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忘れ潮の灯台守  作者: Tpump6957
帰りたい岸を選ぶ
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海を閉じた人たち

主照合塔の足元には、使われなくなった荷車の道があった。


今の港から見ると、途中で石壁へ突き当たり、不自然に終わる。夏には草が覆っていて分からなかったが、冬枯れの中では、轍の向きがよく見えた。


ラウゼンは俺たちをそこへ連れていった。


「昔は、この先へ抜けた」


壁の向こうに海は見えない。現在は小さな家が並び、子供の服が干してある。


「開ければ、元へ戻るんですか」


俺は聞いた。


「今ある家の下へ、以前の出入口が来る。水の流れも変わる。全部戻せばよい、では済まない」


彼は近くの戸口へ声を掛けた。


老いた男が出てきて、俺たちを家の裏へ通した。そこには平たい石があり、端へ金属の輪が埋まっていた。男はその輪へ、薪を割る時の台を繋いでいた。


船を留めた輪だと、ラウゼンは言った。


男は頷いた。


「親父の代からこれがある。ここの土を掘ると、いくらでも貝が出る」


男の妻が窓から、土を掘る前に戸の傾きを直せと声を掛けた。


俺は反射的に戸を見た。


ラウゼンも見て、苦笑した。


「彼に見せると、仕事が増える」


塔へ戻ると、エルナが修復した地図を広げた。


一枚の図へ、何度も色が重ねられていた。最初は、帰る船を確かめるための線がある。その上へ、寄り道を短くする線が足された。さらに中央へ名を集める線が入り、枝のいくつかを横切って黒い線が引かれていた。


最初から、今の形を作ろうとした人間はいなかった。


近い岸へ帰す。


長い岬を回らずに荷を運ぶ。


戦の間、相手側の船を通さない。


名の重複を中央で揃える。


壊れた所の修繕が済むまで、そこだけ外す。


一つひとつが、その時には役に立ったのだろう。


エルナは黒い線の下へ薄紙を入れ、浮かせた。


閉じるという字の前に、小さく、仮に、とあった。


その仮の閉鎖は、何十年も図に残っていた。


ラウゼンは黙って見ていた。


「避難が済んでから閉じるはずの所に、人が残ってる」


エルナが言った。


「数は別冊へ送られた。閉じた側の帳面からは消えた」


俺は紙へ指を置かなかった。


あの湾から帰ってきた二十人を思い出していた。俺の叔母たちも、消えた側に暮らしていた。十九という最初の数が、そのまま命の数として残っている間に、二人が死に、三人が生まれた。


その時間は、線が引かれた紙の上では進まなかった。


エルナが広げた次の図には、船の線と別に、土地の名を結ぶ細い線があった。近くの家の人々が、あの岸に誰が住むかを思い浮かべる、その繋がりまで使う古い隔離の仕組みだった。ロスカで読んだ〈境定め〉の控えと、抜かれた金具の位置が合った。


母に妹がいたことと、その妹がセラであることが繋がらなくなった理由を、叔母は話していた。海も同じように切られたのだろうと、俺たちは考えていた。


その、だろう、の部分が目の前にあった。


「道だけを閉じたんじゃない。そこを探そうとする行き先まで、外してる」


俺が言うと、エルナは細い線の先を押さえた。


紙に書いた名前も、家に残った椅子も、消えなかった。だが、そういう物から、そこにいた人へ辿る繋がりが切られた。紙を見つけて知り直せても、失われた家族との体験が戻らなかったのは、そのためだった。


ラウゼンは、今の港の図を隣へ置いた。


「船の出入りを締める線は、こっちだ。古い土地の隔離を、今また動かすつもりはない」


太い接続を辿ると、実際に使う管も別だった。今いる船を帰し、中央への集約を止めるために、家族や故郷への繋がりをもう一度燃やす必要はない。その区別を、俺は現物の位置まで確かめた。


「どうして、そのままに」


聞くと、ラウゼンは窓の外を見た。


さっきの家々が見えた。


「一度閉じたあとに、別の暮らしができた。開け直す工事には金も人も要る。そのままでも中央の荷は動いた。後回しにした者がいて、次の者は、もうそういう地形だと思った」


彼は紙へ目を戻した。


「すべてが事故でも、すべてが悪意でもない。だが、残った人間には理由の違いなど関係なかっただろう」


俺は、彼の言葉を信じかけた。


理解している人だと思った。


そのラウゼンが、次に言った。


「だから、今度は先に行き先を中央へ集める。枝の維持を減らし、こちらを強くする」


エルナの指が止まった。


俺は、彼を見た。


「枝にいる人は」


「使う船を減らす。必要な物は中央から送る。今の全部を残す余裕はない」


「帰ってくる道まで?」


「同じ数の帰り方を残せるとは言っていない」


ラウゼンの声は落ち着いていた。


彼の背後で、冬の光が窓を白くしていた。俺は、さっき掬った粉の小さな山を思い出した。その粉を食べる町を守るため、彼はどの岸を遠くへするつもりなのだろう。


塔の奥で、金属の短い音が鳴った。


イサナのいる部屋からだった。


ラウゼンは顔を上げ、俺たちとの話を切り上げた。急いで廊下を歩く。俺も後を追った。


イサナは台へ片手を置き、もう一方の手を自分の膝へ押しつけていた。


小さな原片の白い筋が、一つ消えるところだった。急な食い違いに備えて、イサナ自身が以前、帰着を合わせた短い感触を封じておいた片だと聞いていた。


来た船の行き先が中央の一覧とずれ、彼女は備えていたその一片を使い、食い違った帰着を合わせていた。海水の全部を支えているのではない。照合の食い違いを、ここにいる一人へ返していた。


船の印が揃った。


イサナは手を離した。


「今日は、このくらいにしておきたい」


彼女は言った。


言い終えてから、窓の方を見た。


次の船は、もう港口へ入っていた。


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