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忘れ潮の灯台守  作者: Tpump6957
明日へ返す灯
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灯台守の給金

海が戻った翌日から、俺には仕事があった。


灯台の鍵を預かり、出入りを記録し、風と水位を測った。


故障した部分の一覧を作り、修理を頼んだ。


塔の窓に塩がつくと光が散るので、毎朝拭かなければならなかった。


昔の灯台守が英雄だったかどうかは知らないが、少なくとも窓拭きには詳しかったはずだ。


給金は高くなかった。


俺は村長と交渉した。


世界の謎を救った者としてではなく、高い場所で働き、夜中にも起こされる仕事として増額を求めた。


村長は渋り、父は横で笑い、エルナは勤務の記録を出した。


結局、夜間の呼出し一回ごとに手当がつくことになった。


英雄なら金の話をしないのかもしれない。


だが俺には返す金があり、食べたい物があり、できれば働かずに暮らしたいという昔の願いも、完全には消えていなかった。


違うのは、その願いを他人の記憶で叶えるのを、以前よりためらうようになったことだった。


記録工房は、都市と村に二つになった。


オルネはロスカに残り、エルナが月に何度か往復した。


村には彼女のための机を置いた。


俺の机と隣り合わせにするか聞くと、窓の光がいいところ、と答えたので、少し離れた場所になった。


俺は不満を言わなかった。


顔には出たらしい。


彼女は机を運ぶ俺を見て、笑った。


彼女が作り始めたのは、独立した記録の束だった。


役所の台帳は必要だが、それ一つだけに人の存在を預けない。


家族の証言、本人の言葉、物に残る痕、取引の控えを別々に保存し、違いがあってもすぐに一つへ揃えない。


誰が何を知らないかを、余白に記す。


作業は遅く、儲からず、感謝されない日もあった。


役所の字と違うから間違いだと怒られることもあった。


それでも彼女は続けた。


俺が彼女の目指すものを好きだと思ったのは、日記にそう書いてあったからではない。


実際に、彼女が誰の話をどれだけ待つか見たからだった。


ロイが村へ来たのは秋だった。


旅には付き添いが必要で、タヴィとユルが一緒に来た。


二人はこの頃、一つの家の二つの部屋で暮らすことに慣れたらしい。


婚姻を続けることを、ひとまず一年ごとに確かめる約束をしたという。


ロイは海を見て、初めて見る、と言った。


幼い頃に見た可能性はあった。


誰も訂正しなかった。


エルナは父の隣へ座り、戻った封片の一つを開くか聞いた。


ロイにはその日の説明が届いた。


彼は長く考え、今日は景色を見たい、と答えた。


彼女は小箱を閉じた。


少し残念そうだった。


だが箱を父の膝へ押しつけなかった。


「それなら、今日はそうしよう」


二人は同じ水面を見た。


ロイが海の色について話し、エルナが頷いた。


彼が明日忘れるかもしれない会話だった。


それでも、今そこで交わされたことまでなくなるわけではなかった。


俺は少し離れて、灯台の外壁を磨いていた。


仕事をしながら見守っているふりだったが、半分は本当に仕事だった。


残り半分については、彼女に見抜かれていたと思う。


夕方、エルナが俺を誘った。


港と呼び始めた石段の下で、波が小さく崩れていた。


船はまだ川舟を改造したものが二艘だけで、誰も沖へ出ようとはしなかった。


知らない水には、知らない危険がある。


俺も、その慎重さを笑わなくなっていた。


「日記、まだ読んでる?」


彼女が聞いた。


「読む。でも、最近のほうが多い」


「私のことは」


「今のことを書く」


エルナは頷いた。


足元へ来た水を避け、石段を一つ上った。


俺も上った。


「私、以前のノアに戻ってほしい日は、まだある」


「うん」


「戻らないって分かってても」


俺は彼女を見た。


彼女は水面を見ていた。


「今の僕を、好きになってほしいと思ってる」


言うと、声が少し乾いた。


「前の僕がそうだったからじゃなくて。と言っても、前の僕の借金も迷惑も引き継いでるから、都合のいい分け方なんだけど」


エルナが笑った。


「分けきれないよね」


「うん」


「私も、昔と今をきれいには分けられない。でも、今あなたに会うのが楽しみな日がある」


俺はその言葉を、必要以上に大きな約束へ変えないようにした。


「明日、夕食を一緒に食べない?」


「いつも食べてる」


「二人で。仕事の帳面を閉じて」


彼女は少し考えた。


「焦げてないパンで」


「覚えてる」


俺は答えた。


その答えは、試験の正解ではなかった。


彼女が今、何を望んでいるか知っているという返事だった。


エルナは俺の手に触れた。


俺が握り返す前に、一度こちらを見た。


俺は頷いた。


波が引くと、石段の濡れた部分が夕陽を細く返した。


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