岬を回る一便
普通の海を通ればいい、と口にするのは簡単だった。
俺はそれを、吐きそうになりながら考えていた。
船の縁へ片手を掛け、もう片方で外套の前を押さえる。風が来るたび、襟の隙間から冷たさが入った。食べた朝食は、身体の中で移動の機会を窺っていた。
サーヴァは俺を見なかった。
帆と、岬の先の白い波と、舵を持つユストの手を順に見ていた。海では、俺がどれほど考え込んでも、風の向きは変わらない。
俺たちは荷を積んで、レンネルから外の岸へ向かっていた。
短縮航路なら朝のうちに着く所を、岬に沿って大きく回る。潮に合わせて途中の小さな入り江へ泊まり、翌日、向こうの低い桟橋へ届ける予定だった。
積んだのは粉と油、替えの帆布。それに、帰省する女と、その母が使う椅子。女は荷の横へ座り、自分より椅子の足が濡れないことを気にしていた。
「こんなに遠かったんだね」
女は言った。
「祖母は、こっちを通って嫁に来たって言ってたけど」
俺は返事をしたかった。
口を開けば別のものが出そうだったので、頷いた。
エルナが俺の背へ手を置いた。
「下を見ない方がいい」
「見てない」
「さっき、ずっと靴を見てた」
「自分の靴くらい、自由に見たい」
彼女は少し笑った。俺の見栄に付き合うより、船の先を指した。
岬の黒い岩が、波の上へ出ていた。
鳥が低く飛び、岩へ届く前に風に押し戻される。海面には、見た目より速く横へ流れる筋があった。
サーヴァが短く指示を出し、ユストが応じた。
帆の下の音が変わった。
舟が大きく傾き、油の箱が横へ動こうとした。俺は反射的に掴みかけたが、先に荷留めの綱が張った。箱を押さえるより、自分が転がらない場所へ座る方が必要だった。
「そのまま、そこにいろ」
サーヴァが言った。
俺は従った。
格好をつける暇はなかった。油箱の向こうで、エルナが女の椅子を一緒に支えていた。片脚が袋の上へ乗り、斜めになっている。ユストの声に合わせ、二人で少し向きを変えた。
俺は綱の端を受け取り、指定された所へ結んだ。
結びを見てもらってから、手を離した。
岬を回りきった時、吐き気は減っていなかったが、風は少し弱くなった。
岸には、家が三つ見えた。
一つの屋根から煙が上がっている。短縮された道の図では、目印にもなっていない入り江だった。
今夜は、そこへ泊まる。
俺は初めて、他人の家の煙を、ひどくありがたいものとして見た。
浜へ着くと、俺たちは舟を軽くするため、荷の一部を下ろした。
粉の袋の底が濡れていた。
二重の布で包んだが、波を一度被った時に隙間から入ったらしい。サーヴァは顔をしかめ、濡れた分を分けるよう言った。
「これも、試してよかったことに入れるの?」
エルナが、小さく俺へ聞いた。
彼女の声には皮肉があった。
「入れたくない」
俺は答えた。
「でも、次も同じ積み方にはしない」
俺たちはその家の軒を借り、濡れた袋を広げた。
泊まり賃の代わりに仕事をすればよいという話にはならなかった。家の人にも自分の冬がある。使う薪と食べる物の分を払い、屋根の下へ入れてもらった。
火に近い場所は、椅子を運ぶ女へ譲った。
エルナは靴を脱ぎ、靴下を裏返した。爪先が赤くなっている。俺は自分の布を一枚渡した。
「あなたも濡れてる」
「一枚は替えた」
彼女は受け取り、膝へ掛けた。
夜、外で波の音がした。
眠る場所は狭く、俺が脚を伸ばすとエルナの足へ当たった。彼女は目を閉じたまま、俺の脛を軽く蹴った。
俺は膝を曲げた。
家主が小さな灯りを戸口へ置いた。普通の油灯だった。浜から見えるよう、風を避けた板の後ろに据える。
海へ出た息子がまだ戻っていないのだという。
俺はその灯りを見ていた。
魔法の経路を通らず、舟の上の人間が岸を見つけるための、細い灯りだった。
翌朝、予定より遅く出た。
風が変わるのを待つ必要があった。女は焦れたが、サーヴァは出なかった。俺も、その判断を変えてもらおうとは言えなかった。
日が上がってから、舟は岬の内側へ入った。
低い桟橋に、人が待っていた。
女が立ちかけ、エルナが袖を掴んだ。女は座り直し、岸へ向かって手を振った。
椅子が最初に上がった。
そのあと、女が上がった。
岸で待っていた母親が、椅子を見て怒った。
「持ってくるなって言ったのに」
「あっちで空いてたの」
娘は言い、椅子の座面を拭いた。
俺たちは粉と油を渡した。濡れた分は、隠さず別にした。予定より金も時間もかかったし、荷も少し傷んだ。
それでも、女はここへ帰ってきた。
母親は文句を言いながら椅子へ座り、座ってからもう一度、悪くないね、と言った。




