払ってから欲しくなるもの
村への最後の支払いをした日、俺は菓子を買った。
財布が軽くなった祝いに、さらに財布を軽くするという、理屈の整わない行動だった。それでも、帰り道の匂いに負けた。焼いた粉と蜂蜜は、人間の長期的な計画に強い。
支払いの席は、驚くほど短かった。
以前の残りを見て、今回の金を数え、最後の印を入れる。俺が持っていた控えの後ろへ、もう次の線を足さなかった。
長いこと、給金を受け取る前から一部が出ていく暮らしだった。
終わったと言われても、すぐには実感が来なかった。帰り際に、次はいつ来ればいいですかと聞きかけた。
村長は、戸口で俺を見た。
「次は仕事があれば呼ぶ。窓が鳴ってるからな」
感動的な余韻は、窓の仕事へ負けた。
俺は戸を見上げ、後日来ると言った。
あの夜、避難した人の夜が戻ることはない。アニの掌の傷も、金が揃ったから消えることはない。それは支払いのたびに説明し直す必要のない、目の前にあるものだった。
終わったのは、村へ払うこの分だった。
菓子は、エルナの家へ持っていった。
「全部食べる?」
彼女は包みを開いて言った。
「ロイの分も」
「じゃあ、これは私」
彼女は焼き色の強い端を取った。
俺は、その皿の横へ別の封筒を置いた。
ロイへの支払いだった。こちらは残っている。道具の取り分と給金を今のように続けられれば、あと数回の支払いで終えられる見込みだった。多くても一年はかけずに済みそうだと、オルネと一度確かめてある。
婚礼の費用を使えば、少し遅くなる。
俺はそのことを言った。
エルナは菓子を置いた。
「大きい式にしなくてもいい」
「僕も、そこまで大きいのは」
「窓が六つある家くらい?」
俺は黙った。
彼女は笑い、菓子を少し割った。
「服は、ちゃんと選びたい。着たことを、あとでも覚えていたいから」
俺は頷いた。
彼女が欲しいことを一つ言うと、俺にも言いやすくなった。
「食べ物は、少なくしたくない」
「あなたが食べる分?」
「招いた人の分。僕のも含めて」
エルナはもう一度笑った。
祝いの準備は、そこから急に現実になった。
借家の長机を削る日が決まり、寝台を運ぶ人が決まり、俺の服の袖が短いことが判明した。袖が短いと分かったのは母に着て見せたあとで、最初に見た時点で分かってくれてもよかったと思った。
「あんたが、これでいいって言ったんでしょう」
母は針を持ったまま言った。
「前は合った」
「前より腕が動く仕事をしてるから。立ってるだけなら、それでいい」
俺が腕を上げると、肩まで引っ張られた。
一日中、不自然に礼儀正しい姿勢を保つ婚礼になりそうだった。
ミアが後ろから布を引き、これなら脇で直せると言った。セラは低い椅子へ座り、俺の情けない姿を楽しそうに見ていた。
父だけは、今のままでも十分だと言った。
その父の服は、母が三日前から直していた。
新居には、トマが寝台の片側を担いで来た。
戸口で曲がりきらず、一度出して向きを変える。俺が先に入ろうとすると、彼は逆だと言った。
「こっちの脚が長い。先にそれを入れる」
「夫になると、こういうのが分かる?」
「寝台を運ぶと分かる」
俺は持ち直した。
午後には、エルナが青灰色の小鉢を持ってきた。
口が少し歪んだ、俺の部屋の棚に置いていた器。布を解き、新しい棚の奥へ置いた。今度も、指の入る余裕を残した。
彼女は一度出し、もう一度置いた。
「ここがいい」
俺は横へ木の鳥を置いた。今日は新しい家へ連れていく、とロイへ話すと、紐の緩みに気をつけろと言って貸してくれたものだった。
「鳥は高すぎる」
「首が伸びるから?」
「落ちたら、またお父さんに叱られる」
俺は一段下へ移した。
まだ誰も寝ていない家で、何をどこへ置くかだけが、次々決まっていった。
戸を開けると、夕方の冷たい空気が入った。
エルナが少し肩を上げ、俺へ寄った。
「今日、ここで食べて帰ろうか」
彼女が言った。
俺は頷き、火を起こすために袖を捲った。
直してもらった袖は、今度はちゃんと肘まで上がった。




