受家の契約と本人の債務を分けるため、追加の原本を確認することになった。
廊下へ出ると、俺の足は思ったより疲れていた。
座って話していただけなのに、山を歩いた後のようだった。
「さっきは、ごめん」
レクへ言うと、彼は窓の外を見たまま答えた。
「医者になれない人間だって、皆の前で言われるのは慣れてる」
俺は黙った。
「慣れてても、好きじゃない」
「うん」
彼は俺を見た。
「工房へ戻る。昼を食べる。あんたも来るなら、途中でパンを買って」
俺は頷いた。
許されたと理解するのは早かった。
それでも、次に一緒に何をするかは渡してもらえた。
俺はパンを選び、二人分より少し多い量を買った。
多く買えば失言が軽くなるわけではない。
そのことは会計の直前に思い出し、最後の一個だけ戻した。




