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忘れ潮の灯台守  作者: Tpump6957
船を出すまでの春
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荷物に数えないもの

ロスカへ行く日を決めるとき、俺はエルナが持ってきた予定の紙に、自分の用事を書き加えた。


受信環の部材の照合。工房の検査。


返信に使う封片の見積り。返済の控えを届けること。


それから、対岸へ出る旅の相談。


最後の行だけ、俺は紙の真ん中に書いた。彼女の用事と自分の用事の両方に掛かるようにしたつもりだった。


エルナはその字を見て、紙を少し自分のほうへ引いた。


「私の依頼を先に並べていい?」


「もちろん」


俺は言った。もちろん、と答えるほど簡単なことを、なぜ最初からしておかなかったのかは考えないことにした。


父には、留守の灯りを頼んだ。油の量と点灯時刻を紙にし、魔術の接続には触れないことを確かめた。


専門の点検は俺が戻ってからにする。


カイルは紙を読んで、窓拭きが抜けていると言った。


「それは帰ったら僕が」


「塩は、お前の帰りを待たん」


俺は一行足した。父は満足したように頷き、借りる手間の分は帰宅後の薪で返せ、と言った。


家族なら無料という俺の淡い期待も、その場で点検された。


荷車が村を離れると、春の風は少し冷たくなった。俺たちは積荷の脇に腰を下ろし、膝の上へ鞄を置いた。


エルナは道中で読もうとしていた紙を一度開いたが、揺れで字が追えず、間もなく畳んだ。


街道の窪みに車輪が入るたび、俺たちの肩が触れた。


わざと離れないことと、さらに寄りかかることの間には、なかなか広い土地がある。


俺はしばらくそこで国境のようなものを測っていたが、彼女が居眠りを始めたので、考えるのをやめた。


眠っているあいだも、鞄の持ち手は離さなかった。指の関節には紙を扱う仕事の小さな傷があり、爪際のインクは洗っても薄く残っていた。


顔を見ていたいと思ってから、眠る人間の顔を延々と観察するのもどうなのだと迷い、俺は街道へ視線を戻した。


その程度の迷いを、以前の自分が持っていたかどうかは知らない。今の俺には必要だった。




*




工房の戸を開くと、温めた糊の匂いがした。


奥の窓に薄い布が掛けられ、陽射しを弱めている。机には石を載せた紙が並び、床には切り落とした縁が散っていた。


村では船の形をした物にばかり囲まれていたので、四角い紙がこれほど大量にあることに、俺は妙な安心を覚えた。


オルネは俺たちを見て、まず戸を閉めろと言った。


「埃が入る。挨拶は中で聞く」


膝に巻いた布が、椅子から立つと少しずれた。エルナが椅子を押さえようとすると、老人は手だけで制し、自分で直した。


「父は?」


「今はタヴィのところだ。夕方、ユルが送ってくる。君への手紙は奥の箱」


エルナは上着を脱ぎ、村から持ち帰った依頼を机へ置いた。オルネは束の厚みを見て眉を上げた。


「増えたね」


「写しが必要な人は増えた。払える人は、同じだけは増えてない」


「紙代は先に分けたか」


「分けた。でも、急ぐ分を立て替えた」


老人は帳面を受け取った。俺も横から見ようとしたが、二人の数字へ口を出す前に、用具を下ろす場所を作るべきだった。


椅子には修復待ちの綴じ物があり、その下には別の箱があった。


俺が空いた床を探しているあいだに、エルナは立替分を仕事の収入と混ぜていたことを指摘された。彼女は黙り、紙を一枚取って書き直した。


訂正を受けたときの横顔は、村で俺の書類を直すときよりずっと不機嫌だった。


それが少し可笑しく、同時に、俺のためだけに正しく振る舞う人でなくてよかったと思った。


口にすれば彼女の機嫌が悪くなるので、俺は鞄を置くことに専念した。


俺の用事は午後まで待った。


そのあいだ、工房で乾いた紙を揃え、古い糊を小刀で薄く落とした。


自分の持ってきた重要な調査が、誰かの仕事の順番を追い越さないことは、頭では分かっている。分かっていても、時計のない壁を何度も見たくなった。


受信環については、現地から取った寸法と、刻線の写しを渡した。オルネは紙を傾け、何か所かを指で押さえた。


「ここは、君の見た傷か、紙の折り目か」


「傷です」


「別に描きなさい。私には見分けがつかない」


俺は描き直した。紙の上で分からないものは、遠くの工房から都合よく判断できない。


先を急ぎたい俺には不便だったが、その不便を埋めるのが仕事だった。




*




ロイは、夕方の光が机の端へ届く頃に帰ってきた。


ユルが隣を歩き、ロイは自分の上着を腕に掛けていた。戸口で靴を拭き、俺を見ると丁寧に会釈した。


俺を誰だと思ったのかは分からない。


「お邪魔します」


「こちらこそ」


妙な返事をしたことに気づいたが、言い直すほどのことでもなかった。ロイは机の紙へ目を留め、揃っていない端を指で軽く押した。


「ここを揃えると、下が出てきませんよ」


「ありがとうございます」


言われた通りにすると、紙の束が少し落ち着いた。俺は同じ助言を以前にも受けたと知っていたが、それを本人へ告げる必要は感じなかった。


エルナが奥から椅子を持ってきた。ロイは彼女の手元を見て、それは重いでしょう、と言った。


「平気。こっち、窓の近くがいい?」


「風が来なければ」


彼女は窓を少し閉めた。椅子へ座った父の袖口を直そうとして、その手を一度止める。


「袖、折ってもいい?」


ロイは自分の袖を見た。片方だけ裏返っていた。


「お願いします」


ユルは明日の迎えの時刻を確かめた。タヴィの家では、来週の午後に人が集まる用があるため、その日はロイの過ごす場所を変えたいという。


エルナはすぐ、自分が戻る、と言いかけた。


「往復を増やす前に、ほかの日を見よう」


ユルは紙を取り出した。きちんと折られた予定に、タヴィと彼、それぞれの用事が別々に書いてあった。


俺はそこに、同じ家の人間なら都合も一つになるはずだ、という自分の雑な見積りを見つけた。


暮らしを共にすることは、予定を全部重ねることではないらしかった。


翌朝、タヴィのところで、改めて留守の相談をした。


台所には洗った器が伏せてあり、一枚だけ布の上で乾ききらずにいた。タヴィはその器を持ち上げ、水の溜まった縁を拭きながら話を聞いた。


「対岸へ行くなら、今までより長いのね」


「まだ出発日は決まってない。戻る便の条件も聞いてから」


エルナは言った。俺は相槌を打ちそうになったが、彼女が初めて口にした条件だったので、口を閉じた。


「日中のことは相談できる。でも、夜まで毎日は引き受けられない」


タヴィは器を棚へ戻した。


「ユルにも、自分の用があるから。私の返事で、あの人の分までは決めない」


エルナは頷き、空欄へ線を引いた。彼女は線を引くあいだ、何度も少しだけ唇を噛んだ。


頼みごとの形をしていても、自分の不在を他人に説明することには、責められる前に謝りたくなるような重さがあるらしかった。


窓の外で荷車が通り、器が一枚、微かに鳴った。


「お父さんに、旅の話をするの?」


タヴィが聞いた。


「する。今日、分かってもらえるかは分からないけど」


「持っていく上着を見せると、話しやすいかもしれないね。行き先の名前だけだと、私もよく分からない」


助言はそれだけだった。俺は、安心してください、という言葉のない相談に、かえって少し安心した。


工房へ戻ると、ロイは窓辺で古い紐を結び直していた。何に使うか聞くと、包みがあるので、と答えた。


包みはなかった。


エルナは椅子を隣へ運び、父の指が結び目を作るのを待った。それから、海の向こうへ仕事で行きたいこと、しばらく離れることを話した。


「船で?」


「うん。知ってる船頭さんの船で」


「濡れますから、紙を」


ロイは言いかけ、膝の紐を見た。考えていたものを見失ったように、しばらく指を開いたり閉じたりした。


「包んで持っていく」


エルナが言った。


「そうですね。紙は、濡れると戻りませんから」


彼女は頷いた。別れを承諾されたと決めつけもしなければ、娘として認められなかったと話を止めもしなかった。


棚には、小さな箱が置いてあった。返された二つの封片が入っている。


エルナは旅の支度の確認で箱を手前へ寄せ、封を見てから元へ戻した。


俺はそれを見ていた。


失われた一片の代わりにならない二つ。俺が返す金とも、彼女が父と過ごす今日とも、別の形でそこに残っている。


何も開かれなかった。ロイは出来上がった結び目を娘に見せ、ほどけないか確かめてほしいと言った。




*




喧嘩になったのは、夕方、買物から戻る道だった。


俺は油布の包みを持ち、エルナは店で受け取った見積りを鞄へ入れていた。道の端では煮豆が売られ、隣の店の香辛料の匂いと混じって腹を刺激した。


「対岸では、同じ宿でいいよね。部屋は別で。仕事の道具もまとめられるし」


言いながら、俺は配慮したつもりになっていた。勝手に一室へ押し込むような男ではないと、自分で自分を評価していたのである。


エルナは歩みを緩めた。


「まだ、私が何日行くか話してない」


「戻る便が決まってから、考えれば」


「あなたの予定に合わせて?」


声が冷たくなった。俺は通行人を避けて端へ寄った。


彼女も寄ったが、距離は少し開いた。


「そういう意味じゃない。道具が一緒なら、費用も」


「私の道具は、あなたの調査のためだけに持っていくんじゃないよ」


「それは分かってる」


彼女は黙った。俺はすぐ、分かっていると言ったことを後悔した。


だが後悔する一方で、そんなに悪い提案だったか、と腹を立ててもいた。


「一緒に行くつもりだったから」


「私も行きたい。でも、船に乗ることと、その先の予定を全部一緒にすることは、同じじゃない」


荷車が通るため、俺たちはさらに壁へ寄った。車輪の音で少しのあいだ話せなくなったことを、俺は助かったと思った。


エルナには向こうの記録を扱う自分の仕事がある。俺の謎解きを手伝い、その合間に記録を写すのではない。


それは理解できる。理解できても、自分より先に彼女が別の仕事を選ぶことを想像すると、胸の奥が狭くなった。


「僕が、いなくてもいいみたいに聞こえる」


口にしてから、子供じみていると思った。エルナは目を上げた。


呆れるより先に、少し傷ついたような顔をした。


「ここへ来てから、父のことと工房のことを相談してたでしょう。あなたも見てた」


「見てたよ」


「それを全部済ませれば、残りはあなたと同じ予定にできると思ってたの?」


俺は油布の包みを持ち替えた。紐が指へ食い込み、持っている理由もなく片手を忙しくさせた。


彼女の用事が終わるまで待てた自分を、俺は褒めていた。だが待ち終えた先には、当然のように自分の望む時間が用意されていると思っていた。


「少し、そう思ってた」


エルナは息を吐いた。


「私は、あなたと行きたいからこそ、向こうでずっと機嫌を悪くしていたくない」


その言葉が、すぐには俺の中へ入ってこなかった。一緒に行きたい、と言われた嬉しさで、その先を聞かずに済ませたくなったからだった。


彼女は自分の行きたい場所と、会って仕事の話をしたい相手がいると言った。先に照会して条件を聞き、旅費も工房の仕事の分と私用の分に分けたい。


帰りが遅れた場合、父のために用意する費用も必要だった。


俺は聞いた。途中で、自分の調査にも便利だ、と言いそうになり、やめた。


「予定を、もう一枚作ろう」


「二人の分?」


「それぞれ書いて、一緒にできるところを見たい。最初から一枚に、僕の字で書かない」


彼女はしばらく俺を見て、それから頷いた。仲直りというには、まだ顎に力が残っていた。


「それと、夕食は一緒に食べたい」


俺は言った。


「毎晩、とは言わないけど。今日も」


エルナの視線が、脇の煮豆の鍋へ向いた。


「私も、お腹は空いてる」


「それは僕と食べたいとは、別の話かな」


「少しは、一緒」


少しで十分だと思った。十分だと思うまでに随分と面倒をかけたが、そこでさらに大きな答えを求めるほど鈍くはありたくなかった。


俺たちは小さな食堂へ入った。長椅子の奥は壁からの冷えが強く、エルナは背をつけずに座った。


俺が場所を替わろうかと言うと、下に敷く物を借りる、と答えた。


いつも俺が何かを差し出さなければならないわけではない。彼女は店の人に声を掛け、畳んだ布を受け取った。


煮込みには、細く切った根菜と、焼いてから入れた肉があった。表面の脂が灯りを丸く返し、黒い粒の香りが鼻へ抜ける。


俺は最初の一口で熱さを見誤り、会話を始める能力を一時的に失った。


エルナは匙を止め、笑うのを我慢していた。


「熱かった?」


「ちょうどいい」


舌が役に立たず、発音に説得力がなかった。彼女はとうとう笑い、俺の器から立つ湯気を指した。


「見えてるのに」


言われてみれば、危険は事前に表示されていた。記録師として、食事でもまだ修業が足りなかった。


食べながら、エルナは工房へ来た客の話をした。


何代も続く家の記録を綺麗に直してほしいと頼まれたが、余白にあった先代への悪口まで残すかで揉めたという。


「消してほしいのは分かるけど、紙そのものを直す依頼だったから」


「どんな悪口?」


「話さない」


「そこが一番」


「面白いでしょうね」


彼女は平然と肉を食べた。俺は知らないまま笑うしかなかった。


食事の終わりに、果実を煮たものを一皿頼んだ。二人で分けようと言ったのは俺だったが、届くと思ったより小さかった。


エルナは器を見て、もう一つ頼むか迷い、結局、明日また食べると言った。


「明日も、一緒に?」


俺が聞くと、彼女は匙を持ったままこちらを見た。


「明日は工房で遅くなるから、その後なら」


俺はその返事を、今日の喧嘩がなかったことになる合図にはしなかった。仕事が終わる時刻を聞き、自分の買物をそれより前に済ませることにした。




*




返信に使う封片は、小指の先ほどの大きさだった。


工房へ持ち込まれた品を、オルネが検査台へ置いた。灰緑の石の中に、淡い筋が一本通っている。


見た目だけなら、浜で拾った石とたいして違わなかった。その小ささで値段を見ると、人はつい内容まで小さいと思いたくなる。


提供者は成人の職人で、雨のため旧道の小屋で荷を待っていた時間を切り離したという。了承の控えには、封じた範囲、用途、立会人が記されていた。


技術を習った日でも、仕事を覚えるために必要な道順でもないと、本人の説明が添えてある。


オルネは封止めを開かず、外側の刻線と、保存状態を確かめた。俺たちに見せるため、中身を少し味わわせるようなことはしなかった。


「雨宿りなら、惜しくないと言ったんですか」


俺が聞くと、老人は控えを指した。


「ここには、売ると決めた理由が書いてある。惜しくないかどうかは、別だね」


俺は読んだ。道具の修理代に充てるためだった。


今日飢えないためでも、世の中の役に立つためでもない。自分の仕事を続けるため、一つの時間を売ると決めた人がいた。


窓の外では、荷を積む声がしていた。少し前まで、その人にも聞こえていたかもしれない雨や車輪の音を、俺は勝手に思い描きかけた。


それは本人の記憶を知ったことにはならなかった。


「これ一つで、長い文をどれだけ出せますか」


「現地の損耗がある。文を短くするのが先だ。余ったように見えても、勝手に範囲を足さない」


オルネは、村へ戻ってから確かめる箇所を別紙へ書いた。俺はもう一度、使用目的の欄を読んだ。


名前の照会と、入港条件の確認。そのための通信に使う。


遠くへ声が届くのを面白がって、試しの挨拶を増やすためではない。


代金は、共同の費用から払った。先日の貨物の染みを払う金と混ぜないよう、袋も控えも分けて持ってきていた。


エルナは受取の書類を読み終え、俺のほうへ回した。


「旅の予定、書いた?」


「書いた。僕の分だけ」


彼女は自分の紙を出した。二枚を並べると、一緒に行動できる時間も、片方が待つ時間もあった。


俺は当初の見積りより宿代が掛かるのを見て、少し顔をしかめた。


エルナも同じ数字を見ていた。


「もう一泊減らせるか、向こうの仕事の返事を見てから考える」


「僕のほうも、見たい場所を全部最初の旅へ入れないようにする」


言ってから、惜しくなった。見たい場所は全部見たかった。


できれば彼女と一緒に見たかった。欲がなくなったから紙を直すのではなく、欲があるまま直すしかなかった。


帰る支度をしていると、ロイが結んだ紐を持ってきた。


「これで、ほどけませんか」


彼は俺に聞いた。俺は引いて確かめ、少し緩めれば何度も使えます、と答えた。


「それなら、よかった」


エルナはその紐で、濡らしたくない紙の包みを括った。父へ見せると、ロイは満足したように頷いた。


何の旅のためか覚えているかどうかは、確かめなかった。


封片は別の小箱に収め、まだ封をしたまま持ち帰った。




*




村へ戻ると、父が灯台の窓から手を振った。


俺は手を振り返し、鞄の重さを持ち直した。下の浜には、組み直された舟と、干してある綱が見えた。


エドの削った木片が砂に混じり、トマがそれを足で一か所へ寄せている。


サーヴァは舟を見上げ、何かをユストへ伝えていた。二人ともこちらに気づいたが、話を終えてから手を上げた。


俺たちが出かけているあいだにも、仕事は進んでいた。寂しがるには助かりすぎていて、安心するには少し悔しかった。


エルナは村の工房へ荷を置きに行った。俺は灯台へ向かった。


別れる角で、彼女が振り返る。


「夕方、予定の続きね」


「食事も?」


「その前に、仕事を終わらせて」


俺は頷いた。彼女が見えなくなってから、父へ返す薪のことを思い出した。


船を出すために買ってきた荷物には、木でも布でもない他人の待ち時間が一つ入っている。


その箱を胸へ抱えて運びながら、俺は今日自分が使う時間を、できるだけ余計に誰かへ払わせないようにしようと思った。


階段を上ると、窓は綺麗だった。机には父の書いた点灯の記録があり、その隅に、薪、と短く書かれていた。


父は余計な時間を払わせない方法を、俺より先に知っていた。

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