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忘れ潮の灯台守  作者: Tpump6957
灯を消す者、帰る者
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悪くない椅子

ラウゼンが俺を通したのは、冬に話した広い部屋の隣だった。彼が一人で使う私室は、予想していたより狭かった。


港が見える机は大きい。そのせいで客の椅子を引くと後ろの棚にぶつかる。棚には船の模型があった。飾り物にしては船底が擦れ、帆の端を粗い糸で直してある。


俺が見ていると、ラウゼンは子供の物だと言った。


「あなたの?」


「私が子供だった時の」


それきり模型へ触れず、机の上の箱を開けた。


中には新しい刻線具が並んでいた。先が薄く、長さも揃っている。俺は一本を持ち上げたいと思った。思ったことを顔へ出さない程度には、年を取ったつもりだった。


「主任の道具だ。君の手に合わせて作り直せる」


俺は椅子へ深く座り直した。


「冬の話は、断りました」


「承知している。条件を変えた。彼女の負担を、今の設備へ合うやり方で引き継ぐ。君なら、余計な動きを減らせる」


提示された給金は、冬の額からさらに増えていた。住む所は塔の南棟。エルナの修復室の話も、必要な紙を買える費用を加えて、もう一度出された。


俺は一瞬、そこの窓辺へ彼女の机を置いた。


よく日が入り、作業を続けても食卓を片づけろと言わなくて済む。俺の道具も、床にしゃがんで研がずに済む。借家の梁が低いと文句を言ったのは、俺だった。


「彼女の仕事は、彼女へ頼んでください」


「もちろん。まず君に、条件を見てもらっている」


ラウゼンは、ごまかしている様子がなかった。この条件が二人のためになると、本当に思っていたのだろう。


「帰着の照合を一人で引き受ける時間は」


「日により違う」


「船が遅れたら?」


「待ってもらう」


「その間、僕は外へ出られない」


「イサナよりは短くできるはずだ」


俺は箱の中の道具を見た。


刃の一本に、指を置く窪みがあった。そこへ俺の指が合うかどうかは、持ってみなければ分からない。だが、ここでそれを持てば、相手は話が一歩進んだと思う。その期待を断る作業まで増やしたくなかった。


「村に、僕の仕事があります」


「代わりは立つ」


「立てました。いまは、帰ってくる約束で」


ラウゼンは口を閉じた。


窓の下を大きな荷車が通った。覆いの布が膨らみ、車輪が石のくぼみを越えた時、何か柔らかいものが荷台で揺れた。食べ物か、寝具か。短縮航路が止まれば、その荷はもっと長い道を来ることになる。


「この港に来る物の半分は、冬の間、短い道を使った」


ラウゼンは言った。


「君は一便を海沿いに通した。見た者は喜んだ。私も喜んだ。しかし一便通ることと、港が冬を越すことは同じ量ではない」


俺はうなずいた。


それは本当だった。俺たちが通した道は、手間も船も必要になる。余った船が勝手に生まれるわけではない。売る物を減らす者も、値を上げる者も出る。そこを綺麗な未来の一枚絵にして押しつければ、俺はまた自分の好きな結果だけを先に描いたことになる。


「だから、冬から荷を減らす相談をしました」


「私もした。だが、皆が減らしたいのは隣の荷だ」


少し笑いかけて、俺は笑えなかった。


「僕も、高い給金は好きです」


ラウゼンが俺を見た。


「さっきの額なら、この椅子に座った自分を一度は想像しました」


「悪い想像だったか」


「かなりよかった」


それは嘘ではなかった。


俺は箱を、相手の方へ少し戻した。


「でも、帰りが遅れた船の代わりに僕が待つ暮らしを、妻には約束していません。イサナさんが出られなくなった理由を知ってから、同じ椅子をもらうのは嫌です」


ラウゼンは箱を閉めなかった。


「彼女は、何度も自分で残った」


「今は出たいと言ってます」


ここで、彼の顔に怒りが出た。


その表情を見て、俺は腹の中が冷えるのを感じた。相手を怒らせたら話が進まなくなる。頭ではそう分かるのに、もっと言ってやりたい気持ちもあった。恥をかかせたい。イサナの前で、今朝の板をもう一度見せたい。


俺は指を組んだ。爪が掌へ食い込んだ。


「一巡だけ、戻せます」


言いたかった罵りの代わりに、用意していた図を出した。


昔の太い輪へ、今使っていない帰着の溝が残っている。往きと帰りをずっと固定せず、入った船の札を一つずつ送り返す。その最後に中央から切り離せば、以後の海は遠くなるが、人が枝の中へ残らない。


「君の案なら、短い航路は終わる」


「この集中のさせ方は終わります」


「私は港を守るために、君を呼んだ」


「僕は人が帰るために、来ました」


声が硬くなった。うまい返事をした気はしなかった。互いに同じ港を見ているのに、相手の指すものが、どうしてこんなに遠いのだろう。


ラウゼンは図を受け取らなかった。


「三日後の満潮だ。期限は動かせない」


「それまでに試験を見てください」


「空いた時に」


俺は図をしまった。


椅子を引くと、棚へぶつかった。小さな船が傾き、俺は反射で手を出した。船底を掌で受け、元へ戻した。古い帆の継ぎ糸が指に引っかかった。


「すみません」


「構わない」


ラウゼンは立ち上がらなかった。


廊下へ出たあとも、俺の指には模型の軽さが残っていた。あの男も昔は、このくらいの船を水へ浮かべ、遠くへ行きたかったのだろうか。


考えても分からない。


階下でイサナが俺を待っていた。籠ごと持ってきた黄色い実を、こちらへ突き出した。


「どうだった」


「いい給金でした」


「惜しいね」


「ええ」


俺は実を一つ取った。今度は心構えがあったので、顔をしかめずに食べられると思った。


無理だった。


イサナはまた笑った。


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