冬の家へ戻る
村へ一度戻ると、借家は思ったより冷えていた。
二人で戸を開けたのに、家の方はすぐに俺たちを迎える気にならなかったらしい。火を起こしても壁の冷たさが残り、寝台の布へ入れた手が、いくらか後悔して戻ってきた。
俺たちは荷を解く前に、母の家へ行った。
温かい物を食べさせてもらうためだった。
自立した暮らしには、時々、親の台所が必要になる。そういう理論を用意する前に、母は俺たちへ椀を出した。
「食べたら、薪を一本持っていきなさい」
一本では足りないと思ったが、父が後ろで三本へ増やしてくれた。
俺は黙って受け取った。
翌日から、村の仕事をした。
留守の間に溜まった補修は、どれも世界の運命に関係なかった。村長の窓、粉屋の荷台、灯台の油を置く棚の脚。だが直すと、人がすぐに使った。何年先の成果を待つ必要がないのは、気持ちがよかった。
灯台の戸を開けると、いつもの匂いがした。
油と塩、乾いた石、掃除に使った布。ジナは留守番の控えを渡し、俺の点検より先に、擦り減った刷毛の柄を見せた。
「これ、握りにくい」
「父さんは何も言わなかったけど」
「手の大きさが違う」
俺は柄を持ち直した。
仕事道具を人の身体へ合わせる。その当たり前の仕事で、北の競争に勝った。自分の灯台でも、毎回見なくてよいほど完成はしていなかった。
ジナの手の位置を聞き、少し削った。
彼女が握り、もう一度削ってくれと言った。
俺は削った。
夜は、二人の家へ帰った。
エルナはロイの家へ寄ってから戻ってくる日が多かった。俺が先なら火を起こし、彼女が先なら湯が沸いていた。二人とも遅い日は、どちらが何をしたかを数える余力がなく、残り物を温めた。
一度、彼女がどうしても仕事を切り上げられず、俺は鍋を火から下ろした。
声を掛けても返事がない。
もう一度呼ぶと、少し待って、と言った。
少しは、俺が椀を温め直して、パンを切って、切った端を二つ食べる時間だった。
「エルナ」
俺が呼ぶと、彼女は顔を上げた。
「今、薄い所が起きそうなの」
「僕の腹も、さっきから起きてる」
彼女は一瞬きょとんとして、それから吹き出した。
手に持っていた薄刃を布へ置き、紙の覆いをした。
「ごめん。食べよう」
食卓へ来た彼女は、まだ半分、紙の向こうにいた。
俺は拗ねかけたが、彼女が何を見つけたか話し始めると、聞いてしまった。古い航路帳の上書きの下に、実際に船へ渡していた目印の形が残っていたという。文字を読めない人にも、帰る岸を知らせるための形だった。
彼女はパンの皮を指で折り、その形を作った。
俺は、食べ物で説明するなと言おうとして、やめた。彼女の指の動きは、見ているだけで楽しかった。
仕事のまとめに自分の名を載せる話も、進んでいた。
今度の内容は、本人が公開を頼んだ道や道具に限った。誰かの人生を先に読んで、人が驚くところだけ持ち出すつもりはない。エルナは、名を出す前に確かめる手間も含めて引き受けた。
そのことで名を出したい欲が消えるはずもなく、刷った見本が来た晩には、彼女は机からなかなか離れなかった。
「見せて」
俺が言うと、彼女は一度だけ躊躇した。
それから、差し出した。
名前は、端へ小さく載っていた。
俺はそこを見た。
「もっと大きくてもよかったのに」
言うと、彼女は笑った。
「私も思った」
俺たちは同じ見本を二人で眺めた。
窓の外には雨が降っていた。小鉢の棚を移しておいたので、器へ水は掛からなかった。
春にまたレンネルへ行くまで、こうした夜が幾つもあった。
すべてが穏やかではなかった。疲れて返事が雑になる日も、俺が道具を食卓へ置いて怒られる日もあった。彼女が紙へ付けた糊を袖で拭き、俺がそれを見て、服を洗う方の身にもなれと言った日もあった。
言ったあと、俺も油の付いた手を外套で拭いていることを思い出した。
その日は、二人とも自分で洗った。
雪が薄くなる頃、春の切替の日が決まった。
ラウゼンからは、工事の人数と荷の量を知らせる物理の便が来た。俺たちも道具の数と到着日を返した。すべてを魔法の文字で送るほど、余裕がある仕事ではなかった。
今度は、終わったら二人で帰る日まで決めた。
道具をしまう夜、エルナは棚の小鉢を手に取り、裏の汚れを拭いた。
「留守番、お願い」
器へ言った。
「僕には?」
俺が聞くと、彼女は顔を向けた。
「荷を持って」
俺は荷を持った。
彼女は器を戻し、それから俺へ来て、襟の曲がった所を直した。
「帰ったら、今度こそ庇の隙間を塞ごう」
「まだ気になる?」
「風が来ると、あなたがすぐ家へ入ってくるから」
俺は笑い、彼女の額へ自分の額を当てた。
部屋の中は、出ていくのが惜しい温度だった。




