妻の枕
寝ようとして、枕の下に木片があるのに気づいた。
首を上げると、エルナが手を伸ばして取った。紙を押さえる板だった。角に糊が付いている。
「忘れてた」
「僕を乾かすつもり?」
「もっと平たくなるなら」
彼女は板を寝台の下へ置いた。
昨日裂けた裾は、宿の女から借りた針で直してあった。縫い目を隠す気はあまりなかったらしく、糸の色が布と違う。俺が触ると、彼女はくすぐったそうに膝を引いた。
部屋の灯りを小さくすると、港から声が聞こえた。夜番が酒を飲んでいる。声の大きさから酒の残量を推定しようとして、途中でやめた。向こうもあと二日で、どの船を見張ればいいのか変わるのだろう。
ラウゼンが冬の給金へさらに積んだ額を話すと、エルナは眉を上げた。
「断ると、上がるんだ」
「次に断れば、もっと上がるかもしれない」
「次まで残ってたくない」
俺はうなずいた。
その額で買える物を、二人で一度だけ想像した。彼女は俺の肩へ額を寄せた。いつも使う石鹸とは違う、宿の強い草の匂いがした。
「仕事部屋は、やっぱり欲しい」
彼女は言った。
俺は薄い壁を見た。村の家でも、今より広い机が要る。二人で暮らし始めてから、買いたい物は減るどころか増えた。俺が稼ぐ理由として、十分すぎるくらいだった。
「少しずつ大きくしよう」
言ってから、借家の壁を勝手に抜く権利はないと思い出した。
「机を」
付け足すと、エルナは声を殺して笑った。
その笑いが収まっても、額は俺の肩から離れなかった。
しばらくして、彼女が言った。
「昨日、窓の外へ足を出してから、怖くなった」
「こっちは、最初から怖かった」
「見た」
「見えてたなら、待ってほしかった」
「戸を開けてって頼んだ時、私の話を聞いてなかった。何を持ってるかばかり見てた」
俺は彼女の背へ手を置いた。
門の外で彼女を待つことはできた。帳面を返し、朝まで宿へ戻ることもできた。だが、明日、塔の人間がもっと上手に彼女を閉じ込めるかもしれない。彼女もそれを考えたのだろう。
俺たちは、もう観察のためにここにいる二人ではなかった。
「明後日は、東岸へ行く」
エルナは言った。
「塔の中にいたら、船が着いたのを自分で見られない。あそこからなら、帰ってきた人を止められない」
「僕は塔へ戻る」
彼女の指が、俺の上着の縫い目をなぞった。
「帰りが遅くなったら、待つ。でも、待つのを仕事にされるのは嫌」
俺は彼女の顔を見た。
「遅れないようにする」
簡単に口にしたくない言葉だった。しかし何も約束しないで、この柔らかい額を抱えている方が、俺にはずるく思えた。
エルナは顔を上げ、俺の顎を見た。
「ここ、まだ赤い」
「明日、誰に殴られたと聞かれたら」
「窓から落ちてきた妻」
「強そうだな」
「強いよ」
口づける時、彼女は赤い所へ触れないよう、俺の顔を両手で支えた。俺は妻の腰へ手を回した。灯りを消す前に、枕の下へほかに物がないかを確かめた。
今夜はもう、硬いものに首を預けたくなかった。
*
朝、イサナの部屋へ行くと、籠が包まれていた。
中には黄色い実が四つと、小刀、古い櫛、靴下が一足。出て行く用意だった。
「全部、持っていくんですか」
俺が言うと、彼女は俺の道具袋を見た。
「お前のより軽い」
確かにそうだった。
イサナは南の通用口から出ようとしていた。ところが、昨日まで内側にあった鍵がなかった。外から見回りが戸を叩き、主階段を使うよう告げた。
主階段の先には、締結の支度が済むまで待つための椅子が置かれていた。
俺はその椅子を見た。
毛布まで用意してある。座れば暖かく、誰かが湯を持ってくるのだろう。それから、あと少しだけと頼まれる。昨日も、先月も、何年も前から、同じ言葉だったのかもしれない。
イサナは籠を腕へ掛け直した。
「昼までに戻る。市場で実を買う」
見回りは困った顔をした。
「必要な物は運ばせます」
「酸いのを自分で選びたい」
返事がなかった。
俺は一歩、彼女の横へ出た。
見回りの手が腰へ動いた。短い棒だった。刃ではない。それでも、腕へ当たれば骨に響く形をしていた。
「ここで止めたら、今日は僕も働きません」
口に出すと、思っていたより震えていなかった。
若い当番が上から下りてきた。昨日、イサナに先生と呼んでいた男だ。
「僕が代わりに座れます」
見回りが振り返った。
「普通の受信だけなら。先生に何度も習いました」
男はイサナを見ずに言った。イサナも礼を言わなかった。ただ、鍵を持つ見回りへ手を出した。
俺たちが門を出るまで、誰ももう一度止めなかった。
市場は塔のすぐ下にあった。
イサナは黄色い実を一つずつ持ち上げ、店の女と値を争った。塔でどれほどの仕事をしているかを知る者が見れば、もっと丁重に扱えと思ったかもしれない。だが、店の女は酸い実を選ぶ客として、遠慮なく悪口を言った。
イサナは、俺が知っているうちで一番楽しそうだった。




