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忘れ潮の灯台守  作者: Tpump6957
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手を離す順番

婚礼の日、俺はエルナの衣服の留めを一つ外した。


終わってからの話ではない。始まる前だった。


肩の後ろの小さな留めが、髪を一筋挟んでいた。エルナは鏡の前で首を傾げ、自分では見えないと言った。俺が指を入れると、金具の端が冷たく、彼女の首の皮膚は温かかった。


「引っ張らないで」


「引っ張ってない」


「痛い」


俺はすぐ手を止めた。


緩めて、髪を抜き、もう一度留める。


エルナが肩を動かした。


「うん。ありがとう」


鏡に、二人が映っていた。


彼女の衣服は明るい色で、飾りは多くなかった。袖の端に細い糸の模様があり、首を動かすたび、髪の下で布が光を変える。俺はその模様を見ていたつもりで、ずっと彼女の首を見ていた。


「何?」


聞かれ、俺は顔を上げた。


「きれいだと思って」


彼女は俺を見て、少し笑った。


「今日は、そう言ってくれると思ってた」


「今日以外も」


「それはまた、その日に聞く」


戸の向こうでミアが呼んだ。


二人とも返事をした。


大勢を遠くから集める式にはしなかった。


村で来られる人が集まり、オルネは朝の便で間に合った。仕事で来られない人の祝いは、包みや短い言葉で届いていた。カザから届いた小さな刃物の包みには、研ぎ代は別と書かれていた。イェトの字で、その下へ線が引かれている。


俺は、それを台所の棚へ置いた。


祝いの席では、母が料理の皿を動かし、ミアが母の手から皿を取っていた。今日は座っていろという話は、三回目でようやく通じた。


父はセラの椅子を、日差しが強くならない所へずらした。


いつもの五脚目の椅子だった。


家から運ぶ時は、脚の下に布を巻いた。借りた椅子の中には同じ高さのものがなく、叔母は長く座る日ほど自分の席がよいと言った。


ロイはエルナの近くに座った。


最初の間は落ち着かなかった。人が多く、普段と違う服ばかりだからだろう。隣で世話を手伝う女が、いつもの器へ水を入れた。ロイはそれを見てから、少し背を椅子へ預けた。


エルナは何度か父のそばへ行った。


俺が気にして目で追うと、一度だけこちらを見て、今は大丈夫、と口を動かした。


村長の前に立つ時、俺たちは手を繋いでいた。


誓いの言葉を長く準備しなくてよいと言われて、俺は助かった。準備すれば、たぶん、必要以上に格好をつけた。自分が守れるかどうかより、聞いた人が頷くかどうかを気にしたと思う。


一緒に暮らす意思を聞かれ、俺は答えた。


エルナも答えた。


筆を持つために、繋いだ手を離す。


その短い間、俺は妙に心細くなった。


エルナが先に名を書き、俺へ筆を渡した。いつも仕事で見る字より、最後の線が少し強かった。


俺はその隣へ自分の名を書いた。


村長が乾くのを待ち、紙を動かした。


終わったのだと分かった時、俺はもう一度エルナの手を探した。彼女の指が先に来て、握った。


祝う声が上がった。


俺は笑っていた。自分がどんな顔をしているか、気にする余裕がなかった。


トマが肩を叩き、アニがエルナへ何かを囁いた。エルナは笑い、俺の手を少し強く握った。何を言われたか聞いても、教えてくれなかった。


食べ物は、足りた。


少なくとも最初は、そう思っていた。


俺が挨拶をして戻る間に、焼いた肉の皿は端しか残っていなかった。自分の祝いなのに、料理を先に取っておかなかったのは失策だった。


席へ戻ると、エルナが小皿を押してきた。


肉が二切れ載っていた。


「取ってくれたの」


「一切れは私の」


俺は頷き、一切れだけ食べた。


少し冷めていた。噛むと脂の匂いが広がった。


ロイが、こちらを見ていた。


俺が器を上げると、彼は小さく頷いた。それからエルナの袖へ目をやり、良い布だと言った。


エルナは袖を見せた。


「ここ、私が選んだ」


ロイが触れる。指先は布の模様を辿り、途中で止まった。


エルナはその手を急かさなかった。


夕方、最後の皿を返し終えると、二人だけになった。


借家の戸を閉める。


今朝まで空けていた床に、花びらが一枚落ちていた。誰かの服に付いてきたものだろう。俺は拾い、窓の縁へ置いた。


エルナは椅子へ座り、靴を脱いだ。


「疲れた」


「僕も」


俺は隣へ座った。


彼女は背を伸ばし、また首の後ろへ手を回した。


「今度は、全部外して」


留めの話だった。


俺は指を伸ばした。朝より、少し手が不器用になった気がした。彼女はそれに気づき、声を出して笑った。


金具を外すと、肩の布が緩んだ。


エルナが振り向き、俺の頬へ口づけた。俺が顔を寄せると、今度は逃げずに受けた。


椅子の背へ俺の肘が当たり、木の音がした。


「家が狭い」


俺は小さく言った。


「だからって、今日、引っ越さないよ」


俺たちは笑い、立ち上がった。


部屋の灯りを落とす前に、エルナが窓を確かめた。俺は火の蓋を閉じ、水の器を寝台のそばへ置いた。


彼女が俺の手を取った。


今度は、筆を持つために離す必要がなかった。


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