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忘れ潮の灯台守  作者: Tpump6957
まだ生まれない名
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人を育てる家

レクを育てた家へ行ったのは、その二日後だった。


俺たちから押しかけたのではない。


彼の申立てを整理する記録師が必要で、エルナが短期の仕事として請けた。


俺は金額の転記と、保全容器の点検欄の読み取りを手伝うことになった。


俺たちがこの街の法を知り尽くしているわけではないので、争いを扱う立会人にも依頼した。


立会人はソルダという女だった。


厚い眼鏡を片側へ傾けて字を読み、重要なことほど小さな声で聞き返す。


そのため依頼人は前へ身を寄せ、自分の言ったことをもう一度口にすることになる。


「ノアさん。あなたがこの人を助けたいのは分かりました。そのために、本人が何を頼んだのかを先に書いてください」


俺の用意した説明を読み、ソルダはそう言った。


紙には、彼の自由を守る必要がある、と書いてあった。


レクが頼んだのは、工房の道具を引き上げられないようにすることと、支払う根拠の分からない保全費を分けることだった。


俺は早くも彼より大きな物語を代わりに書いていた。


育ての家の門には、淡い花が絡んでいた。


中庭に水盤があり、縁を子供が指でなぞっている。


奥の部屋から薬を煎じる匂いがした。


レクは門をくぐる前に一度、自分の袖口を直した。


工房では気にしていなかった煤を、爪で擦り落とそうとしていた。


出てきたのは、腰の曲がり始めた女だった。


「痩せたね」


彼女は最初にそう言った。


「変わらないよ」


「頬が」


「ここへ来ると、いつも同じことを言う」


女は困ったように笑った。


育ての母だと紹介され、俺たちは頭を下げた。


名前はネルダ。


医療の仕事をする家を継ぎ、受理者の養育を引き受けたのだという。


茶が出た。


レクの前にだけ、小さな皿で干した果物が置かれた。


彼はそれを見て、すぐには手をつけなかった。


話は穏やかに始まり、だから余計に終わらせにくかった。


「望むことをさせなかったと言われるのは、つらいのです」


ネルダは指を重ねた。


「この子に何ができるか、私たちも分からなかった。だから学べる場所を用意しました。普通の子より費用は掛かりました。でも、それを惜しんだことはありません」


レクの顎が少し強くなった。


「今は、返せと言ってる」


「あなたを罰したいのではないわ。この家には次の子たちもいる。約束が果たされなければ、続けられないことがあるの」


奥で子供が笑い、誰かが静かにするよう言った。


俺は家を見回した。


悪意だけで作られた場所ではない。


薬の棚には毎日の手入れがあり、階段には小さな手に合う高さの手すりがあった。


そこで受けた世話が本物だったからといって、後から請求される全てが正しいことにはならない。


その二つを同時に見るのは、相手を悪人と呼ぶより疲れた。


ソルダは契約の最初の紙を求めた。


ヴェスが持ってきた書類には、受理番号、引受先、医療の役目へ就ける見込みが記されていた。


レクの署名はない。


まだ生まれていない身体の名もない。


「この欄の返納義務は、引受家と保全庫の間のものですね」


ソルダが確認した。


「仕事を継ぐ者が家へ納める分で支払う想定です」


ヴェスが答えた。


「想定と、本人が負った義務を分けます。成年後に締結した契約はありますか」


今度の紙には、レクの筆跡があった。


道具、食費、住居の一部。


工房へ移るときに借りたものだという。


レクはそれを読み、自分の契約だと認めた。


「払うと言ったものまで払わないつもりはない」


彼は言った。


「でも、その前へ戻って、僕の生まれる前の帳面まで全部僕にするな」


彼がこの家では僕と言うことに、俺はそのとき初めて気づいた。



*



帰り際、ネルダは包みを差し出した。


干した果物だった。


レクは受け取りかけ、手を止めた。


「これも、書く?」


女の顔が痛みを受けたように歪んだ。


「書かないわ」


「じゃあ、もらう」


帰り道、彼は一つだけ食べた。


俺たちへも勧めたが、俺は断った。


分けてもらわないほうがよい気がした。


その理由を立派に説明しようとすると、たぶん間違える。


宿へ戻ったエルナは、しばらく紙を見つめていた。


「お父さんの仕事を続けたいと思ったとき、私には断れる場所があったのかな」


彼女が言った。


「続けたいんじゃないの」


「続けたいよ。でも、自分で選んだことにも、選ぶ前から置かれていたものはある」


俺は返事を探したが、うまい言葉はなかった。


彼女は父を愛し、父のそばを離れたい日もあった。


その二つをどちらか一つへ直してやるのは、俺の役目ではない。


俺は湯を足し、飲み物の器を彼女の近くへ置いた。


「明日の写し、僕が先にやる」


「数字のところからね」


「字のきれいさでは期待されてない?」


「今、聞く?」


俺は笑った。


笑っても消えない話を、机の上へ残したまま。


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